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《モコンさんの庭》ぼくのセルアニメ業界現場 WORKS Memo:Events 11・『妖精王』1988年

原作者が山岸凉子氏といえば少女漫画家としては大御所ですし、しかも山岸凉子氏原作としては初のアニメ化ということもあり、かなり緊張しました。

なんたる偶然かぼくがこの作品の担当に決まる前に、『妖精王』の単行本は当時手に入った全4巻の角川書店のものをすでに読んでいました。

OVA版は原作全4巻の全てを60分弱という時間で入れ込むのはとても無理なので、テーマを「信頼」に絞ってみました。その上最低限のキャラクターと原作からのテーマに沿ったエピソードが不自然でなく繋がるように構成し金春智子氏が見事に脚本としてくれました。

冒頭のシーンがそのテーマとなっています。この静かなシーンで中村由利子氏ピアノの曲を使いこの物語の雰囲気をあらかじめ観客に提示する場面ということでもあります。
原作の線は繊細かつ細やかなので、過剰な動きはかえって作風をそこなうと思い、あえてキャラクターの動きや芝居を抑えてあります。ただプックだけは動かしても雰囲気をそこねないキャラクターなので普通の動きとしています。

この秘密は絵コンテの緻密さにあります。自分でラフ絵コンテを描き終えたときに、イメージを重視するには自分の描いた絵では無理だと思い、友人の稲野義信氏に絵コンテの清書を頼みました。稲野氏は作画監督もでき、キャラクターデザインやイラストも描けるのでお願いしたところ、やはり素晴らしい絵コンに仕上げてくれました。稲野氏曰く「大変だった」なのですが、この絵コンテで静と動の描き分け、イラスト調の止めの使い方などが具体的になりました。

音楽をどうするかが真っ先に浮かんでいました。折しも1980年代ニューミュージックという新しい音楽の波がきていて、ウィンダム・ヒル・レコードのジョージ・ウィンストン氏のソロピアノのような自然回帰の曲を多く聴いていました。

メロディの美しさやイメージの膨らみに『妖精王』が合うのがと思い、原作のキャラクターや構図のよいコマをコピーしてコラージュしたものを撮影してもらいました。音楽を決める打ち合わせの段階でこのラッシュを観て貰い、ジョージ・ウィンストン氏やパトリック・モラーツ氏、ヤニー氏などをBGMに流したところ、音楽プロデューサー蛭田とみ代氏より中村由利子氏はどうでしょうかとサンプル音源を聴かせていただきました。そこで中村由利子氏に決まりました。

中村由利子氏はライブの際にお客様からお題をいただき、その場でお題のイメージを即興で短い曲を創るパフォーマンスをしています。『妖精王』ではイメージ・サウンドトラック・アルバムとしてというより単独でも聴けるアルバムになったと思います。

しかし、作中では中村氏が作曲した曲だけでは足りないのと、ソロピアノだけでは映像にのらないシーンがあるので都留教博氏にBGMをつけていただきました。なるべく全体に薄く音楽を入れたいという思いがありました。原作の透明感を活かすために背景の色合いとキャラクターの色調を抑え気味にして落ち着きのある画面を意識していますので、BGMもアコースティックギター、ヴァイオリン、オーケストレーションなどとバリエーションを豊富にし画面に合うようにしていただきました。

止め絵のときのイメージの参考にと、『妖精王』関係の山岸先生のイラストをお借りしました。ただ観て参考にするのも勿体ないと思い、すでに上がっていた妖精王のテーマ曲をもとにイラストだけをカメラワークや中O.L.ダブらしなどの撮影テクニックで撮影してもらいました。これは本編には使わないフィルムでしたが、ダビングの最終日に丸山氏社長がこのフィルムのことを思い出し、これを最後に入れてオマケにしたらと提案。曲はもう決めてあったのでその場ですぐに編集し音楽と合わせて試写すると、丸山氏、音響監督、中村氏、都留氏、音響スタッフから拍手。

実はこのお借りしたイラストは本物なので保管に気を遣いました。万が一盗まれたり汚されたりしたら問題ですので、撮影した後で返却できたときホッとしました。やはり原画の実物は繊細で色味が素晴らしいです。

『妖精王』初号試写のときには原作者の山岸凉子氏もお見えになりました。山岸先生はお着物でお見えになり、落ち着いた色の上品な色合いで着こなしもさすが、本当に似合っていました。お忙しいとかで試写後すぐに帰られてしまいお話できなかったのが残念です。

この初号の後日、角川書店から発行されていた「ASUKA(あすか)」に数名の女性漫画家による『妖精王』の試写会の感想にこのオマケは必見という意見がありました。
『妖精王』OVA作品ながら短編として短期間劇場公開されています。

・東京地区
12月6日~12月12日中野武蔵野ホール

・大阪地区
12月10日~
12月16日
千日会館

(初回のLDにつくライナーノートはぼくが書きました。)

※LDジャケット

LD

※パンフレットをスキャンしたものです。

パンフレット
パンフレット

※本稿はぼく個人のセルアニメ業界での実体験をもとにした記録です。当時の資料としてご覧いただけたら幸いです。個人名は当時の状況を踏まえ実名で記しております。関わってくださった皆さまに心より感謝いたします。

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