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第41話(今宵の一曲)WAVE ― 眠れない夜に寄り添う心地よい波のリズム

静かな夜に

なぜか眠れない夜。
 ただ静かに時間だけが流れていく。
そんな夜にふと手を伸ばすアルバムがある。
「Bossa Nova Romance: One Hour Of Bossa Nova Style, Romantic Music」だ。 新宿駅東口から近いタワーレコードでこのアルバムを見つけた。

アストラッド・ジルベルトの The Girl from Ipanema という曲が好きだった。
これがボサノヴァとの最初の出逢いだった。
Ipanema とは美しい海岸の名前ということを後で知った。

この出逢いの後、ボサノヴァには “フレンチボッサ” と呼ばれるジャンルがあることを知り、 クレモンティーヌが好きになった。
どうも日本人の男性は昔からフランスの女性に惹かれるらしい。
そんなところがある。

話を戻すが、 このアルバムの最初に収録されている「Wave」。
たくさんの歌手がこの曲に共鳴してカバーを出している。
それが、ボサノヴァの名曲ともいわれる「Wave」。

波のように寄せては返すメロディ。
深夜の静けさと呼応するように、 心の奥のざわめきをそっと撫でていく。

今宵は、この「Wave」という名の音楽が描く、 三つの夜の記憶を辿ってみることにした。

1. ボサノヴァという音楽 ― リオの海風が生んだ静かな革命

ボサノヴァは、1950〜60年代のリオで生まれた。
サンバのリズムを基調にしながら、
ささやくような歌声、
乾いたギターのアルペジオ、
そして“静けさ”を美学とする音楽だと思う。

夜の深さ、
海風の柔らかさ、
都会の孤独を抱きしめるような音。
その静かな革命の象徴が、アントニオ・カルロス・ジョビンが作曲した「Wave」。

波は決して大きくはない。
ただ、寄せては返す。
その揺らぎが、眠れない夜の心の速度とよく似ているような気がする。

2. アルバム『Bossa Nova Romance』の風景

このアルバムのジャケットに広がるのは、 夕暮れのリオの海岸線。
青のグラデーションに沈む街の灯り。
“ロマンティック”という言葉が過不足なく収まる世界。

このアルバムの中で聴く「Wave」は、 夜の海風のように柔らかく、 静かな深夜にそっと寄り添ってくれる。

眠れない夜に、ふと再生ボタンを押すと、 部屋の空気が少しだけ海に近づく気がする。

3. シンガポールのリッツカールトン・ミレニアで出会ったオリビア・オンの “Wave”

以前出張で滞在したシンガポール。
その夜、リッツカールトン・ミレニアの 1 階にあるラウンジは、 磨かれたガラスと静かな照明がつくる都会。
そう、シンガポールのオアシスのような空間だった。

シンガポール特有の、肌に薄いヴェールがかかったような柔らかい空気が ゆっくりと身体にまとわりつく。
手には、鮮やかな赤が印象的な シンガポールスリング
チェリーブランデーの香りがふわりと立ち上がり、 氷がグラスの内側を静かに転がる音が、 遠くで小さく響いていた。

そんな夜の中で、ふと流れてきたのが オリビア・オンの “Wave” だった。

一緒にいたゲストが、 「歌っているのはシンガポール出身のオリビア・オンですよ」 と教えてくれた。 その一言で、ただの“心地よい曲”が、 名前を持った“記憶の音楽”へと変わった瞬間だった。

彼女の声は、ボサノヴァの「Wave」とはまったく違う。 透明で、少し湿度を帯びていて、 シンガポールの夜景にぴたりと寄り添う波の形をしていた。

今も忘れられない “Wave” の記憶になっている。 眠れない夜に聴くと、 あのラウンジの空気が、そっと戻ってくるから不思議だ。

4. 角松敏生の “Wave” ― まったく別の海を描く曲名の偶然

同じ「Wave」という名を持ちながら、 角松敏生の “Wave” はまったく別の海を描く。

昔付き合っていた彼女が好きだったのが、この曲だった。
彼女と海岸線をドライブすると、決まってこの曲をかけていたような気がする。

角松らしいアーバンな疾走感。

ボサノヴァの波が“寄せては返す”静かな揺らぎなら、 角松の波は“前へ進む”力を持っている。

波――Wave という言葉が、 こんなにも多様な表情を持つことに気づかされた。

5. 三つの “Wave” が重なる夜

リオの海。 シンガポールの夜。 東京の静かな深夜。

三つの “Wave” が、 記憶の中でゆっくりと重なり合う。 それぞれ違う波の形をしているのに、 どれも眠れない夜に寄り添ってくれる。

波はいつも同じ形ではなく、 その夜の心の状態によって見える姿が変わる。 だからこそ「Wave」という名の曲は、 夜にふさわしいのかもしれない。

6. 今宵の締めくくりに

静かな夜に、
音楽は波のように寄せてくる。 そして、そっと心を撫でていく。

眠れない夜に、 「Wave」という名の曲を聴くと、 過去の夜がふと蘇り、 今の夜が少しだけ柔らかくなる。

今夜もまた、静かに波が寄せてくる。 その波に身を任せながら、 ゆっくりと夜を渡っていく。

たまにはBossaと過ごす夜というのもいいと思った。

今宵、静かな夜の時間を楽しむための小さな手がかりとして

ラッフルズホテル・ロングバーのシンガポールスリング画像

シンガポールを代表するカクテル
シンガポールスリングはこのラッフルズシンガポールホテルのロングバーで生まれた。

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