京都ミステリースポット紹介。幽霊が我が子のために飴を買い続けた夜――西福寺と「幽霊子育て飴」の真実
京都・東山。清水寺からほど近い松原通にある轆轤(ろくろ)町。
一見すると静かな町並みですが、この場所は京都でも指折りのミステリースポットとして知られています。
実は轆轤町一帯は、平安時代以前から「鳥辺野(鳥辺山)」と呼ばれた巨大な葬送地。亡くなった人々が運ばれ、埋葬され、ときには風葬も行われた「あの世とこの世の境界」とされた土地です。
さらに近くには、冥界への入口と伝わる「六道の辻」。
そんな場所だからこそ、数え切れないほどの怪談や伝説が生まれました。
今回紹介するのは、その中でも京都で最も切なく、そして最も優しい怪談。
「幽霊子育て飴」と西福寺の子育て地蔵です。
毎晩、一文だけ持って現れる女
時は慶長4年(1599年)。
現在も営業を続ける老舗「みなと屋」に、毎晩決まった時間になると一人の女がやって来ました。
女は何も話さず、一文銭一枚だけを差し出して飴を一つ買って帰ります。
それだけなら何の変哲もありません。
しかし店主には、一つだけ気になることがありました。
翌朝、銭箱の中を見ると、一文銭と一緒に必ず**「しきみの葉」**が入っているのです。
しきみは墓前に供える植物。
なぜ毎回、墓の花が入っているのか…。
店主は不気味に思い、その夜、女の後をつけることにしました。
女が消えた場所
月明かりだけが照らす鳥辺野。
女は墓地へ入り、一つの墓の前で立ち止まると…
スーッ……。
まるで霧のように墓の中へ消えてしまいました。
その瞬間。
墓の中から、
「おぎゃあ……おぎゃあ……」
赤ん坊の泣き声が響いたのです。
あまりの恐怖に店主は逃げ帰りました。
墓から現れた奇跡
翌朝。
昨夜の出来事が忘れられず、店主は西福寺の住職と共に墓を掘り返しました。
すると…。
中から現れたのは、白骨化した女性の遺体。
そして、その傍らには――
飴をくわえた赤ん坊。
女性は妊娠中に亡くなり、そのまま土葬されたのでしょう。
埋葬後に赤ん坊は生まれ、母乳を与えられない母は幽霊となって、我が子を生かすため毎晩飴を買い続けていたのです。
怖い話のはずなのに、涙が出そうになる…。
京都の怪談は、恐怖だけでは終わりません。
そこには必ず、人間の情があります。
赤ん坊は立派な高僧になった
助け出された赤ん坊は、みなと屋で大切に育てられました。
やがて8歳になると寺へ入り、後に立派な高僧になったと伝えられています。
だからこの飴は、ただのお菓子ではありません。
母の愛が命をつないだ証。
それが「幽霊子育て飴」なのです。
創業450年以上の老舗「みなと屋」
現在のみなと屋は20代目店主・段塚きみこさんが暖簾を守っています。



実際に訪れると、とても気さくで話しやすい方。
写真撮影にも快く応じてくださるので、ぜひ思い出の一枚を撮ってみてください。
飴の試食もできるのが嬉しいところ。
味はどこか懐かしい琥珀色の飴。



私には黄金糖によく似た優しい甘さに感じました。
そして驚くことに、この飴の大ファンだったのが漫画家・水木しげる先生。
生前、ふらっと買いに来られていたそうです。
さらに、この「墓から生まれた赤ん坊」の伝説は、『ゲゲゲの鬼太郎』誕生の着想の一つになったともいわれています。
怪談好き、妖怪好きなら一度は訪れておきたい聖地です。
西福寺の子育て地蔵
みなと屋の向かいにあるのが西福寺。
ここに祀られているのが有名な子育て地蔵です。



嵯峨天皇の皇后が、病弱だった皇子(後の仁明天皇)の健康を願って祈願したところ、無事に成長したことから「子育て地蔵」と呼ばれるようになったと伝えられています。
子どもの健やかな成長を願う人々が、今も多く訪れるお寺です。
一年に一度だけ現れる「地獄」
西福寺には、普段は公開されない秘宝があります。
それが九相図と地獄絵図。


九相図とは、人が亡くなってから朽ち果てるまでを九段階で描いた、生と死を見つめる仏教絵画です。
そして地獄絵図は、罪を犯した者が地獄で受ける責め苦を生々しく描いたもの。



初めて見たときは、本当に鳥肌が立ちました。
美しい京都のイメージとは真逆の世界。
ですが、それこそが京都という街の奥深さなのです。
例年、お盆の精霊送りの時期に特別公開され、写真撮影も可能です。
公開時期は年によって変わるため、訪問前に確認することをおすすめします。
京都は怖い。でも、優しい。
京都の怪談は、ただ人を驚かせるための話ではありません。
子を思う母の愛。
命を救った人々の優しさ。
命の終わりを見つめる仏教の教え。
そのすべてが、この小さな町に詰まっています。
轆轤町を歩いていると、昼間なのにどこか空気が違う…。
そんな不思議な感覚になるかもしれません。
でも、もし夜道で飴を買って帰る白い着物の女性を見かけても…。
どうか後をつけないでください。
その先は、この世ではないのかもしれませんから。
※追伸。
もちろん私も「幽霊子育て飴」は大好きです。
また食べたくなったので……
「バブ~~~! 飴くだしゃいでちゅ!」

……いや、赤ちゃんになっても、夜中にお墓から買いに行くのだけは遠慮しておきます(笑)。

