お気に入りのカフェ①
最近、カフェ巡りにハマっている。カフェは良い。落ち着いた静かな空間でゆったりできる。コーヒーの良い匂いもするし、空調が効いている。読書も、書き物もできる。お金もそんなにかからない。そして、人が温かい。
この記事も、カフェで書いている。最近買ったタブレット端末に、キーボード付きのカバーを付けて、持ち運んでいる。
私の家から最寄りのコンビニまで車で10分かかるというのは、何回か書いてきた。家から最寄りのカフェもまた、車で10分かかる。というのも、コンビニとカフェが併設しているからだ。
生まれてから大半の時間を、この地で過ごしてきたというのに、つい最近までそのカフェに行ったことが無かった。
まあ、隣のコンビニにすら、一人で訪れたのは18歳の夏だったのだから、機会がなければ訪れないのも当然かもしれない。車がなければ行こうとも思わない距離だ。
コンビニに行くとき、隣のカフェの駐車場を見ると、大体いつも満車だった。だが、この日は一台も停まっていなかった。休みなのかな。気になったので、確認することにした。一応、コンビニの駐車場から、カフェの駐車場に車を移動させる。車に鍵をかけ、ドアの前まで行ってみる。営業中の看板がぶら下がっている。なんだ、やってるじゃん。一瞬、気になったことは解決したので帰ろうかとも思ったが、せっかくドア前まで来たら、今度は目の前のカフェに興味が湧いてきた。次の瞬間、私はドアを開けていた。
小さな一軒家のような外観。木製のドアには、客の入店を知らせるベルがついている。ドアを開けると、一畳ほどの小さいスペースに出る。まず目に入るのは、正面に設置されている、本日のメニュー表。左側には、天井まで届く本棚には、漫画や雑誌が所狭しと並んでいる。右側には、さらにもう一枚木製のドアがある。
ドアを更に開けると、コーヒー豆の袋がずらりと並んでおり、豆の香りが充満している。天井は高く、シャンデリアのようなオレンジ色の照明がぶら下がっており、雰囲気が良い。店内には、複数のテーブルとイス、それからカウンターが配置されている。カウンターの上には、名前は知らないがコーヒーを淹れるための道具が並び、奥にはコーヒーカップが壁一面に飾られている。それから、隅の方にピアノが置いてある。誰か演奏するのだろうか。
カフェの店員は、中学時代の友達の母親だった。私は、店に入ったとほぼ同時に気がついたが、話しかけなかった。半ば、私のことを忘れていてほしいとすら思っていた。なんとなく気まずかったし、平日の昼に訪れてしまったのが良くなかった。私は今、休職中なのだ。このことを話したら、せっかく周りには隠しているのに、拡散されてしまう恐れがあった。何も考えずに入ったことを後悔した。
こんなことを考えていると、そのカフェの店員が話しかけてきた。「KATEくんじゃない!久しぶり〜 とりあえず席について」と、流れるように席に案内された。
「お久しぶりです。初めて来たんですけど、ここで働いてらっしゃったんですね。」「そうなのよ〜、大丈夫、他の子も一度もここに来たことないから」と、笑いながら彼女は言った。やっぱり、みんなそうなんだ。成人式以降連絡を取っていないかつてのクラスメイトたちに、少し安心感をおぼえた。
メニュー表をもらい、一通り目を通した後、アイスコーヒーを頼む。「はーい、アイスコーヒーね。ちょっと待っててね〜」と言いながら、カウンターに戻っていく。
良かった。平日の昼間に、一人でカフェを訪れたことついては、触れられなかった。もしかしたら勘付いているかもしれないが、触れられるのと、触れられないのとでは、この後の時間を過ごす心理的安全性が全く異なる。少し、自意識過剰だったかもしれない。とにかく、彼女がそのことに触れなかったことに感謝しつつ、私はバッグに入れていた小説を取り出し、読み始めた。
数分して、アイスコーヒーと、パンケーキが運ばれてきた。「あの、これ頼んでないですよ」と私が言う前に、「甘いの大丈夫?」と聞かれた。「あ、ハイ。大丈夫です。え、これ…」「サービスだよ!」「良いんですか?ありがとうございます、いただきます」ニコッと笑い、彼女は振り向いてカウンターに戻っていった。
小説を読み進めながら、時折、パンケーキを食べ、アイスコーヒーを飲む。素晴らしいサイクル。何サイクルか繰り返したころ、木製のドアについているベルが、カランコロンと鳴った。
高齢の女性が入ってきて、店員と慣れ親しんだ様子で挨拶を交わした。ピザとコーヒーを注文したようだ。
その後も、客は次々と入ってきた。ほとんどが、年配の方だった。先程までは優雅な音楽が流れていただけの店内が、ものの十数分で話し声で賑やかになった。どうやら、閑散としていたのはたまたまだったらしい。そりゃそうか、普段満車だもんな。私は静かな場所が好きなので、少しだけ残念だったが、読書をするのに支障が出るほどではなかったので、その章を読み終わるまで滞在した。
パンケーキの最後の一切れを食べ、氷が溶けて水っぽくなったコーヒーを飲み干し、席を立った。カウンターに向かい、会計をする。「パンケーキ美味しかったです、ありがとうございました。おいくらですか?」と聞くと、「お代は結構よ。」と返ってきた。「え、いやでも、パンケーキもサービスしてもらっちゃいましたし、コーヒー代くらいは払わせてください!」「良いの良いの。来てくれてありがとね!」「良いんですか?すみません、また来ます」と、結局ご馳走になってしまった。
絶対、次こそはお金を払わなければ。
人との関わりに疲弊していた私だったが、少しだけ、人の温もりを感じることができた。だから私は、カフェが好きなのだ。
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