『科学コミュニケーションの再構築——連帯志向の専門知へ』 著者による紹介
内田麻理香著『科学コミュニケーションの再構築——連帯志向の専門知へ』(勁草書房、2026年3月21日、ISBN:4326701374)の、著者による紹介ページです。
この本について
社会に不可欠でありながら、科学コミュニケーションの実践は時に緊張を生む。誰もが安心して科学について語ることができる空気を作るにはどうしたらよいか? 欠如モデルの再検討を出発点に、差別的な態度の問題を指摘し、誰もが担い手となる視点を導入することによって、連帯志向の科学コミュニケーションとして再構築を図る。
科学コミュニケーションとは何だろう?
科学コミュニケーション/サイエンスコミュニケーション、という言葉にはどんなイメージを抱くでしょうか。初めて聞いた、という方もいるかもしれませんし、興味を持っている方、既にその活動に携わっている方もいるかもしれません。
想像しやすいのは、「科学のことがわからない人に、科学について教えること」「でんじろう先生や、さかなクンのようなエンターテインメント」あたりでしょうか。確かにそれも科学コミュニケーションに当てはまりますが、それだけでは全体像をつかむことができません。
科学、そして技術は、私たちの暮らしになくてはならないものです。しかし、専門知としての科学は、社会の中で適切に用いられているとは言えない状況です。最近では、陰謀論など科学不信ともいえる問題も浮き彫りになっています。
科学コミュニケーションという分野は、このような問題を考えるために発展してきました。しかし、その旗の下には実にさまざまな人が集まっています。科学の魅力を伝えたい人、科学技術をめぐる社会問題に取り組みたい人。それぞれが異なる目標を掲げているため、同じ「科学コミュニケーション」という言葉を使っていても、ときには価値観の違いや対立も生じます。だからこそ、本書では、それぞれの活動目標を超えた、より大きな目標を掲げることにしました。
「教える」だけでは解決しない
本書が提案するのは、科学コミュニケーションを「残酷さを回避し、社会的連帯を広げる営み」として捉え直すことです。こう聞くと、「いや、社会で起こっている問題は、科学を知らない人が多いせいでは? そのために無知な人に知識を与えるのが科学コミュニケーションでは?」と思われるかもしれません。
しかし、このように問題の原因を非専門家の知識不足に求め、知識を与えることで解決しようとする考え方は、「欠如モデル」と呼ばれています。もちろん、学校教育などで知識を伝達することは重要です。しかし、それ以外の場面においても、つい「知らない人に教えれば問題は解決する」と考えてしまう発想は、科学に限らず「あるある」です。科学コミュニケーションの分野では、この発想がさまざまな問題を生み出してきたとして、乗り越えようとする試みが続けられてきました。
その結果、多くの場面で掲げられたのが、「一方向的に教える」のではなく、「双方向に対話する」ことを目指そう、という目標です。しかし、「双方向」を理想としたことで、コミュニケーションの形式ばかりが重視されるようになりました。
本来、欠如モデルが問題としていたのは、非専門家を非合理的な存在と見なし、見下す態度そのものです。しかし、形式を重視するあまり、この見下しの態度は十分に問い直されないまま温存されてきました。
誰もが安心して科学についておしゃべりできる社会へ
そこで本書では、一方向か双方向といったコミュニケーションの形式ではなく、どのような態度で向き合うべきか、という観点から科学コミュニケーションを捉え直しました。それは、非専門家を見下さず、残酷さを避ける態度です。そして、そのような態度が広がることで実現を目指すのが、「社会的連帯を広げる科学コミュニケーション」です。
本書が提案するアプローチは、「誰もが安心して科学についておしゃべりできる空気をつくること」です。そのような社会では、科学は誰かを言い負かしたり、排除したりするための道具にはなりません。科学は、人と人とをつなぐための専門知、ともに生きるための基盤になるはずです。
本書を通じて考えたいこと
あなたは、科学コミュニケーションを通じて、どのような社会を実現したいでしょうか。本書が、その問いを一緒に考えるきっかけになれば嬉しいです。
まえがき
版元の勁草書房のページに、本文の「まえがき」が公開されています。→PDFのダウンロード
こんな方に読んでほしい
科学コミュニケーションに興味がある方、学んでいる方
科学館・博物館、大学・研究機関、行政、メディアなどで科学に関わる仕事をしている方
専門知と社会の関係に関心のある方
「正しさ」を伝えるだけではない、専門知の活かし方について考えてみたい方
メディアによる紹介
インタビュー動画
【YouTube】「著者が語る」【内田麻理香が語る】なぜ「正しさ」だけでは伝わらないのか
本書の内容について、日常の言葉でざっくばらんにお話ししました。本を開く前に概要を知りたい方、ながら聴きしたい方はぜひご覧ください。
インタビュー記事
↑の動画インタビューの内容の記事になります。文字派の方はこちらを。
