6/16(火)「愛の乞食」とは誰なのか?
昨日の続きです。名作『愛の乞食』のタイトルについて考えてみます。
「愛の乞食」とは誰なのか。まず、「一本足の憲兵」こと「シルバー」が「愛の乞食」なのだと私は考えます。自らが殺してしまった「万寿シャゲ」の名を叫ぶ終幕が、そのことを端的に裏付けています。
それに、「シルバー」は劇中では、肩の「オウム」の声を借りて、「小春」の名を唱えることもありました。
つまりこうなのです。「シルバー」は、自分を慕う女房「小春」を捨てて、もう一つの海を探す旅に出た。また、「シルバー」は自分を慕う「万寿シャゲ」の首を絞めて殺した。が、後悔はいつも後にやってきて、結局はその二人の名前を叫んで世界を彷徨うことになった。だから、「愛の乞食」的です。
自業自得といえばそうですが、自分が捨てた相手への強烈な愛情に気づいて後悔に苛まれる、世界の名作としてはプーシキンの『オネーギン』と同じ構造です。
また、「愛の乞食」ということば自体、唐さんは前年に書いた『少女仮面』で「少女・貝」に言わせたのを気に入って、翌年に上演する劇のタイトルに転用した経緯から考えると、『嵐ヶ丘』における「ヒースクリッフ」と「キャサリン」の一筋縄ではいかない愛憎関係が、「シルバー」と「小春」、「シルバー」と「万寿シャゲ」に転用されたと考えられます。
時代を超えて、殺してしまった「万寿シャゲ」を求め、世界を彷徨う「愛の乞食」=「シルバー」。そういうエンディングです。
一方、オンライン本読みに参加している方のなかには「万寿シャゲ」が「愛の乞食」なのではないか、という意見を持つ方もいました。これにも理があります。何しろ、時代を超えて歳もとらず、少女として「一本足の憲兵」を待ち続けている。そういう存在だからです。
具体的に、現在の私には次の2パターンのエンディングが思い浮かびます。両方、テント公演を想定すると、
1.最後に登場する「一本足の憲兵」がテント背後の幽霊船に乗り、「万寿シャゲ」の名を叫びながら愛を求めて彷徨う
2.最後に登場する「一本足の憲兵」はステージ前面に出て、「万寿シャゲ」の名を叫び、テント後方を行くのは「万寿シャゲ」である。
これは、どちらも理にかなっていると考えます。1は「憲兵」の孤独を強調します。2は、「憲兵」と「万寿シャゲ」がすれ違って結ばれることのない関係性をあぶり出します。
「愛の乞食」は一人か二人か。どちらが良いか考えてみてください。
いずれにせよ、『ジョン・シルバー』『続ジョン・シルバー』『愛の乞食』『あれからのジョン・シルバー』という連作のなかで、『愛の乞食』だけは「シルバー」を描き、他の3本は「小春」を描きます。「小春」を主軸に置いたシリーズのなかで、一本だけ「シルバー」の側から見た物語をつくった。そういう意味で、私は『愛の乞食』をスピンオフと捉えています。

次週6/21(日)からのワークショップのご案内!
ZOOMオンラインワークショップ
『ガラスの少尉』を読み解く(全6回)

第1回 6月21日(日)19:30〜21:30
第2回 6月28日(日)19:30〜21:30
第3回 7月12日(日)19:30〜21:30
第4回 7月19日(日)19:30〜21:30
最終回 7月26日(日)19:30〜21:30
【あらすじ】
ガラス工場に勤務する、何の変哲もない少女ミノミ。彼女は旅行へ向かう飛行機の中で、シャンプー会社のCMガイに声をかけられる。言われるがままに振り向いた時から、その男につきまとわれることになる。街角に、音楽喫茶に、工場の入口に・・・。そしてその奇妙な尾行劇は、一発の銃弾によって導かれ、男の過去へと至ってしまう。
