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推理探偵|なぜ一流のビジネスマンは表舞台から消えたのか~エリート社員が行方不明になる謎を解く

私は「アームチェア・ディティクティブ」を休日の趣味としている。日本語なら「安楽椅子探偵」。現場に行くことなく、事件を解決する探偵だ。



エリート会社員が姿を消す理由とは?

全国の⾏⽅不明者は年間8万人以上、うち80~90%は発⾒されるが、⾒つからない⽅は年間1000~2000⼈に及ぶと⾔う。

⾏⽅不明になった⼈のうち、⾃ら失踪した方は、どんな理由で⾏⽅をくらましてしまったのだろうか︖ その⼈⽣には、どんな悲劇が訪れたのか︖

現在の⽇本は、⻑引く不況が影を落としているとはいえ、世界レベルでみれば、経済⼤国である。それでも事業不振・多重債務・生活困窮・認知症といった理由で自ら失踪する人達がいる。それは苦渋の決断だったはずだ。

しかし、それらの問題とは別に、一見、順風満帆の人生を送っているような一流のエリート会社員であっても、突如として姿をくらましてしまうケースがある。

この⼈たちは、どんな理由で世間から⾝を潜めてしまったのだろうか︖
ある⽇、突然に表舞台から姿を消し、すべてを投げ出さずにはいられなくなる。そこにはどんな理由があるのだろう。

エリート会社員が突然に姿を消したくなる理由として、考えられることはたったひとつしかない。

それは、会社でウンコを漏らしたやつだ︕︕

⼤⼈として、これほどの悲劇はない。頭の中で状況を浮かべるだけでもツラい。しかし、だからこそ想像⼒と推理⼒を駆使してその状況をシミュレートすることにした。これは、エリート会社員が社会から消えていく謎への挑戦である。

まず、できるだけリアルに想像を働かせるために、主人公の名前を決めておこう。名前はと…そうだ、 ⼭本にしよう。 この前、オレのズボンのサイズをめちゃくちゃデカく測りまちがえた店員さんの名字だよ︕

主⼈公の名前は決まった。私はティーポットから、お気に入りのカップにダージリンを注ぐと、アームチェアに深く腰掛けて、思考の海に深く潜航していった。


失踪のトリガーが引かれるとき

この世界では、⼭本は⼀流企業に勤めるエリート会社員だ。彼は入社以来、出世街道を順調に歩んでいる。

その⽇も、水色の洒落たスーツを着た⼭本は、営業先で⼤きな契約をまとめ、事務所で書類を作成していた。彼はその最中に突然、便意を感じる…。

ここは会社だ。便意を感じたからといって、慌ててトイレを探す必要はない。⼭本は余裕の気持ちでゆっくりと席を立った。

そこに部⻑が⾎相を変えて⾛ってきた。

「⼭本くん、緊急事態だ。きみがとってきた契約先はダミー会社の疑いがある。これから対策会議をするから⼀緒にきたまえ︕」

部⻑に会議室に連れて⾏かれる⼭本。彼が会議室から出てきたのは⼀時間後のことだった。その頃には彼の便意は既に限界を迎えていた。

⼭本は⼀刻も早くトイレに⾏きたかった…いや、⾏かねばならなかった。彼は便意を必死で堪えながら、トイレに向かった。

だが、辿り着いたトイレは清掃中だった。

「なぜなんだぁ︕」…⼭本は、こみ上げる怒りを押さえながら、広いフロアの反対側にあるトイレへと早足で向かった。そのときだ︕ ⼥⼦社員が⼤声で⼭本を呼んだ。

「⼭本さん。得意先から緊急の電話です。怒ってますよー︕ 早くでてくださーい」

⾝もだえしながら電話を受ける⼭本。しかし電話に出てしまった以上、途中で切るわけにはいかない。電話先では、相⼿がぐずぐずと⽂句を言い続ける。⼭本の額は、冷や汗でびっしょりと濡れていた。

⼭本が⼀瞬の⽬眩をおぼえた時、衝撃が彼の下半⾝を襲った。

彼の⾁体は限界を超えていたのだ。⼭本が受話器を置くのと、鈍い⾳が下半⾝から響き渡るのとは、ほぼ同時だった。

猛烈な勢いで、事務所内に異臭が渦を巻いて広がっていった。

得意先との電話を無言で切り、真っ⻘な顔で魂が抜けたゾンビのようによろよろとトイレに向かう⼭本。その⾜元からはズボンのスソを伝わって、ポトリポトリと何かがこぼれおちていく…。

⼭本は、⾃分の⼈⽣の表舞台に幕が降りていくのを感じていた。

……私は、ここで一度、思考への潜航を止めた。

恐ろしいシミュレーションだ。強靭な精神で臨まなければ、こちらがやられてしまう。額の汗を拭って深呼吸をした。正直に言えば、もうこれ以上は考えたくない。だが、目を背けるわけにはいかない。行方不明の謎解きはこれからなのだから。

⼭本がおぼつかない足取りでトイレに向かったあと、異臭に包まれた事務所はパニックになっていた。⼥⼦社員たちはスマホで、社内外に「⼭本⾃爆︕」の情報を流していた。こっそりと動画を撮るやつもいる。

⼀⽅、⼭本はといえば、辿りついたトイレの個室で下半⾝を空気にさらしていた。上半⾝はワイシャツとネクタイにスーツの上着…。

上着と⼀対であるべきズボンは、既にズボンとしての⽣命を終えていた。パンツも靴下も、⾰靴でさえも同様であった。


ポジティブシンキングで脱出せよ

⼭本は涙をこぼしながら、トイレットペーパーで下半⾝を丁寧に拭いた。やがて涙が⽌まると、頭がだんだんと醒めてきた。

既に⼭本は、もうこの会社にはいられないことを悟っていた。定年までの間、ずっと「うんこたれ」と蔑まれて⽣きていくのは、彼には耐えられないことだった。

辞職するしかない…。⼭本はそう覚悟を決めると、⾃由を取り戻したかのように、少しだけ爽快な気分になるのだった。だが、彼はすぐに⽬前に迫った⼤きな問題に気がついた。

下半⾝が剥き出しの姿で、どうやってトイレから脱出すればいいのか︖︕  もしもコートを着ていたなら、まだ救いはあったかもしれない。

⼭本は必死に考えた。誰かがトイレにくるのを待ち、そっと個室の下からメモをだして、パンツとズボンを買ってきてもらったらどうだろう︖

だが、どうしてもそれをする気にはなれなかった。これからの⼈⽣を考えれば、誰かの力を借りることなく、己だけの⼒だけで乗り切らねばならないように思えたのだ。

⼭本は、ポジティブ・シンキングだった。

彼は考えた。

「⾃然界の掟は⾷うか⾷われるかだ。ならば必要なものは、他者から奪えばよいのだ︕ 誰かが隣の個室に⼊ってくるのをじっと待ち、隙をみて個室の上から襲いかかり、ズボンを剥ぎ取って逃げればいいんじゃないか︖」

しかし、この⽅法をとれば、すでに会社を追われる⾝になっているのに、さらに警察からも追われる⾝になってしまう。

⼭本は⾃分に度胸がないことを誤魔化すように、別の案を考えることにした。

「そうだ︕ トイレットペーパーがあるじゃないか︕ トイレットペーパーで全⾝を巻いて、ミイラ男の仮装としてでていったらどうだろう︖」

⼭本は、試しに腕にトイレットペーパーを巻いてみた。

彼には「トイレットペーパーを巻いた裸の⼥性に、⽔鉄砲でちゅうちゅうと⽔をかける」というささやかな夢があったのだ…あっ、オレの夢と混線した︕

彼は混戦した夢に興奮を覚えながら、トイレットペーパーを巻きはじめた。だが、それはすぐにムリだということがわかった。

全⾝を巻くにはトイレットペーパーが⾜りないのだ。山本は力なく、ペーパーを芯に巻き戻した。

「ミイラ男はだめか…そうだ︕ ネクタイは使えないだろうか? ネクタイの裏に折り込んである⽷を切って布を広げれば、太さは倍になるはずだ。そしてネクタイでフンドシをつくったらどうだろう︖」

⼭本はネクタイの裏⽷を切ると、腰に巻いてみた。…⻑さが全然⾜りない︕︕

「この⻑さではフンドシはムリだ。いや、だったらこのネクタイでタマキンだけを巻いてみたらどうだろう︖ そこに集中すればお⼿⽟のように綺麗に巻けるはずだ。…でも、それじゃ巻いてるだけで意味がない」

⼭本、絶体絶命︕︕

だが、⼭本はポジティブ・シンキングだった。

「そうだ︕︕ 仮装⼤会で、ズボンを着て上着をはいた”逆さま⼈間”の仮装をする⼈を⾒たことがあるぞ。そうだそうだ︕︕ 上はワイシャツのまま、下はズボン代わりに上着を履けばいいんだ︕ 」

⼭本はさっそく上着を脱いで、腕を通すべきところに⾜を通した…通した…通そうとした…でも、通らない︕︕

⼈間の太ももは腕よりも太い。⼭本は力が抜けたように便座に腰掛けると、がっくりと頭を落とした。

…とそのとき、ビル内放送で『アルプス⼀万尺』の⾳楽が聞こえてきた。清掃の時間である。そのメロディは⼭本の頭に閃きを与えた。

「『アルプス⼀万尺』といえば、スコットランドだ︕︕(⼭本は地理が苦手だった) スコットランドの男はスカートを履いている。そうだ︕︕ 上着をスカートのように腰に巻いて、スコットランド⼈のフリをして出て⾏けばいいのだ」

⼭本はぶつぶつとつぶやきながら、スカートにみえるように、スーツの上着を腰に巻いてみた。

だが、⽔⾊のスーツでは、スコットランド⼈どころか⼥装マニアにしかみえない。しかも顔はスッピンで、足元は裸⾜となれば、⼥装のできそこないにさえも⾒えなかった。

「下半⾝を隠すのは無理か…。だったら発想の転換だ。下半⾝がなければどうだろう︖︕ ⾜を切り落としてしまえば︖  いや、それは痛すぎる。だめだだめだ」

万策が尽きたかに思えた山本だったが、彼の脳はまだ回転をやめてはいなかった。

「そうだ︕︕ 逆転の発想だ。オレは今まで出ていくことばかりを考えていた。逆にトイレで暮らすという選択肢だってある。⾃らをトイレという⼀畳にも満たない牢に閉じ込め、鉄⽕⾯のようにここで⼀⽣を過ごすのだ。『開かずのトイレ』だ︕ 幸いなことに⽔は流すほどもある。⾷料は…⾷料は…ない…」

もはや策なし…。⼭本の脳もついに⼒尽きたように思われた。

だが、⼭本はポジティブ・シンキングだった。

⼭本は最後の⼒を振り絞ると狭いトイレの中で逆⽴ちをはじめた。脳を活性化するために全⾝の⾎を脳に送り込んでいるのだ︕

⼭本の脳の中でニューロンが、シナプスが猛烈な活動を開始した。やがて、限界を突破した彼の⿐から⼀筋の⾎が流れでた。

「これだー︕︕︕」

⼭本は⽴ち上がった。さっきまで光を失っていた⽬は、今やキラキラと輝いていた。⼭本は⿐⾎を指で拭うと、その⾎で両頬に3本の線を描いた。そして服を脱いで裸になった。

次に便器のフタを⼒いっぱいにひっぱった。たちまちバキッという⾳と共にフタがはずれた。

さらに⼭本は狂ったようにトイレットペーパーをひっぱり続ける。やがて紙が尽きて芯が剥き出しになった。

⼭本は、その芯を抜き取ると股間のわが⾝にセットした…。

これはパプアニューギニアのダニ族に伝わるペニスケースだ︕
ダニ族が裸体でいることに何の不⾃然さがあろうか。

⼭本は個室を⾶び出ると、掃除⽤具⼊れからモップを掴みだした。

便器のフタを盾にして、モップの槍をもち、ペニスケースをした男。

⼭本は⼤きく咆哮をあげた。

わっ、わっ、わっ(Wa! Wa! Wa!)」(こんにちわ)

⼀⼈のダニ族がここに誕⽣した。

⼭本は勢いよくトイレを⾶び出すと、すべてを捨ててパプアニューギニアにへとむかった。こうしてわが国の⾏⽅不明者の数が、また⼀⼈増えたのである。

シミュレーションは終了した。

さらば、⼭本…。

もう忘れよう。「会社でうんこ漏らしたヤツ」のことなんて。

それがやさしさというものなのだから。


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ケイメイ 最後までお読みいただきありがとうございました。チップしちゃおうかなと思ったら、迷わなくていいんです。私がそっと背中を押しますからね!