職場のバグ|リンゴを3つに切り分ける方法と、消えた料理長の話
会社の昼休み。給茶機で入れたコーヒーを持って、フリースペースのスタンディングテーブルに移動した。
すると、スマホをみていた後輩社員のミヤケさんが、突然、顔をあげて話しかけてきた。
「ケイメイさん、知ってます? リンゴを3つに切り分けることができない子がいるんだって」
「えぇ、そんなヤツがいるの?! 簡単なことじゃん」
「そうなんだけど、『同じ大きさで切る』っていう感覚がわからないんじゃないですか。兄弟とかいない子に多いらしいです」
「あぁ、そっちの話ね」
「えっ? そっちの話って、ほかに何があるんですか?」
「オレはリンゴを、『皮』と『身』と『芯』の3つに分ければ簡単だと思ったよ」
「えっ?!」
「だからさ。均等に3つに切るんじゃなくて、『皮』と『身』と『芯』で分けるんだよ。ジャンケンで勝ったひとから好きなものを選ぶ。1番は『身』に決まりだとして、問題は2番だよね。3番手は選択の余地がないんだから」
「よくわからないけど」
「つまりね。2番の人は『皮』と『芯』のどっちを選ぶかが、悩みどころじゃないかってことだよ」
「でも、『皮』ならまだ食べられるかもしれないけど、『芯』じゃダメでしょ」
「そんなことないよ。包丁で切るんだから『芯』にだって、少しは身がついてるじゃん。『スペアリブ』みたいなもんだね。あれだって、骨の周りにちょこっとついてる肉を、貧乏くさく齧るわけだしさ。あの部分って本来は捨てるところでしょ?」
「捨てるところではないんじゃないの? 骨付きの方がおいしいからでしょ」
「そうなのか。『スペアリブ』って、『浮浪者のご馳走』っていうイメージなんだけど。でも、その理屈だったら、リンゴの『芯』だって、レストランのデザートメニューに載るかもしれないね」
「そんな悲しいレストランはイヤだよ!」
「じゃ、お洒落に『皮』も添えてさ」
「身を添えてよ! 果肉がほしいよ!」
「すみません。うちの料理長は、リンゴをうまく切り分けることができなくて」
「そんな料理長はクビだよ! クビ!」
ミヤケさんは、そう言い放つと席を立った。
こうして、日本初の「リンゴの芯を使ったデザート」を考案した料理長は、誰にも知られることもなく、姿を消しました。
いいなと思ったら応援しよう!
最後までお読みいただきありがとうございました。チップしちゃおうかなと思ったら、迷わなくていいんです。私がそっと背中を押しますからね!