創作落語|「番町皿屋敷」異聞~ お菊さんが消えた夜
「番町」といえば、大名や旗本の武家屋敷が置かれていた江戸城のお膝元。
しかし、その一角には、周囲には似つかわしくない一軒の荒れ果てた武家屋敷がありました。
元旗本 青山主膳のお屋敷です。
真夜中になると、井戸の底から悲しげな女性が現れる「番町皿屋敷」として知られております。
その武家屋敷に、怖いもの見たさの二人、与太と兄きがやってまいりました。
「なぁ、兄き。ホントに出るのかい。その幽霊ってやつ?」
「『お菊さん』って名前があるんだよ。かわいそうな話だぜ」
「ど…どんな話なの?」
「知らないねーのか? お菊さんはな、この屋敷に見習い奉公に来ていたんだ。でもな、ある日、主人の家宝、南京絵皿十枚組の一枚を割っちまったんだよ」
「それで?」
「怒った主人は、お菊さんを切り捨てて井戸に投げ込んだ」
「えぇっ!」
「お菊さんは、無念で成仏できなかったんだろうな。今でもよ、真夜中になると井戸からうっすらと現れる。そして、悲しげに皿の数を数えるんだ。いちま〜い、にま~いってな。一枚足りない皿の数をよ」
「哀れな話だね」
「まったくだ」
「でも、ほんとに出るのかい? 怖いもの見たさでついてきたけど、なんだかゾっとするよ。やっぱり、夜泣き蕎麦でも食いにいこうよ」
「しっ! ほら、あの井戸をよく見てみな。うっすらと女が見えてきたじゃないか」
「お・・お・・・お菊さんだ」
髪を振り乱しながら、井戸から現れた女は、恨みのこもった表情。暗く淀んだ声でゆっくりと皿の数を数えはじめます。
「いちま〜い にま〜い」
兄きが割り込みます。
「ちょっと姐さん」
「あい?」
「いま、なんどきだい?」
「えっ? うしみつどき(丑三つ時)?」
「ありがとよ! うし、みっつな!」
「よんま〜い ごま〜い ろくま〜い ななま〜い はちま〜い きゅうま〜い じゅうま〜い 一枚たりな…くない? あれ? じゅうまい? あれ? あった? アタシ、なにしてたんだろ」
皿を10枚まで数え終えたお菊さんは、うっすらと消えていきました。
「お菊さん、消えたねぇ。成仏したんだよ」
「よし。じゃ、次は蕎麦でも食いに行くか。ちょっとばかし、面白いことを思いついたんだよ。与太、小銭はもってるよな」
「兄貴、なんだか、悪そうな顔してるな」
この続きは、皆さま、ご存じのお話。
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