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#032 棘下筋・小円筋 ― 外旋と骨頭求心位の立役者 ―

Clinical Anatomy & Kinesiology(CAK)|Project ATLAS Phase 2 筋肉編


① はじめに

腱板といえば棘上筋が主役として語られがちだが、肩の外旋筋力の大半を担い、骨頭の後方求心位を守っているのは棘下筋と小円筋である。この2筋が弱れば、骨頭は前上方へ逃げ、投球障害肩やインピンジメント、腱板断裂の進展につながる。

臨床1〜3年目にとって、この2筋は「外旋筋」と一括りにされやすいが、走行も神経支配も役割の細部も異なる。本稿では棘下筋・小円筋を並べて整理し、なぜ後方腱板が肩の安定の要になるのかを解説する。

② 基本解剖

棘下筋 ― 起始:肩甲骨棘下窩。停止:上腕骨大結節の中facet。神経支配:肩甲上神経(C5・C6)。上部線維と下部線維で走行が分かれ、肢位により外旋・下制への寄与が変化する。

小円筋 ― 起始:肩甲骨外側縁上部の背面。停止:大結節の下facet。神経支配:腋窩神経(C5・C6)。棘下筋とともに後方腱板を形成する。

両筋の停止腱は関節包と癒合し、骨頭を関節窩へ引きつける後方の支持構造をつくる。棘下筋は棘上筋断裂が後方へ進展する際に巻き込まれやすい。

③ 機能解剖・運動学

主作用は肩甲上腕関節の外旋で、外旋トルクの大部分をこの2筋が担う。棘下筋は下垂位・軽度外転位での外旋に、小円筋は外転位での外旋により強く関与する。加えて両筋は水平外転(水平伸展)にも働く。

本質的な役割は棘上筋・肩甲下筋と同じく骨頭の求心位保持にある。後方腱板が収縮すると骨頭は関節窩へ圧迫され、三角筋や上腕二頭筋長頭による前上方への剪断に拮抗する。棘下筋の上部・下部線維は肢位で活動が変化するため、評価・運動療法では肢位設定が重要になる。

④ バイオメカニクス

棘下筋・小円筋は前方の肩甲下筋と対をなし、水平面での後方force coupleを形成する。前後の張力が釣り合うことで骨頭は関節窩中心に保持される。後方腱板の出力が落ちると釣り合いが崩れ、骨頭が前上方へ偏位し、肩峰下や後上方関節唇へのストレスが増える。

投球のフォロースルーでは後方腱板が遠心性に働き、骨頭前方転位を制動する。この遠心性負荷の反復が後方腱板の機能低下や後方関節包の拘束(GIRD)と関連し、投球障害肩の力学的背景となる。

⑤ 臨床との関連

外旋筋力低下:ER lag sign陽性、90°外転位外旋筋力の低下。棘下筋萎縮は肩甲上神経障害(ガングリオン・絞扼)でも生じる。

小円筋の評価:Hornblower徴候(外転位で外旋を保持できない)は小円筋機能不全を示唆する。

腱板断裂・投球障害肩:棘上筋断裂の後方進展、あるいは反復ストレスで後方腱板が障害される。rounded shoulder姿勢では後方腱板の活動効率が低下しやすい。

運動療法の要点:側臥位外旋は棘下筋・小円筋の活動が高く(各62〜67%MVIC前後)、初期強化に適する。低負荷・高頻度から開始し、後方関節包の柔軟性確保と肩甲骨安定を並行させる。

⑥ 最新エビデンス(DOI付き文献3本)

1. 外旋運動での選択的賦活 Selective Activation of the Infraspinatus During External Rotation Exercises in Participants with Rounded Shoulder Posture. Medicina. 2025;61(2):203. DOI: 10.3390/medicina61020203 → 筋構造に基づく肢位(MABER)が棘下筋を最も高く賦活し、側臥位外旋は棘下筋/後部三角筋比が高いことを示した。

2. 領域別EMG Whittaker RL, Alenabi T, Kim SY, Dickerson CR. Regional Electromyography of the Infraspinatus and Supraspinatus Muscles During Standing Isometric External Rotation Exercises. Sports Health. 2022. DOI: 10.1177/19417381211043849 → 棘下筋・棘上筋には領域差があり、運動で活動する部位が異なることを示した。肢位設定の重要性を裏づける。

3. 外旋運動の筋活動 Reinold MM, et al. Electromyographic Analysis of the Rotator Cuff and Deltoid Musculature During Common Shoulder External Rotation Exercises. J Orthop Sports Phys Ther. 2004;34(7):385–394. DOI: 10.2519/jospt.2004.34.7.385 → 側臥位外旋が後方腱板を効率よく賦活することを示した古典的研究。

⑦ Today's Clinical

外旋筋力の主役は後方腱板 ―― 棘下筋・小円筋が外旋トルクの大半と骨頭後方求心位を担う。

肢位で役割が変わる ―― 下垂位は棘下筋、外転位は小円筋の関与が強い。評価・運動は肢位を指定する。

側臥位外旋が初期強化の定番 ―― 高い筋活動で低負荷から開始でき、肩甲骨安定とセットで進める。

⑧ まとめ

  • 棘下筋は棘下窩から大結節中facet、小円筋は肩甲骨外側縁から大結節下facetに停止する後方腱板である。

  • 神経支配は棘下筋が肩甲上神経、小円筋が腋窩神経(ともにC5・C6)。

  • 主作用は外旋で、外旋トルクの大半を担い、水平外転にも関与する。

  • 本質的役割は骨頭の後方求心位保持で、前方の肩甲下筋と後方force coupleを形成する。

  • 後方腱板の機能低下は骨頭前上方偏位を招き、インピンジメントや投球障害肩の背景となる。

  • Hornblower徴候は小円筋、ER lag signは後方腱板全体の機能を評価する。

  • 側臥位外旋やMABERは後方腱板を効率よく賦活する。

  • 運動療法は低負荷・高頻度から始め、後方関節包柔軟性と肩甲骨安定を並行させる。

⑨ 参考文献

  1. Selective Activation of the Infraspinatus During External Rotation Exercises in Participants with Rounded Shoulder Posture. Medicina. 2025;61(2):203. DOI: 10.3390/medicina61020203

  2. Whittaker RL, Alenabi T, Kim SY, Dickerson CR. Regional Electromyography of the Infraspinatus and Supraspinatus Muscles During Standing Isometric External Rotation Exercises. Sports Health. 2022. DOI: 10.1177/19417381211043849

  3. Reinold MM, et al. Electromyographic Analysis of the Rotator Cuff and Deltoid Musculature During Common Shoulder External Rotation Exercises. J Orthop Sports Phys Ther. 2004;34(7):385–394. DOI: 10.2519/jospt.2004.34.7.385


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