恋に絡む夢はいつだって【夢の話、または短編小説の種 #6】
さっき夜明け前のまどろみで見たのは、昔、付き合いそうだったけれど付き合わなかった子との夢だ。ぼくの友人の結婚式で出会い、英国発のポップスの話で意気投合した。
どちらにも恋人がいた。それでいて、ぼくたちはときどきどちらからともなく誘い、街をぶらつき、夜を一緒に過ごした。夢のなかの二人はほの暗いカフェで恋人同士みたいに向かい合っていて、アイスコーヒーをほとんど飲み終えていた。彼女の着ている黄緑色のワンピースは半袖で、つまりは夏ということなのだろう。
彼女は左ひじでほおづえをついたまま「このあとどうする?」と言ってきた。ぼくは黙っていた。ほかに客は誰もいない。彼女は「もうすぐハッピーアワーだからわたしはビールを飲むわ」と言う。窓の外を見ながら「わたしたちがハッピーかどうかはわからないけれど」と苦笑した。
彼女は「オリーブのオイル漬けも頼もう」とひとりごちながら北欧を特集した雑誌のページを繰り、煙草を美しくふかす。「いつか一緒にフィンランドかノルウェーに行きたいな」とつぶやく。彼女の煙が、冬にはく白い息のように見えた。「うん、北欧は楽しそうだ」と答えると、彼女はうれしそうな顔をした。
「北欧はおしゃれなイメージがあるわ」
「北欧のデザインは日本でも人気だね」
「スウェーデンのバンドだと、カーディガンズは素敵だと思う」
「荒々しいロックンロールならマンドゥ・ディアオもお勧めだ」
彼女が「今度聴かせてよ」と言い、カフェの音楽が変わった。軽快なイントロが始まると、彼女は「あ、この曲、よく聴いてるよね」と言った。ティーンエイジ・ファンクラブの「アイ・ドント・ウォント・コントロール・オブ・ユー」だ。ぼくは「ティーンエイジ・ファンクラブは世界で四番目に好きなバンドだ」と言った。彼女は「四番目なのね」と笑った。そのあと、二人とも黙って音楽を聴いていた。
柔らかい毛布がほおを撫で、ぼくはこれは夢だと気づく。空気の冷たさを感じながら、彼女はもう二度も結婚していると聞いたことを思い出す。また夢のなかに戻ると、彼女が「なぜわたしと付き合ってくれないの?」と訊いてきた。
「わたしは今の彼氏と別れる気があるのに」
「二人とも恋人を裏切っているような人間だからね。うまくいく気がしない」
「それでもこの関係は続けたいの? わたしが都合のいい女みたいじゃない」
「お互いさまだよ。ぼくだって君にとって都合のいい男のように思えるときがある」
この場面には見覚えがある。ぼくはそれから黙って、グラスから氷をいくつか口に入れ、がりがりと噛んだ。ほんとうに薄まったコーヒーの味がして、気分が悪くなる。
カフェの音楽がまた変わった。スマッシング・パンプキンズの「1979」という曲だ。ぼくたちが生まれるずっと前の年を歌ったこの曲もよく聴いているのに、彼女はもう何も言わなかった。さびしげに煙草をくゆらせていて、ぼくの視界がぼやけてくる。
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