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恋に落ちたら【八〇〇文字の短編小説 #1】

土曜日の朝、僕は一人暮らしのアパートのベランダで洗濯物を干していた。レオナルド・ダ・ヴィンチのウィトルウィウス的人体図があしらわれたTシャツを干し終えたとき、スマートフォンが軽やかな音を鳴らした。

「今日、下北沢に出かけない?」

そうLINEを送ってきたのは、大学で同じクラスのまりやだ。大型連休が明けたころ、「このグミ、食べる?」と突然話しかけてきた。何の前触れもない不意打ちにめんくらった僕は首を横に振ったが、内心、うれしかった。実は大学に初めて行くオリエンテーションの朝、バス停で髪の毛もまつ毛も長く、色白の美少女に一瞬で心を奪われた。向こうもこちらにちらりと目を向けた気がした。アーモンドみたいな大きな瞳を見て、どういうわけか、「僕はこの子と恋に落ちるんだ」と確信した。

初めて話してから、学食でランチをとったり、駅まで一緒に帰ったりする日々は楽しかった。まりやは父の仕事の関係で、イギリスの高校に通っていたという。煙草を吸う姿はため息が出るほど美しかった。言葉にはしなかったけれど、あけすけに僕への好意を示してくる態度はいわゆる日本人とは全く違う。LINEだけでなく、何度か電話をかけてきて、「二人で一緒に遊びに行こうよ」と誘ってきた。

今日は十六時から家庭教師のアルバイトが入っている。でも、この機会を逃したら、恋の予感が消えてしまう気がした。仮病を使ってアルバイトを休むことにして、まりやのLINEに「いいよ」と打ち返した。すぐに既読がつき、「デートだね」と答えてきた。

待ち合わせは下北沢駅の南口のマクドナルド前に十二時。昼ごはんを食べ、雑貨屋と古着屋をめぐることになった。僕はシャワーを浴びて、高校時代に古着で買ったライドというバンドのTシャツを着て、カート・コバーンみたいなカーディガンを羽織った。

空色の自転車を飛ばして駅に向かっていく。六月の風が爽やかに頬をなでてくる。

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