問いは、人生の舵をこちらに返してくれる
人生の質は、良い答えを持つことより、
良い問いを持つことで高まる。
そんな言葉があります。
振り返ってみると、私の人生にも、
長く心に残り、その後の方向を変えた問いがありました。
最初の問いは、はるか昔、中学生の頃のことです。
ある全国テストで、数学の答案に丸が二つしかありませんでした。
自分でもびっくりしましたが、
全国テストだし。
もともと数学は苦手だし。
まだ習っていないところも出たし。
そんなふうに、心の中でいろいろと言い訳をしていました。
その日の掃除の時間。
教室の外の廊下を掃いていた私のところへ、学年主任の先生がつかつかと歩いてきました。
そして、満面の笑顔でこう聞いたのです。
「あの点数は、家庭のせいか? 自分のせいか?」
一瞬、何を聞かれたのかわからず、私はポカンとしていました。
すると先生は、
「じゃ!」
とだけ言って、おもむろに去っていきました。
すぐに答えられなかったのは、
自分が知らず知らずのうちに、誰かや何かのせいにしていたことに気づいたからです。
何の説教をするでもなく、
たった一つの問いで、心の奥を打ち抜かれたような気がしました。
その先生の歴史の授業が、私は大好きでした。
授業の時間が楽しみで仕方がないほど、慕っていた先生でもあります。
だからこそ、その問いを責められた言葉としてではなく、
素直に受け取ることができたのかもしれません。
もう一つは、社労士として仕事を始めた頃のことです。
受験勉強を応援してくださった先輩の社労士さんから、こんなふうに聞かれました。
「手続き業務でいくの?
それとも、コンサルティングでいくの?」
この問いにも、私はズキュンと打ち抜かれました。
「え? 私でもコンサルティングを目指していいの?」
それまでの私は、まずは手続き業務ができるようにならなければ、としか考えていませんでした。
けれど、その問いによって、
自分の中にはなかった選択肢が、突然目の前に現れたのです。
その先輩も、受験時代からずっと私を応援してくださった方でした。
だからこそ、その問いを無謀な話としてではなく、
自分の可能性として受け取ることができたのだと思います。
その後、私はその先輩のコンサルティングに同行するようになりました。
そして、その途中でコーチングに出会い、
今ではプロのコーチとして仕事をしています。
振り返ってみると、二人とも私に答えを教えてくれたわけではありません。
「もっと勉強しなさい」と叱られたわけでも、
「あなたはコンサルティングに向いている」と励まされたわけでもありません。
ただ、一つの問いを置いていった。
けれど、その問いは、私の中に長く残りました。
すぐに答えが出たわけではありません。
それでも、問いを受け取った瞬間から、
それまでとは少し違う方向へ人生が動き始めたのだと思います。
一つ目の問いは、
誰かのせいにしていた私に、自分の人生の舵を返してくれました。
二つ目の問いは、
自分では見えていなかった可能性を、目の前に差し出してくれました。
良い問いには、
人を責めるのではなく、自分で考える余地を残す力があります。
答えを誘導するのではなく、
その人の中にある力や可能性を、そっと呼び起こす力があります。
問いというと、私たちはつい、正しい答えを出さなければと思います。
けれど、本当に大切な問いには、
すぐには答えが出ないこともあります。
答えを出すというより、
その問いを心の片隅に置いたまま生きていく。
すると、日々の出来事や出会いの見え方が少しずつ変わっていきます。
そしてある時、自分なりの答えが育っていることに気づくのです。
今の私にも、一つの問いがあります。
「何が、私の人生を豊かにするのだろう」
何かを選ぶ時。
このままでいいのかと迷う時。
私は、この問いに戻って考えることがあります。
どちらが正しいか。
どちらが得か。
どちらが人からよく見えるか。
そうした基準ではなく、
この選択は、私の人生を豊かにするだろうか。
そう問い直してみます。
もちろん、いつもすぐに答えが出るわけではありません。
けれど、この問いに戻ることで、
自分が本当に大切にしたいものから、少し離れていたことに気づくことがあります。
問いは、人生の節目で方向を変えることもあれば、
日々の小さな迷いの中で、自分に戻る道しるべになることもあります。
今、私はコーチとして、人に問いを渡す仕事をしています。
けれど、問いさえ投げれば、人が変わるわけではありません。
コーチングでは、問いそのものと同じくらい、
コーチとクライアントとの協働関係を大切にします。
安心して話せること。
わからないことを、わからないまま一緒に見つめられること。
相手の中にある力や可能性を、コーチが信じていること。
そうした関係があってこそ、問いはその人の内側に届き、
新しい気づきや選択を生み出していくのだと思います。
振り返れば、私が二つの問いを素直に受け取れたのも、
問いを投げかけてくれた二人への信頼があったからなのでしょう。
問いの力は、言葉だけに宿るのではなく、
その言葉が交わされる関係の中で育つものなのかもしれません。
コーチングの完了セッションでは、
これから一人で歩いていくクライアントさんに、未来の自分へ向けた問いを一つ置いてもらうことがあります。
コーチがいなくなった後も、
その問いが人生の節目で、そっと働いてくれるかもしれないからです。
あの時、人生の先輩である二人が置いていった問いは、
答えよりもずっと長く、私の人生に残りました。
人生の質を高めるのは、
たくさんの正解を知ることではなく、
自分の人生を動かしてくれる問いと出会い、
その問いを生きていくことなのかもしれません。
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