あいたくない
(ショートストーリー、1430字(ルビ除く))
高校卒業と同時に上京し、就職したのは、七つ上の兄・亜央と一緒にいたくなかったからだ。
亜央が今何をしているのか知らないし、実家には十年帰っていない。
母から時々電話やLINEが来て、藍ちゃんお盆は?お正月は?などと聞かれるが、兄にはもう二度とあいたくないから帰らない。
昼休み、会社の近くの並木道ではプラタナスの葉が赤く色づいていた。
落ち葉をかさかさと踏みながら歩いていると、スマホが鳴って母からのLINEが届いた。
毎年恒例と思ったがちょっと様子が違う。絵文字もスタンプもない。
『藍ちゃん元気ですか?今度のお正月は帰ってきませんか?お兄ちゃんが病気で、余命宣告されています』
亜央は昔、ちょっとやんちゃで、学校の裏庭での喫煙でよく先生に叱られていた。不良仲間とたむろして、無施錠の自転車を勝手に乗り回し、駅前交番のおまわりさんたちにも目をつけられていた。勉強は嫌いで、高校を中退して就職したが長く続かず、職を転々とした。
もちろん評判は悪いし、見た目からして怖い不良仲間といつも一緒だし、私はあまり亜央と話さなくなった。
高校二年の時につきあっていた佑人は、まるで運命みたいに私と相性がぴったりだったが、ただひとつ、亜央のことを「とんがっていてカッコイイ」と憧れているのが理解できなかった。
亜央は佑人に慕われて、ちょっと調子に乗っていた。
自転車の窃盗でやめておけばよかったのに。
バイクを盗んで、後ろに佑人を乗せて無免許で走り、事故を起こした。
佑人は永遠に帰らなかった。
大好きな恋人をいきなり亡くしてしまった。しかも兄のせいで。
私は今も亜央を許していない。だから余命宣告なんて関係ない。
スマホをバッグにしまいながら会社に近づくと、急にビル風が吹いて、道端にたまった落ち葉が足元で舞いあがった。
その時突然、思い出した。
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……よく晴れた秋の日のことだ。私は小学一年生だった。前の晩に強風が吹き荒れ、街路樹がどっさり葉を落とし、舗道を覆っていた。
降り積もった落ち葉は温かみのある茶色で、時々黄色や赤が混ざっている。
かさかさと踏みしめて駄菓子屋に行ったが、目当てのお菓子を買うにはお小遣いが十円足りなかった。
肩を落とした私の前に十円玉が差し出された。
亜央だった。
「ほら、やるよ」
「えーっ、いいの?」
亜央は同級生たちとつるんで、店の奥でコーラを飲んでいたのだ。
楽しい話でもしていたのか、柔らかな目をしていた。
亜央はそのまま店に残るのかと思ったら、同級生たちと別れて私と一緒に帰ると言った。
落ち葉を踏みながら家への道を歩く。
するといきなり大量の落ち葉が巻きあがった。突風が吹いたのだ。
小さかった私の身体が、風にあおられて転びそうになった。
「藍、危ない」
とっさに亜央が私の手を強く引いた。
いつのまにか、遠くの空に低く暗い雲が現れていた。天気が崩れそうだ。
「急いで帰ろうぜ」
亜央は私と手をつないだまま、家までの道を走った……
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今、プラタナスの並木道で舞いあがる落ち葉を見た時、亜央の手の温かさをはっきりと思い出した。
その瞬間、自分でも驚いてしまうほど、涙がぽたぽたとこぼれ落ちた。
亜央は許せない、一生許さない。
でもあの日、亜央は確かに私のお兄ちゃんだった。
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結局、亜央は正月を迎えることができなかった。
十年ぶりに見た亜央は遺影だった。
あの日と同じ柔らかな目をしていた。
亜央は許せない、一生許さない。
でも、お兄ちゃんの思い出をひとつ、心の宝箱にしまっておくことにした。
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#モノカキングダム2025 に参加します。
※12/1、見出し画像変更しました。
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