夜更かしが続くと眠れなくなる理由|体内時計の乱れと回復戦略 - 『睡眠』の栄養戦略
ベッドに入ったのに目がさえている。
毎日寝る時間がばらばらで、なかなか寝付けない。
海外出張に行くと、時差ボケで夜になっても眠れない。
こんな経験、意外と多いのではないでしょうか。
実はこうした状態の多くは、体内時計(サーカディアンリズム)と、眠気を生み出す睡眠サイクル(睡眠圧)のタイミングがずれてしまっていることが原因です。
眠れないのは意志の問題ではなく、「体のリズム」がずれていることが多い。
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サーカディアンリズムとは、いわゆる体内時計です。
光などの外部刺激をもとに約24時間周期で働き、体温、ホルモン分泌、覚醒と睡眠のタイミングなどを調整しています。
一方、睡眠圧は一日の活動によって徐々に蓄積する眠気のメカニズムです。
脳内ではアデノシンという物質が蓄積していき、一定量に達すると眠気を引き起こします。
つまり理想的な睡眠は、
体内時計が「そろそろ眠る時間だ」と知らせるタイミング
睡眠圧が十分に高まっている状態
この二つが同時にそろったときに起こります。
しかし、生活リズムが不規則だったり、夜遅くまで光を浴びたりすると、この二つのタイミングがずれてしまいます。
すると、
眠いはずなのに寝付けない
寝る時間が毎日ばらばらになる
夜になっても頭がさえている
といった状態が起こりやすくなります。
ここで少し残念なお知らせがあります。
サーカディアンリズムや睡眠圧を直接「修正する」栄養素は存在しません。
これらは人間の体がもともと持っている生理的な調節システムです。
そのため、完全にリズムを整えるためには、
カフェイン摂取のタイミング
夜間のブルーライト
寝る時間・起きる時間
といった生活習慣の調整がどうしても重要になります。
つまり、睡眠リズムそのものは栄養だけで劇的に変えられるものではないということです。
ただし、ここで良いニュースもあります。
体内時計を直接変えられなくても、睡眠を助ける生理プロセスをサポートすることはできる。
実際、睡眠のプロセスにはいくつかの重要なホルモンや神経伝達物質が関わっています。
それらの生成や働きは、特定の栄養素によってサポートできる可能性があるのです。
この記事では、その代表的なものとして
トリプトファン
メラトニン
タルトチェリー
という三つの要素を取り上げ、体内時計をサポートする栄養戦略について整理していきます。
なお、「質の高い睡眠とは何か」「睡眠を改善するための基本条件」については、別の記事で詳しくまとめています。まだ読んでいない方は、そちらもぜひ見てみてください。
睡眠は単なる休息ではなく、身体の精密な生理システムによって作られている。
だからこそ、その仕組みを理解することが、睡眠を整える第一歩になるのです。
第一章 体内時計と栄養 ― 睡眠ホルモンの仕組み
前章でも触れましたが、まず前提として理解しておきたいことがあります。
サーカディアンリズムや睡眠圧そのものを、栄養素で直接コントロールすることはできません。
これらは人間の体に備わっている非常に精密な生理システムで、基本的には生活リズムや光環境によって調整されています。
ただし、その仕組みを理解しておくことは、睡眠戦略を考えるうえでとても重要です。
まず睡眠圧から見ていきましょう。
睡眠圧とは、簡単に言うと起きている時間に比例して蓄積していく眠気のメカニズムです。
この仕組みの中心にあるのが、脳内に蓄積するアデノシンという物質です。
私たちが活動している間、脳ではエネルギーが消費され、その過程でアデノシンが徐々に増えていきます。そして一定量を超えると、脳に「そろそろ休む時間だ」という信号を送り、眠気を引き起こします。
よく知られているカフェインの作用も、この仕組みと関係しています。
カフェインはアデノシン受容体をブロックすることで、眠気のシグナルを感じにくくする働きを持っています。
つまり、睡眠圧は
起きている時間
脳のエネルギー消費
によって自然に形成されるものであり、特定の栄養素で直接増減させることはできません。
次にサーカディアンリズム(体内時計)です。
サーカディアンリズムは、脳の視床下部にある視交叉上核(SCN)と呼ばれる部位によってコントロールされています。ここは体内時計の「中枢」とも言える場所で、光などの外部刺激を受け取りながら約24時間周期のリズムを作っています。
この体内時計は、さまざまな生理機能を調整しています。
例えば
体温の変動
ホルモン分泌
覚醒と睡眠のタイミング
などはすべてサーカディアンリズムの影響を受けています。
夜になると体内時計は、睡眠を誘導するホルモンの分泌を促します。その代表的なものがメラトニンです。メラトニンの分泌が始まることで、身体は徐々に睡眠モードへと移行していきます。
この体内時計の仕組みを理解するうえで有名なのが、Charles A. Czeisler(ハーバード大学)らによる研究です。彼らは人間の体内時計がどのように外部環境と同期しているのかを調べるため、被験者を時間情報のない環境に長期間滞在させる実験を行いました。
その結果、人間の体内時計は外部の時間情報がなくても一定の周期を維持するものの、その周期は正確な24時間ではなく、やや長いリズム(約24.2時間前後)で動くことが確認されました。つまり私たちの体内時計は、本来は毎日わずかに後ろへずれていく性質を持っているのです。
さらにCzeislerらの研究では、光が体内時計の調整に極めて重要な役割を持つことも示されました。特に朝の強い光は体内時計をリセットする働きを持ち、メラトニン分泌のタイミングを調整することが分かっています。
体内時計は「光」で調整され、「ホルモン」で睡眠を実行する。
ここで重要なのは、サーカディアンリズムと睡眠圧の下流にあるプロセスです。
サーカディアンリズムが「眠る時間だ」という信号を出すと、身体では睡眠導入ホルモンの分泌が始まります。このプロセスがうまく機能することで、私たちは自然に眠りに入ることができます。
そして、この下流のプロセスは栄養素によってサポートできる可能性があります。
体内時計そのものは変えられなくても、睡眠を実行するホルモンはサポートできる。
つまり、体内時計の調整が完全に整うまでの間も、睡眠を誘導する生理プロセスをサポートすることで睡眠を安定させることができるかもしれません。
そして結果として、安定した睡眠リズムが形成されることで、中長期的には体内時計そのものの調整にもつながる可能性があります。
ではここから、こうしたプロセスに関与する栄養素を見ていきましょう。
第二章 トリプトファン ― 睡眠ホルモンの出発点
ではここから、体内時計の下流にある睡眠プロセスをサポートする栄養素を見ていきましょう。
まず最初に取り上げるのが、トリプトファンです。
トリプトファンは必須アミノ酸の一つで、私たちの体内では重要な神経伝達物質の材料として使われています。特に睡眠に関して重要なのが、次の代謝経路です。
トリプトファン → セロトニン → メラトニン
という流れです。
まずトリプトファンは脳内でセロトニンへと変換されます。
セロトニンは「幸せホルモン」として知られることもありますが、睡眠の文脈では神経の興奮を落ち着かせる働きを持つ神経伝達物質です。
そしてこのセロトニンは、夜になるとさらにメラトニンへと変換されます。
メラトニンはサーカディアンリズムに関わる代表的なホルモンで、体に「夜になった」という信号を送り、睡眠への移行を促す役割を持っています。
トリプトファンは「睡眠ホルモンの材料」になるアミノ酸。
つまり、トリプトファンが十分に存在していることで、セロトニンとメラトニンの生成がスムーズに進み、睡眠をサポートする生理プロセスが働きやすくなると考えられています。
トリプトファンの摂取による臨床試験結果
トリプトファンの睡眠への効果については、人を対象とした研究でも検討されています。
例えば、Hartmann(1982)はトリプトファンの摂取が睡眠に与える影響を調べた研究を報告しています。この研究では、被験者にトリプトファンを摂取させ、その後の睡眠状態を評価しました。
その結果、トリプトファン摂取後には入眠までの時間(睡眠潜時)が短縮する傾向が確認されました。特に、もともと寝付きにくさを感じていた被験者ほど改善が見られる傾向があり、トリプトファンが睡眠導入プロセスをサポートする可能性が示唆されています。
さらに、Hudsonらによる研究でも、トリプトファン摂取が睡眠に与える影響が検討されています。この研究では、トリプトファンを含む食事を摂取した場合、被験者の睡眠構造や入眠に関連する指標に改善が見られることが報告されています。
研究者らは、トリプトファンがセロトニンおよびメラトニンの生成を通じて、睡眠調節システムに間接的に作用している可能性を指摘しています。
トリプトファンは、体内時計の「実行ホルモン」を支える栄養素。
トリプトファンはどのくらい摂ればいいのか
日本ではトリプトファンに対する明確な耐容上限量は設定されていませんが、一般的なサプリメントや研究では1日250〜1000mg程度の摂取量が用いられることが多いです。
また日本人の食事摂取基準では、トリプトファンはタンパク質摂取量の一部として摂取される必須アミノ酸とされており、通常の食事でもある程度は摂取されています。
サプリメントとして利用する場合には、
トリプトファン:250〜1000mg/日
程度を一つの目安として考えるとよいでしょう。
第三章 メラトニン ― 体内時計を動かす睡眠ホルモン
前章で見てきたように、トリプトファンは体内でセロトニンへ、そして最終的にはメラトニンへと変換されます。
ここでは、そのメラトニンそのものについて簡単に整理しておきましょう。
メラトニンは、脳の松果体から分泌されるホルモンで、体内時計と密接に関わっています。
夜になるとサーカディアンリズムのシグナルによって分泌が始まり、体に「夜になった」という情報を伝えます。
このメラトニンの分泌が始まることで、
体温が徐々に低下する
神経の覚醒レベルが下がる
身体が睡眠モードへ移行する
といった変化が起こり、私たちは自然と眠気を感じるようになります。
メラトニンは「睡眠を作るホルモン」ではなく、「夜を知らせるホルモン」。
つまり、睡眠そのものを直接作るというよりも、身体を睡眠に適した状態へ導くシグナルとして働いているのです。
メラトニンの摂取による臨床試験結果
このメラトニンの睡眠への影響については、多くの研究が行われています。
例えば、Brzezinski(1997)はメラトニンの睡眠への影響をまとめたレビュー研究の中で、メラトニンの投与によって入眠までの時間(睡眠潜時)が短縮される傾向があることを報告しています。特に、時差ボケや体内時計の乱れによる睡眠問題に対して、メラトニンが有効に働く可能性が示されています。
メラトニンは、体内時計と睡眠をつなぐホルモン。
ただし、日本ではこのメラトニンをサプリメントとして摂取することは認められていません。
海外では一般的な睡眠サプリメントとして利用されていますが、日本では医薬品に近い扱いとされており、サプリメントとして販売することはできないのが現状です。
そのため、日本国内で睡眠戦略を考える場合には、メラトニンそのものを摂取するという選択肢は基本的に取れません。
では、メラトニンをサポートする方法はないのでしょうか。
実はそこで注目されているのが、タルトチェリーです。
第四章 タルトチェリー メラトニンを食品から取る方法
ここまで、トリプトファンとメラトニンという睡眠ホルモンに関わる生理プロセスを見てきました。
そして前章でも触れたように、日本ではメラトニンをサプリメントとして摂取することはできません。
そこで注目されているのが、タルトチェリー(Tart Cherry)です。
タルトチェリーとは、一般的な甘いチェリーとは異なる酸味の強いサクランボの一種で、主に北米で栽培されている品種です。特に有名なのがモンモランシー種(Montmorency cherry)で、アメリカのミシガン州などで広く栽培されています。
このタルトチェリーは古くからスポーツ栄養や回復サポートの文脈で研究されてきましたが、近年では睡眠との関係でも注目されています。
その理由の一つが、天然のメラトニンを含んでいることです。
タルトチェリーは、自然由来のメラトニンを含む数少ない食品。
メラトニンは植物にも微量ながら存在しており、その中でもタルトチェリーは比較的含有量が多いことが報告されています。そのため、食品として摂取することでメラトニン分泌をサポートする可能性があると考えられています。
ただし、タルトチェリーの作用はメラトニンだけではありません。
タルトチェリーには、
ポリフェノール
アントシアニン
といった抗酸化成分も豊富に含まれています。
これらの成分は、体内の炎症反応や酸化ストレスを抑える働きを持っています。
睡眠研究の分野では、こうした炎症やストレスが睡眠の質を低下させる要因の一つであることが指摘されています。
つまりタルトチェリーは、
メラトニンによる体内時計サポート
ポリフェノールによる回復・抗炎症作用
という二つの方向から睡眠環境を整える可能性がある食品と言えます。
タルトチェリーは「メラトニン+抗酸化」のダブル作用を持つ食品。
タルトチェリーの摂取による臨床試験結果
タルトチェリーの効能については、人を対象とした研究でも検討されています。
例えば、Howatsonら(2012)は、タルトチェリージュースの摂取が睡眠に与える影響を調べた研究を報告しています。この研究では、被験者に一定期間タルトチェリージュースを摂取してもらい、その間の睡眠状態を評価しました。
その結果、タルトチェリーを摂取した被験者では、
睡眠時間の増加
睡眠効率の改善
といった変化が確認されました。また、尿中メラトニン代謝物の増加も観察されており、研究者らはタルトチェリーに含まれるメラトニンが体内時計の調整に関与している可能性を指摘しています。
さらにこの研究では、平均して睡眠時間が約30〜40分程度延長する傾向も報告されており、タルトチェリーが睡眠サポート食品として注目されるきっかけとなりました。
日本ではメラトニンを直接摂取できない。
その代替として、タルトチェリーという選択肢がある。
第五章 体内時計をサポートする栄養戦略
ここまで、体内時計をサポートする栄養アプローチとして
トリプトファン
メラトニン
タルトチェリー
という三つの要素を見てきました。
それぞれ作用するポイントは少しずつ異なりますが、共通しているのは
体内時計の「下流にある睡眠プロセス」をサポートする
という点です。
まず最初に試してみるなら、トリプトファンがおすすめです。
トリプトファンは体内で
セロトニン(神経の興奮を落ち着かせる)
メラトニン(睡眠を誘導するホルモン)
へと変換されるため、睡眠の生理プロセスを自然な形でサポートできる可能性があります。
まずはトリプトファンで、睡眠ホルモンの材料を補う。
それでも睡眠の改善が限定的な場合には、タルトチェリーを試してみるのも一つの選択肢です。
前章でも紹介したように、日本ではメラトニンをサプリメントとして摂取することはできません。
そのため、メラトニンを取り入れたい場合には、食品として摂取できる方法を考える必要があります。
その一つがタルトチェリーです。
タルトチェリーには
天然のメラトニン
ポリフェノール・アントシアニンなどの抗酸化成分
が含まれており、メラトニンの作用に加えて抗酸化・抗炎症作用が働く可能性があります。
つまり、
メラトニン+抗酸化という二つの作用が、睡眠環境をサポートする可能性がある。
そのため、トリプトファンだけでは十分な変化を感じなかった場合には、タルトチェリーを追加することで睡眠が整う人もいるかもしれません。
もちろん、睡眠は単一の栄養素だけで決まるものではありません。
体内時計、睡眠圧、体温、ストレスなど、さまざまな要素が組み合わさって初めて質の高い睡眠が作られます。
それでも、栄養の視点から睡眠をサポートすることは、日常のパフォーマンスを整えるうえで一つの有効なアプローチになり得ます。
睡眠は「整えることができる生理機能」。
このnoteでは、今回の睡眠の話に限らず、プロフェッショナルのパフォーマンスを支える栄養戦略をこれからも発信していきます。
睡眠に関しては下記の記事を公開しています。
興味があれば、ぜひフォローして次の記事も読んでみてください。
それでは皆様、ご健康に✋
【睡眠に課題を感じている方へ】
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