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キツネ異世界シリーズ①

【コンコンブラック企業】

「うちはブラックですよ」
にこにこして太った社長が、柔らかい声でそう言った。

社長

社長自ら面接してくれるなんて、めちゃくちゃホワイト企業じゃないかと思ったけど………

「ブラックって……」

「ええ、真っ黒。毎期黒字。もうずっと、真っ黒で困っちゃうくらいです」

と社長は笑った。顎の肉がぷよぷよしていて、なんだか親しみやすい。

「それに、うちは敬語禁止。フラットな関係がうちのモットーでね。あ、禁止するのも禁止なんだけどねぇ!アハハハ!」

「え……?」

「じゃ、来週からよろしく!コンコン……失礼」

突然、咳払いのような音を出した社長は、胸を軽く押さえてにこにこしていた。

初出勤の日、社内は驚くほど明るかった。

みんなフレンドリーで、服装、髪型、髪色自由。席も自由。立って仕事してる人もいた。

「おっ、新人くん!よろしくな!」

「よろしくお願いします……」

「うちの会社は敬語禁止だよ!ま、敬語の方が良いならいいけど〜!禁止する事が禁止だからねぇ!」ときつね顔の先輩は笑いながらそう言った。

名札には「ニョッキ」と書いてある。
ニョッキ先輩か………

俺はニョッキ、分からない事は何でも聞いてくれよな!


ニックネーム制度があり、私は「トッポギ」という名札をもらった。理由は不明だ。

「残業は絶対禁止です!まぁ、残業したいならいいんですよ!禁止する事が禁止なんで!アハハハ!コンコン………あ、失礼。」と社長。

「お疲れ様、トッポギ君!いつもありがとうねぇ!」そう言って社長は僕の肩をトントンと叩いてくれる。気持ちが良い肩叩きだ。

定時になると、オフィスの照明がスーッと落ちてBGMが流れる。

「おつかれさまでした〜 今日も良くがんばりました〜あなたは偉い〜ホントに偉い〜」

椅子が自動で回転し、玄関の方に向かうようになっている。

主人公トッポギ、回転する。

私はその日、ちょっと書類の直しをしたくて粘っていたら、見周りの人がやってきた。

「トッポギ君!きみ、まだ帰ってないのかい?」

こんこん巡回中!

「すみません、あとちょっとで終わるので……」

「え、やる気?怖っ!ブラックだ〜!しかも謝ったね?うちの社風、分かってないね〜!コンコン…」
と見回りの人。この人も風邪気味?

そして、金曜日。

うちの会社では毎週恒例「おやつ」食べ放題制度があり、その日は「おいなりさん」が大量に並んでいた。

好きなだけ、お腹いっぱい食べてね!

なぜ?と思ったが、みんな普通に手に取っていたので、私もなんとなく食べた。

じゅわっと甘くて、なんか懐かしい味がした。

そのとき、隣の席のレモングラスがまた「コンコン……」と咳払いした。

「あ、失礼」

風邪、流行ってるのかな?自分も気をつけよう。

数週間が過ぎ、社内にも慣れたある日。

私は廊下を歩いていて、ふと社長室のドアが少し開いているのに気づいた。社長にお疲れ様の挨拶でもしようとドアをノックした。

が返事がない。

誰もいないと思って覗き込むと、そこにいたのは──社長じゃなかった。

社長の椅子の上で、一匹のまるまると太ったキツネが丸まっていびきをかいて眠っていた。

ぐーぐー。すやすや。

え……? なにこれ、本物……?

そのとき。

──カン、カン、カン、カン……

遠くから、踏切の音が聞こえてきた。
その音に、胸がざわつく。

「……危ないッ!」

誰かの叫び声とともに、私はガクンと身体を引っ張られた。

次の瞬間、目の前にあったのは強烈な光。

私は、線路に踏み出していた。

列車のヘッドライトが目前に迫っていた。

はわわわわっ!?

「早く!」

駅員の制服を着た人が、私の腕を強く引いていた。

ふらつきながら体勢を戻すと、首に掛けてある物を見た。
そこには──本当に通っている、あのブラック企業の社員証。


現実世界の会社の社員証………?

見るのも嫌な名札、くたびれたスーツ、ため息の匂いがしみついた鞄。

ああ、そうだ。俺は今から出勤だった。
もう何日続けて働いている?
休みはいつとったっけ?
長時間労働。過剰なノルマ。ハラスメント行為が横行している。

さっき、帰り道でここを通ったばかりなのに…もう出勤か……あの会社に…本物の、ブラック企業に──。



電車が過ぎた向こうに──
一匹の太ったキツネが、静かに佇んでいた。

………………

スーツ姿の人々のなかに、ぽつんと一匹。
誰も気づいていない。

だけどそのキツネは、まっすぐ私を見ていた。

「そんなところ、もう行かなくていいんだよトッポギ君。」

あの社長の声がした。あの、やたらと優しくて、やたらとルールのゆるい社長の声。

「そんなブラック企業、行くの禁止だよ……」

くすっと笑って、こう付け加えた。

「あ、禁止なんてないんだけどね」

優しくて、不思議で、少しだけ泣きたくなるような声だった。

「ちゃんと働こうとする姿勢。えらいね、トッポギ君」

その言葉が、胸の奥にぽとんと落ちて、しみわたっていった。

私の肩に、何かがそっと触れた気がした。
トントン、と。あの職場で、何度も社長がしてくれたように──

気がつくと、涙がこぼれていた。

私は鞄を握り直し、通勤とは逆の方向へ、ゆっくりと歩き出した。

〜終〜

最後まで読んでいただきありがとうございました。このお話は有料マガジン【ふしぎ猫夜話】に収録されています。他の短編ホラーもまとめて読めますのでおすすめしております。一度の購入で今後追加されるお話も全てお楽しみいただけます!


こんにちは。私の名前はレモングラス。好きな食べ物は油揚げよ。あ、そこのあなた、有料マガジン買いません?480円でたくさんお話が読めるの^_^
私も休み時間に【ふしぎ猫夜話】よみながら、きつねうどん食べるのにハマっているの。あ、最近社長も買ったって話してくれたわ^_^社長は(ナラサワノギ)ってゆうお話が面白かったって言ってたわ。私はね、………あ話が長くなってしまってごめんなさい。ではまたお会いしましょうね。コンコン。

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