やるだけやって逃げやがったあの男に腹が立つ夜
女性はグラスをカウンターに強く叩きつけ、
声に酒と怒りが混じって震えていた。
「マジで許せない……あのクソ野郎。
やるだけやって、全部捧げたのに、逃げやがった。
私がキャリアも夢も諦めて、あいつのために支えて、家のこと全部やって、
体も心も捧げて、尽くしたのに……
『ごめん、俺には荷が重い』の一言で、
全部投げ出して新しい女のところに行きやがった。
あいつが苦しいときにずっと隣にいたのは私なのに、
あいつが成功し始めた途端に『お前とはもう合わない』って。
今頃、若い女と楽しそうにやってるんでしょ?
考えるだけで吐き気がする。
殺したいくらい憎い。
でも同時に、未だにあいつのことが頭から離れなくて、
自分が情けなくて嫌になる。
『なんであんな男に本気で尽くしたんだろう』って、
後悔と怒りで毎晩胸が潰れそう。
……本当に、最低の男だった。」
女性は唇を噛み、グラスを空にした。
隣に座っていたスナフキンが、静かに煙草の煙を吐きながら言った。
「…裏切られた痛みは、簡単には消えないよな。
君が一生懸命愛した時間は、無駄なんかじゃない。
ただ、相手がそれを受け止めきれなかっただけさ。
憎んでもいい。悲しんでもいい。
でも、その痛みの中に君の優しさと真剣さも、ちゃんとあったことを忘れなくていい。」
リトル・ミーが、脚を組んだまま少し苛立ったような笑みを浮かべて言った。
「逃げた男なんて、最初からゴミよ。
やるだけやって尽くしたあなたが馬鹿みたいじゃない。
『私の価値を分からなかった男』って、さっさと切り捨てなさいよ。
未練なんか持ってるだけ損。
次は、もっと自分を大事にしてくれる人間を探せばいいの。
あんな男に人生邪魔されるなんて、絶対に嫌でしょ?」
カウンターの奥でグラスを磨いていたムーミンパパが、
温かくも力強い声で静かに語りかけた。
「君が注いだ愛は、嘘じゃなかった。
それを受け取れなかった彼の弱さは、君の責任じゃないよ。
怒っても、悔やんでも、悲しんでもいい。
全部感じきった先に、君はまた新しい朝を迎えることができる。
私はここで、君のその全てを見守っているよ。」
やるだけやって、逃げられた夜。
裏切られた怒りと後悔で胸が焼ける夜。
そんな激しい感情すら、
スナフキンは静かに肯定し、
リトル・ミーは現実的な強さを、
ムーミンパパは全てを包み込む優しさを、
そっと置いていってくれる。
あなたの中にいる、言ってはいけない憎しみと切なさも、
このバーでは、ただの「人間らしい叫び」として、
受け止めてもらえるのかもしれない。
