なぜ、選ばれる人は説明しすぎないのか。
「しまった……。」
その時の彼女の落ち込んだ気持ちを言葉にするとすれば、
「一生懸命話したのに、逆に断られてしまった。」
という言葉になるのだろうと思います。
これは、私どものビジネスセミナーの受講生が、セミナーで発表くださった話です。
彼女は38歳の女性経営者でした。
自分で小さなデザイン事務所を経営しています。
その日は、大きな仕事につながりそうな商談でした。 相手の会社は、地元では有名な企業です。
1時間の打ち合わせの予定でした。
彼女は前の日から準備をしていました。
過去の実績。 使っているソフト。 デザインの考え方。 制作の流れ。 料金の違い。 成功事例。
話したいことを、ノートにびっしり書いていました。
「これだけ説明すれば、きっと分かってもらえる。」
そう思っていました。
商談が始まると、彼女は一生懸命に話しました。
質問される前に説明する。 不安が出ないように先回りして説明する。 沈黙が怖くて、次々と話を続ける。
気がつくと、1時間のうち50分以上、自分が話していました。
そして最後。
相手の社長が笑顔で言いました。
「よく分かりました。少し社内で検討します。」
しかし、その後、連絡はありませんでした。
数週間後、知人を通じて理由を聞きました。
「すごい人なのは分かった。でも、うちの話をあまり聞いてもらえなかった。」
その言葉を聞いたとき、彼女は頭が真っ白になったそうです。
本当の目標は、自分の能力を認めてもらうことではありませんでした。 長く付き合えるお客様と出会うことでした。
では、何が起きていたのでしょうか。
説明が足りなかったのでしょうか。 資料が悪かったのでしょうか。
違います。
説明しすぎて、相手の不安を増やしていたのです。
日本人は、情報が多い人を選んでいるわけではありません。 知識が豊富な人を選んでいるわけでもありません。
自分の話を受け止めてくれる人を選んでいます。
たくさん説明されると、
「この人は私のことを分かってくれているのかな。」 「こちらの事情は聞いてもらえるのかな。」
そんな小さな不安が生まれます。
逆に、
少し話して、よく聞く。 相手の言葉を確認する。 分からないことを質問する。
その方が安心できます。
だから日本人は、話が上手な人より、 自分の話を聞いてくれる人を選ぶのです。
教訓は、
『人は安心できる人を選ぶ。』
ということでした。
その後、彼女は商談のやり方を変えました。
最初の30分は、自分から説明しない。 まず相手に話してもらう。 困っていることを聞く。 そして必要なことだけを短く伝える。
すると、不思議なことが起きました。
以前より説明する時間は半分になったのに、契約が増え始めたのです。
あるお客様からは、
「話をちゃんと聞いてくれたので、お願いしたくなりました。」
と言われました。
彼女は、その時初めて気づいたそうです。
人は、たくさん説明してくれる人を選ぶのではない。 自分の不安を増やさない人を選ぶのだと。
仕事も、営業も、恋愛も、人間関係も同じです。 最後に選ばれるのは、話がうまい人ではありません。 安心して話せる人なのです。
この出来事は、私どものビジネスセミナーにおける、新しい改善ノウハウとして積み重ねられました。
