なぜ、選ばれる人は約束を軽く扱わないのか。
「たった5分だから、いいか……。」
その時の彼女の落ち込んだ気持ちを言葉にするとすれば、
「小さな遅刻が、こんなに響くとは思わなかった。」
という言葉になるのだろうと思います。
これは、私どものビジネスセミナーの受講生が、セミナーで発表くださった話です。
彼女は36歳の営業担当者でした。
仕事はできる方だと自分でも思っていました。 提案資料も丁寧、話し方も感じが良い。 数字も、そこそこ出していました。
ただ一つ、小さな癖がありました。
約束の時間に、いつも5分から10分遅れるのです。
「たった5分だから」 「渋滞していたし」 「前の打ち合わせが延びただけ」
そう思って、自分では大きな問題だと考えていませんでした。
ある月、大きな案件を競合と争うことになりました。
相手は同じ業界の、もう一社の営業担当者。
彼女は、その相手のことを内心見下していました。 話し方も特別うまくない。 資料も飾り気がない。 提案の内容も、決して斬新ではない。
それなのに、契約はその相手に決まりました。
理由を、後から取引先の担当者にそっと聞くことができました。
「正直、提案の中身はどちらも良かったんです。ただ、あちらは一度も遅れたことがなくて。」
その一言で、彼女は言葉を失いました。
数週間後、その競合の営業担当者と、別の場所で顔を合わせる機会がありました。
彼女は思い切って聞きました。
「どうして、いつも時間どおりなんですか。」
すると相手は、少し照れながら答えました。
「特別なことはしていません。約束の時間の10分前には着くようにしているだけです。」
「早く着きすぎたら、車の中で資料を見直しています。」
彼女は驚きました。
自分は、 「遅れないようにしよう」 と思っていただけでした。
相手は、 「早く着く仕組み」 を作っていたのです。
彼女の本当の目標は、契約を取ることではありませんでした。 「この人になら任せられる」と思われる営業になることでした。
ここで、日本人の選択行動を考えてみましょう。
人は、話がうまい人を選んでいるようで、実は少し違います。
小さな約束を守る人に、安心するのです。
5分の遅刻は、仕事に大きな支障を与えません。 しかし、人はそこに、こう感じてしまいます。
「この人は、大事な場面でも遅れるかもしれない。」 「時間に対してこの程度なら、納期に対してもこの程度かもしれない。」
小さな約束の乱れは、目に見えない不安を生みます。
逆に、時間をきっちり守る人には、こう感じます。
「この人なら、他のことも守ってくれそうだ。」
能力より先に、 一貫性が見られているのです。
日本人は、大きな失敗よりも、 小さな違和感の積み重ねに敏感です。
だから、約束を守る人は、 静かに、しかし確実に選ばれていくのです。
教訓は、
『人は安心できる人を選ぶ。』
ということでした。
その後、彼女は一つだけ習慣を変えました。
約束の時間の10分前に着くようにしたのです。
早く着いた時間は、資料の見直しや、相手への質問の準備に使いました。
すると、少しずつ変化が起きました。
「いつも時間より早いですね」
そう言われることが増え、以前より深い相談を受けるようになったのです。
半年後、ある取引先の担当者から、こんな言葉をもらいました。
「時間を守る人だから、他のことも安心してお任せできます。」
彼女はその時、ようやく分かったと言います。
信頼は、大きな実績だけで作られるのではない。 小さな約束を守り続けることで、静かに積み上がっていくのだと。
人は、能力の高さだけで選ばれるのではありません。 小さな約束を軽く扱わない人に安心し、その安心が信頼へと変わっていくのです。
この出来事は、私どものビジネスセミナーにおける、新しい改善ノウハウとして積み重ねられました。
