12)チェックシートを使わない企画は犯罪レベル──USPより先にやるべきことがある
① 「商品はいいのに売れない」という、悲劇の処方箋
初めて相談に来る方々の多くが、まるで判で押したように同じ言葉を口にします。
「品物は、本当にいいんです」
「他との違いも、はっきりとさせています」
「細部まで、魂を込めて作り込みました」
……それなのに、売れない。
ここで多くの方は、さらに深く頭を抱え、迷路の中へと分け入ってゆきます。「もっと他にはない魅力を足さなければ」「もっと凄さを付け加えなければ」。
けれど、現場という名の戦場で起きている現実は、それとは全く別の姿をしています。
売れぬ原因は、何かが足りないからではありません。
「余計なもの」が、そこに居座り続けているからです。
ほんの些細な、心のさざなみ。
言葉にすらならない、小さな引っかかり。
説明を読み進めるうちに生じる、わずかな迷い。
その「微かなノイズ」が、お客様の最後の一歩を、冷たく止めているのです。
私は四十有余年の月日、売れぬ現場をこの目で、そしてこの肌で感じ続けてきました。
その長い旅路の中で、例外など一度たりともありませんでした。
売れぬ理由には、必ず「正体」があります。
そしてそれは、必ず消し去ることができます。
それなのに、なぜ多くの方はその正体を見ようとしないのでしょうか。
見つけるのが難しいからではありません。
「見ようとしていない」だけなのです。
その代わりに、彼らは何に心血を注いでいるのか。
独自の売り(USP)をひねり出す。物語を練り上げる。言葉を研ぎ澄ます。広告を打つ。
はっきり申し上げましょう。順番が、逆なのです。
「嫌われる要因」を残したまま、どれほど魅力を積み上げたところで、結末は変わりません。
それどころか、逆効果になることさえあります。
魅力が語られれば語られるほど、お客様の心はかえって慎重になり、身を硬くしてしまうからです。
この章では、その隠された真実を深く掘り下げてゆきます。
売れるために「何を足すか」ではありません。「どう消すか」ですらない。
もっとその手前にある、本質的なお話をしましょう。
「なぜ、チェックシートのない企画は成立しないのか」という、切実な一点についてです。
② なぜ、チェックシートという「鏡」が必要なのか
なぜ、チェックシートが必要なのか。
その理由は、ただひとつに集約されます。
「人は、自らの欠点からは目を背けたくなる生き物だから」です。
これは性格の問題でも、才能の有無でもありません。
人間の思考という名の「構造」が、そうなっているのです。
人は自らが心血を注いで生み出したものに対して、どうしても愛着という名の「曇り」が生じてしまいます。
これだけの月日を捧げた。
ここまで深く、考え抜いた。
幾度もの試行錯誤を、乗り越えてきた。
その熱量の分だけ、視界は遮られます。
本来なら気づくはずの違和感を見逃し、本来なら削ぎ落とすべき蛇足を、大切に残してしまう。
さらに厄介なのは、その「ズレ」が、本人には到底気付かぬほど微細であることです。
説明が、ほんの少しだけ長い
表現が、わずかに分かりにくい
言い回しが、ほんの少し押し付けがましい
感覚が、どこか古めかしい
どれも、致命的な傷には見えないかもしれません。
けれど、お客様の受け取り方は、残酷なほどに違います。
この「わずかな」違和感が地層のように積み重なったとき、「選ぶ理由」よりも「選ばない理由」が、心の秤で勝ってしまうのです。
そしてもうひとつ、認めがたい真実があります。
人は無意識のうちに、自分にとって都合の良い言葉だけを拾い集めてしまう。
「いいですね」という誉め言葉はいつまでも胸に残りますが、「なんとなく、しっくりこない……」という反応は、風のように聞き流してしまう。
これでは、お客様に嫌われる要因は一向に消え去りません。
だからこそ、強制力を持った「チェックシート」という名の規律が必要なのです。
主観という名の霧ではなく、客観という名の「項目」で見つめる。
曖昧な印象ではなく、決まった「順番」で澱みを潰してゆく。
「たぶん大丈夫だろう」という慢心を、潔く捨てる。
「項目を一つずつ指差し確認し、懸念を消し込む」。
この修練を省略した企画は、どれほど見た目が美しく着飾っていても、この厳しい市場では通用しません。
あえて断言いたしましょう。
チェックシートを使わぬ企画には、再現性など一欠片もありません。
再現性のないものは、プロの仕事とは呼べません。
厳しい言い方をすれば、それは単なる「趣味の延長」に過ぎないのです。
本気で実りを得たいと願うなら、まず、この甘い認識を根底から改めるしかありません。
③ USPよりも先に、澱みを消し去る理由
なぜ、他との違い(USP)を語るよりも先に、「チェックシート」を広げねばならないのか。
ここを取り違えると、どんなに知恵を絞っても、心の歯車は噛み合わなくなります。
多くの方は、まずこう考えます。
「まずは、自分たちの強みをはっきりさせねば」
「他社との違いを打ち出さなければ、選んでもらえない」
その考え自体は、決して間違いではありません。
ただ、取り組む「順番」が致命的に違っているのです。
「嫌われる要因」が放置されたまま旗印を掲げても、その旗印そのものが、疑いの目で見られてしまうからです。
たとえば、
「業界で一番の実績」
「圧倒的な美しさ」
「唯一無二の技術」
これらの言葉は、本来なら最強の盾となるはずです。
けれど、もし以下のような状態だったら、あなたはどう感じるでしょうか。
説明が、無駄に長い
お代の根拠が、どこか不透明
申し込みまでの道のりが、あまりに不親切
書き付けの作りが、どこか雑
この状況でどれほど「強み」を叫ばれても、お客様の目には魅力的になど映りません。それどころか、言いようのない不信感へと変わってゆきます。
「本当に、そんな実績があるのか?」
「話を大きく盛っているだけではないか?」
「後で、何か面倒なことになるのではないか?」
期待よりも先に、疑念という名の影が膨れ上がってしまう。
つまり、嫌われる要因が残っている限り、強み(USP)は「毒」にさえなり得るのです。
だからこそ、勝つための手順は、古今東西決まっています。
嫌われる要因を、徹底的に、執拗に潰す
お客様の心の引っかかりを、ゼロに近づける
その清らかな土台の上に、初めて強み(USP)を乗せる
この順序を頑なに守れば、あなたの強みは、お客様の心にスッと自然に届きます。
疑われることなく、警戒されず、素直に受け入れられるのです。
逆に言えば、この階段を飛ばす限り、どれほど輝かしい強みも、光を放つことはありません。
整理しましょう。
強み(USP)は「選ばれる理由」を作る、攻めの作業。
対してチェックシートは、「選ぶのを止めている原因」を取り除く、守りの作業です。
特にこの日本という繊細な市場においては、「選ばれる理由」よりも「止めている原因」の影響力のほうが、圧倒的に強いのです。
だからこそ、後者に真っ先に取り掛からねばなりません。
この原則を外した瞬間、あなたの努力はすべて、空回りし始めるでしょう。
④ チェックシートで「何を」見つめるべきか
ここが曖昧だと、単なる形式的な確認作業で終わってしまいます。
私が現場で実践しているのは、極めて簡潔な方法です。
「お客様の手が、思わず止まってしまう要因」。それだけを洗い出します。
優れた点も、誰かに褒められた部分も、一旦すべて脇に置く。
ただひたすら、「止まる要因」だけを、棘を抜くように拾い上げるのです。
具体的には、以下の5つの視点に絞り込みます。
1. 理解の引っかかり
一度読んだだけで、スッと意味が頭に染み渡るか?
余計な難しげな言葉が、混ざり込んでいないか?
読み返さないと理解できない箇所はないか?
※ここで思考が止まれば、お客様は二度と戻ってはきません。
2. 価格の違和感
そのお代である理由が、心からの納得感を持って伝わるか?
他と比べなくても「これでいい」と思えるか?
安すぎて、逆に不安を抱かせはしないか?
※お代は安ければいいわけではありません。**「納得感」**があるかどうかが、すべてです。
3. 手間の重さ
申し込みまでの道のりは、迷いなく明快か?
書き入れる項目が多すぎて、嫌気がさしはしないか?
次に何をすべきか、迷う場面はないか?
※「面倒くさい」という感情は、それだけで最大の拒別理由になります。
4. 不安の残存
約束事や支えとなる体制が、一目で分かるか?
手にした後の流れが、具体的に思い描けるか?
「もしも」の時の支えが、示されているか?
※ここが曖昧だと、お客様は最後の最後で「やっぱりやめよう」と踏みとどまります。
5. 隠れた違和感の気配
装いや表現に、古臭さを感じさせはしないか?
こちらの都合を押し付けるような「強引さ」はないか?
言葉にできない「なんとなくの引っかかり」はないか?
※理屈で説明できなくても、お客様はこの違和感を鋭く察知します。
この5項目を、一つずつ徹底的に潰してゆく。
ここで重要なのは、「一切の妥協をせず、すべてやり切ること」です。
たった一つでも穴が残っていれば、そこが滞りの原因となり、すべてを台無しにしてしまいます。
そしてもう一点、鉄則があります。
この確認には、必ず「第三者の目」を入れること。
当事者には、自らの死角(ブラインドスポット)は決して見えません。
相手に近い視点を持つ方に、できれば複数人に見てもらうのが理想です。
そこで指摘された違和感は、すべて真摯に受け止める。
軽くあしらったり、言い訳をしたり、反論したりしてはいけません。
指摘されたら、黙って直す。
これができるかどうかが、プロとしての成否を分けます。
チェックシートは、単なる事務的な道具ではありません。
「自らの思い込みという名の呪縛」から逃れるための、救いの装置なのです。
◯ この投稿を書くにあたり、再速読した本
ここまでの話は、私が現場で積み上げてきた「事実」に基づいたものですが、その正しさを裏付けてくれる英知も数多く存在します。
①『行動経済学が最強の学問である』
人は「得をすること」よりも「損を避けること」を本能的に優先します。この大前提がすべてを支配しています。どれだけ魅力的な提案でも、わずかでも「損をしそうだ」と感じさせる要素があれば、人は動きません。
②『UXデザイン100の原則』
使いにくさや分かりにくさは、そのまま「離脱の引き金」になります。「どれほど優れているか」よりも「どれほど引っかからないか」で勝負は決まるのです。
③『こうして顧客は去っていく』
お客様は文句を言わずに、静かに去ってゆきます。不満が出てから直すのでは、もう遅い。チェックシートで先回りして潰すしかないのです。
④『最善のリサーチ』
無駄な調査を増やすのではなく、「どこで行き詰まっているか」を一点に絞って特定する。三現主義(現場・現物・現実)の考え方を、理論的に支えてくれます。
⑤『UXライティングというビジネス』
たった一言の表現で、人は「進む」か「止める」かを決めます。文章の本質は「うまく書くこと」ではなく、「読者を立ち止まらせないこと」にあるのです。
これら五冊の共通点は、たったひとつ。「商品を良くしようとする前に、顧客買うのを止めない工夫をせよ」ということです。
⑤ この修練を怠る場所は、どうなるか
答えは、残酷なほどに単純です。
永遠に「あと一歩」というところで、足踏みを続けることになります。
まったく売れないわけではありません。反応もそこそこあるし、たまに風が吹くこともある。
けれど、それが続かないのです。
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「売れる仕組み大全」徹底日本市場対応
日本市場は、世界でも稀な「成熟・同質・高要求」の特殊市場です。 価格だけでは売れず、機能だけでも選ばれず、広告を打っても成果が出ない。 そ…
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