【ショートショート】 だって十二月だから
十二月に入ると、僕はいつもより少しだけ妻との会話に神経を尖らせる。
今年のクリスマスプレゼントのヒントが欲しくて、僕は彼女の言葉の端々に注意を払うのだ。
一番欲しいものは知っている。
でもそれはどこかで買うことはできない。彼女の毎月がっかりする顔を見るのは辛いけれど仕方がない。僕たちは、授かるまでただ待つしかないのだ。
今夜は急に冷え込んだのか風が強い。
窓の外からは枯れ葉が道路で翻弄される音が絶え間なく聞こえてくる。
こんな夜は家の中の温かさが嬉しい。幸せだなって感じる瞬間だ。
食事を終えた僕たちは窓際で本を読むことにした。
読書用にそれぞれが好きなデザイン、なおかつ座り心地のいいものを選んで買った大切な椅子たちがある。
傍らの小さなテーブルに置いたココアのマグカップからは、まだ湯気が上がっている。ちかちかと光るクリスマスツリーのライトが、この季節だけの楽しさを運んでくれることも心を和ませていた。
二人揃って本好きだから、読みだすと会話も少なくなる。
もう少しだけ話を続けて、欲しいものを聞き出そうかなと考えていた時、彼女が決心をしたような表情で僕を見た。
「あのね。命のあるものは避けて欲しいの」
僕はどきりとした。
「何の話?」
彼女は首をほんの少しだけ右に傾けて微笑んだ。
「クリスマスプレゼントは何にしようかなって悩んでるでしょう?」
僕は言い当てられてうろたえた。彼女の眼が笑っている。
「分かるわよ。だって十二月だから」
でもね、と彼女が言葉を続けた。
願掛けっていうのかな。例えばお花とか、命のあるものを今はもらいたくないの。おかしいって思うかもしれないけれど。
僕は分かったと頷いた。がっかりするものをあげたいはずがない。
話してくれてありがとうと言おうとした時、彼女が言った。
「ペットも同じ」
僕はどきりとした。
実はなにか可愛らしい生きものはどうだろうと少し考えていた。
動物好きの彼女の、ペットショップをのぞいた時の嬉しそうな微笑みが僕の心にずっとあったからだ。
「分かった」
僕の言葉に彼女は安堵の表情を見せて、「ごめんね」と呟いた。
「謝らなくて、いいんだ」僕も思わず呟いた。
大切な人を喜ばせるのって難しい。
元気がない時はなおさらだ。
いつも彼女は明るかったから、もしかするとそのことに僕は少し甘えていたのかもしれない。
でも夫婦の歴史ってきっとこんなものだ。
楽しい時間も悲しい時間も混ぜこぜにやって来る。
「本を読もうか」
僕の言葉に彼女は静かに頷いた。
プレゼントのアイディアは、もう一度最初から考えてみよう。
そんな時間も悪くない。
だって十二月だから。
クリスマスってきっと、そんな時なんだ。
<了>
文字数1084字
最後まで読んで下さってありがとうございました。
シロクマ文芸部さん企画の参加作品です。
お題は、「十二月」から始まる創作でした。
シロクマ文芸部さん、いつも楽しい企画をありがとうございます!
