製造業で疲れて、タクシーで再生した話(第4回)東京で出会った“自由すぎるタクシーの世界”
東京に来て、最初は経験を活かそうと製造業の求人を探したが、年齢や条件が合う職場がなかなか見つからなかった。
そんなとき、なんとなく眺めた求人サイトで目に入ったのが——
タクシー会社の募集だった。
当時の俺は、タクシー運転手に良いイメージなんて一つも持ってなかった。
「最後の選択肢」くらいの気持ちで面接に行った。
だが、話を聞いてすぐに気づいた。
——この業界は自由度が桁違いに高い。
■ 「上司の顔色を読む」という文化そのものが存在しない
面接で内勤の人に言われた最初の一言。
「運転手さんは基本、自分の責任で考えて走る仕事なんで。」
上司と話すのは点呼の前後だけ
評価もほぼない
会議なし
根回しなし
社内政治なし
提案書・資料作りゼロ
言われたのはただ一つ。
「事故起こさなかったらやり方は自分で決めていいよ。」
研修中に先輩乗務員の話を聞いていてさらに驚く。
「今日しんどいし帰る」
「子どもの行事あるから休み」
「今日はやる気出んから、流して早めに戻るわ」
こういうセリフが普通に飛び交う。
そして内勤も「わかりました」と当たり前のように返す。
自分の都合がちゃんと通る仕事。
この文化に触れた瞬間、「あ、ここは別の価値観の世界だ」と気づいた。
■ “働かせすぎ禁止の制度”が業界を支えている
タクシーの世界は、実は法令によって働き方がガチガチに決まっている。
月12勤務(多くて13)
1勤務20時間・うち休憩3時間が義務
過労を法律上禁止
「働かせすぎ」という概念自体が成立しない仕組み
前の職場のような、暗黙や根性や空気で残業を強制する構造がそもそも存在しないい。
■ そして“働き方の幅”が異常なほど広い
隔日勤務という枠の中で、どれだけ稼ぐか・どんな働き方をするかは自分で決める。だからここには、とんでもない幅の働き方が共存している。
● ① ギリギリまで稼ぐタイプ(超効率派)
この人たちは、一見ストイックに見えるが、実は 体力と効率のバランスを極限まで追求した動き をしている。
休憩=休む時間ではなく「消化する時間」
喫煙・飲み物購入・小休憩・軽食・トイレも全部休憩に入れる
付け待ち(待機時間)も休憩として合わせる
数分単位で「どこで休憩を消化するか」を計算
体力が切れないギリギリを攻める
つまり、“休憩を効率よく消化しながら、稼働時間を最大化する”
これが稼ぎ方の本質になる。
彼らは無茶をしているようで、実は合理的。
● ② 無理をしないタイプ(安定派)
こちらはまったく正反対。
「そこまで金いらん」と割り切る
早めに戻って洗車しながら規定労働時間を埋める
月で35万もあれば十分という価値観
穏やかで、生活優先型。
● ③ 空気を読まず“自分の希望をそのまま言うタイプ”
極端な例だと、俺はこんなやり取りを聞いた。
「俺、土日出たくないからさ。今後土日に当たる日は今後シフト入れんといてな。」
これを普通に点呼で運行管理者に言う。
でもそれが普通に通ってしまうのがタクシー業界。
前の会社ならそれっぽい理由をでっち上げて休んでた案件だったが、ここでは“希望として承認”で終わる。
この文化は本当に驚いた。
■ 初乗務で感じた「これめちゃくちゃ楽やん……」の感覚
初めてハンドルを握って道路に出た日。
まだ不慣れな都内の道を走っていて気づいた。
——俺を見張る人間がいない。
ルートは自分で決める
判断もすべて自分
仕事はその日で完結
誰かの評価も圧力もない
道路と車と自分と、お客さんだけ。
気づけば心の中でつぶやいていた。
「あれ……これ、めっちゃ楽やん……」
■ “仕事が終わったら本当に終わり”という世界
会社に戻って日報提出して納金をすると、仕事が完全に終わる。
次の日のことを考える必要なし
上司からのLINEや電話もなし
「前の件だけど…」が一切ない
家に帰れば完全に自由
昔の職場では、仕事が家に侵入してきていた。
タクシーは、それがまったくない。
タクシーは逃げ場ではなかった。俺が“やっと人間として呼吸できる場所”だったんだと思う。
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