ヒミツのスンスン外交(ハムスター日記⑳)
いきなり変なことを言うけれど、
どうかブラウザバックしないで聞いてください。
ハムスターは、いい匂いがする。
「え、ネズミでしょ?臭くないの?」
そう思った、そこのあなた。
ノンノンノン。
彼らは汗をかかないし、きれい好きの極み。
その体からは、なぜか「干したてのお布団」とか「映画館のポップコーン」みたいな、香ばしくて幸福な匂いがするのだ。
だから、ハムスターを吸う人間が出てくる。
ふわふわの背中に鼻を埋めて、スーハースーハーと深呼吸する。
これをハム飼いたちは、「ハム吸い」と呼ぶ。

そして今、わたしは問題を抱えている。
うちのキンクマハムスター・ぽんぽこ(♂)が、とってもビビりで、ハム吸いを拒否するのだ。

ぽんちゃん、こわがりですから… 》
先代のハムちゃんたちは、みんな大らかだった。
「おう、吸うか?」と言わんばかりに、わたしの手の中で餅のように伸びてくれた。
でも、ぽんぽこは違う。
わたしがそーっとでも顔を近づけようものなら、
「ヒィッ!!!」
ズボッと巣箱に逃げ込んでしまう。

彼にとって、わたしは巨人だ。
なんなら、進撃の巨人だ。
そりゃあ怖いよね。
わかる。
わかるけど、寂しい。
わたしはただ、ぽんぽこの匂いをちょこっとだけ吸わせて欲しいだけなのに。
そこで、わたしは思いついた。
「直接吸うのが無理なら、
まわりの空間ごと吸えばいいじゃない」
マリー・アントワネットも膝を打つような、妙案である。
人呼んで、「間接ハム吸い」である。
そのやり方は、こうだ。
① ケージの扉を開ける。
② わたしの頭を、入るところまで突っ込む。
③ 巣箱の入り口付近の空気を、全力で吸う。
はたから見れば、大のオトナがケージに頭を突っ込んで静止しているという、シュールな光景である。
でもこれは、わたしなりの真剣な愛のカタチなのだ。
わたしは巣箱の前で、鼻呼吸を繰り返す。
スンスン。スンスン。
ぽんぽこ、出てきて。
巨人はここにいるよ。
すると。
巣箱から、ピンク色の小さな鼻先が、
ピョコッと出てくるではないか。

ぽんぽこも、鼻をヒクつかせている。
ぽん「スンスン。スンスン」
おっ……?
……いける?と、思った瞬間。
わたしは気づいてしまった。
ぽんぽこの鼻が、尋常じゃないスピードで動いていることに。

これは警戒だ。
完全に警戒の動きである。
わたしは慌ててケージから頭を抜く。
巨人、やらかした。
愛が重すぎた。
ごめん。怖かったよね。
そしてぽんぽこは、わたしが去ったあとの空間を、念入りにパトロールしはじめた。
①回し車の裏

②床材の中

③給水ボトルの上

巨人がいねぇことを確認すると、
ぽんぽこは「ヨシ」とばかりに、ズボッと巣箱へ戻っていった。
こうして「スンスン外交」は決裂したのである。

ぽんぽこ、本当にごめん。
もう二度と、ケージに頭は突っ込まないって決めた。
だから許してね。
いつか「吸っていいよ」って顔してくれるようになったら、嬉しいな。
それまでは、遠くからそっと空気だけ吸わせてもらうことにする。
スンスン。スンスン。

ここまで読んでくださってありがとうございました。
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