水の技術と未来に触れる──栗田工業「Kurita Innovation Hub」視察記
先日、東京都昭島市にある栗田工業の研究開発拠点「Kurita Innovation Hub(KIH)」を訪れました。
2022年に開設されたこの施設は、「水と環境の未来を共に描く」ことをテーマにした共創の場です。
白を基調とした開放的な空間には、研究者だけでなく、企業や大学、自治体など、多様な人たちが集い、社会課題の解決に向けて議論を交わす仕組みが整っています。
単なる研究所ではなく、“対話からイノベーションを生む場所”という印象を強く受けました。
そこから見える栗田工業のイノベーションに迫ります。
そして、実際に見て気づいたこと、学んだことをここにまとめたいと思います。
創業精神と進化──「効果を売れ。彼(顧客)は物を買うのではない。」
まず案内いただいたのは、栗田工業の歴史が書かれたスペースでした。
創業は戦後の復興期。海軍出身の創業者が、ボイラや洗浄の事業からスタートさせました。「効果を売れ。彼(顧客)は物を買うのではない。」といった営業指針に基づくなど、水質分析データに基づく処理効果を見える化した画期的なビジネスモデルを構築。こうして日本の産業発展を「水」の側面から力強く支えてきた歴史が描かれます。

しかし、印象的だったのは90年代の転機です。産業発展の陰で「土壌汚染」が深刻な社会課題として浮上した際、栗田工業は水処理で培った技術を応用し、この環境問題の解決に真正面から取り組みました。
これは、同社が単なる「水の技術屋」ではなく、時代の要請する「社会課題の解決」をこそ自社の使命と捉え、事業をピボットさせてきた証左です。視察時には歴史だけでなく栗田工業の基盤技術に関する説明もあり、水処理が“精密さ”と“信頼性”を極める技術であることを実感しました。

イノベーションの心臓部「TIC」で見た、圧倒的技術力
続いて案内いただいたのが、KIHの中核を成す、研究開発施設「Technology Innovation Center(TIC)」です。
オープンなコミュニケーションを誘発するように設計された開放的な空間とは裏腹に、その内部には世界でも類を見ないレベルの研究開発設備が凝縮されていました。
半導体産業を支える「超純水」という技術の極致
栗田工業の技術力を象徴するのが「超純水」です。これは、50mプール(オリンピックプール)の広大な水の中に、スポイト一滴の不純物も許さないという、ほぼH2Oのみで構成される究極の水です。
現代の高度な半導体製造は、この超純水なしには成り立ちません。栗田工業はこの分野で圧倒的なシェアを持ち、単に装置を販売するだけでなく、顧客の半導体工場に常駐し、超純水の安定供給そのものをサービスとして提供する「超純水供給サービス」を展開しています。これは、ミクロン単位の不純物が許されない最前線で、絶対的な技術信頼性を勝ち得ている証拠です。「用水から排水まで」を網羅する分析・実験・研究体制
TICで驚かされたのは、その「幅広さ」と「深さ」です。産業で使われる「水」の入口(用水)から出口(排水)まで、そのプロセス全体を網羅する研究が行われています。
特に電子産業(半導体など)の売上比率が高い同社ですが、一般的にコストセンターと見なされがちな「排水処理」にも、用水と同等、あるいはそれ以上の研究リソースを割いている点に注目すべきです。栗田工業は、排水を単なる「廃棄物」ではなく、有価物を回収できる「資源」として捉えています。
それを可能にするのが、世界有数の「水に関する分析センター」としての機能です。TICには最新鋭の分析機器が並び、日々、日本全国、そして世界中のクライアントから分析対象が送られてきます。この高度な分析能力こそが、顧客の課題を解決するソリューション開発の源泉であり、新たな技術革新の基盤となっているのです。
経営の中核にある「社会価値起点」のイノベーション創出
栗田工業は「社会価値起点からのイノベーション創出」こそが自社の持続的な成長エンジンであると明確に定義していますが、今回の視察で最も強く感じたのはその本気度です。KIHは、まさにその経営戦略を具現化するために作られた「装置」なのです。
栗田工業は3つのフォーカスエリアを定めています。

水:従来の強みである超純水製造や排水回収技術のさらなる深化。
エネルギー:水処理技術を応用した地熱発電所向けのソリューションや、徹底した省エネルギーソリューションの開発。
資源循環:排水や廃棄物から有価物を回収する技術。
特に注目すべきは、「水」で培った圧倒的な技術力を、「資源循環」や「エネルギー」へと積極的に拡大している点です。具体的には、次世代型の廃棄物マネジメントや、分散型エネルギー・炭素循環といった、まさに現代社会が直面する最重要課題への取り組みを強化し、革新的な製品・技術だでなく、そのビジネスの創出も目指しています。
KIHでパートナーと共創・実装する未来
栗田工業は、これらの壮大な目標を「自社だけ」で達成しようとは考えていません。KIHの「Hub」という名前の通り、ここは社内外の多様な知見や技術が出会い、化学反応を起こすための「共創のプラットフォーム」として設計されています。
KIHを視察して確信したのは、栗田工業がスタートアップや研究者等の外部共創パートナーに対して提供できるアセットの大きさです。
圧倒的な技術・施設基盤:栗田工業・KIHが持つ超純水技術や世界トップレベルの水分析・研究能力を、研究開発に活用できます。
強固な顧客基盤と実装力:半導体から食品、鉄鋼、医薬まで、あらゆる産業のトップ企業との強固な信頼関係があります。革新的な技術(シーズ)を、絵に描いた餅で終わらせず、社会実装する「現場」を栗田工業は持っています。
明確なビジョン:「サステナビリティ」という揺るぎない経営ビジョンは、社会課題の解決を目指す研究者やスタートアップにとって、これ以上ない羅針盤となるはずです。
視察を終えて
「Kurita Innovation Hub」を訪れ、私の「水の会社」というイメージは完全に刷新されました。栗田工業は今、「水」を基点にしながらも、エネルギー、資源循環というより大きな社会課題の解決へと挑む、真のイノベーション企業へと変貌を遂げています。
水、エネルギー、資源循環の未来を共に創造するパートナーを、栗田工業・「Kurita Innovation Hub」には優れた技術を社会実装するための、最良のフィールドがここにあると強く感じた視察でした。
ご協力いただいた栗田工業株式会社の皆様、貴重な機会をご提供いただき、有難うございました。

