まだまだ「誹風柳多留」三篇② 夜も更けて江戸には多くの職があり
江戸庶民の生活を知ることができる古川柳。数え切れない数の庶民が、数え切れないほどの作品を作っている。
82 仲人も夜ふけて呼べば虫をやみ すてて置きけりすてて置きけり
虫をやむ、とは、腹痛がすること。夜更けに仲人が呼ばれても、どうせいつもの夫婦げんかだろう。ほっとけほっとけ(すてて置け)ということで、腹が痛いと仮病を使う。
95 屁をひって おかしくも無い一人者 すてて置きけりすてて置きけり
107 うたた寝も上ひんなのは 本を持ち 見事なりけり見事なりけり
67 麦ばたけ ざわざわざわと二人逃 見へつかくれつ見へつかくれつ
田んぼには水を張って、稲は水の中で育つが、麦は畑で育つ。だから、麦畑ではヒバリやキジが巣を作ったりする。鳥だけでなく人間も、周りから見えない麦畑に入っていちゃいちゃしている。
♪誰かさんと誰かさんが麦畑 チュッチュッチュッチュッしている いいじゃないか
♪僕には恋人いないけれど いつかは誰かさんと 麦畑 (なかにし礼・詞「誰かさんと誰かさん」歌・ザ・ドリフターズ)
麦は、「はだしのゲン」でも、原子爆弾の焼け跡で芽を出す場面があった。踏まれても踏まれても生きていくのが麦だ。「麦踏み」は、芽を出した麦を踏むことによって成長を助ける作業だ。
夏に黄金色となり実りの季節となる。一般に実りの季節といえば「秋」なので、麦の実る季節を「麦秋」という。俳句で「麦秋」といえば夏の季語となる。そんな麦も日本の風景からどんどん消えていった。
407 麦めしで きたへ直して嫁を取 はなしこそすれはなしこそすれ
白米ではなく、麦飯を食べる素朴な田舎にどら息子を預け、鍛え直してもらう。それでやっと結婚できる人間となった。家から離すこと(はなしこそすれ)も必要。
112 三度迄産婦へ聞いてじれさせる さがしこそすれさがしこそすれ
「あれは、どこのあるかな」と、出産前で動けない女房に聞くのも三度まで。今も同じ。
年老いて、耳も遠くなったなか、電話の相手の名前が聞き取れない。すいません、お名前をもう一度お願いできますか。……三度目はドキドキしながら聞く。
134 三声めの たのみましょふは ぞうり取 やりばなしなりやりばなしなり
「頼もう」「頼もう」と二度声をかけても返事がない。三度目はお供の草履取りが「頼みましょう」と大きな声をあげた。
三度というのが限度なのだろう。
137 ていしゅから ものを言ひ出す朝がへり さがしこそすれさがしこそすれ
朝帰りをして女房の機嫌が悪い。そんなとき、最初に声をかけるのは亭主。
179 礼もせぬくせに藪医のなんのかの あくなことかなあくなことかな
お礼もしないくせに、あの医者は藪医者だなんやかのと言う患者がいる。文句言いのコメンテーター。
194 けだもの屋 藪いしゃ程は口をきき あくなことかなあくなことかな
けだもの屋は、獣肉屋。獣肉は、薬食いとして病人の滋養強壮薬として食べられていた。そのため、獣肉屋も病気についてはいっぱしの口をきくようになった。
江戸時代は四つ足の獣の肉食は禁止されていた。元禄時代の生類憐れみの令もその一つ。ただし、これはたてまえで、獣肉屋もあったし、ウサギの肉は、「これは羽のある(長い耳)鳥だ」ということで、1羽2羽と数えていた。
当時の浮気の話と同じで、不義密通は死罪ではあるけれど、実際は三行半(離縁状)で別れる(離婚する)ことが多かったようだ。女性から離婚できる縁切り寺もあった。右か左か、はっきり決めさせる現代の風潮と違って、まあ、原則はこうだけど、こっちもできるよ。と、ゆる~い決まりの中で生きていた。厳しい身分社会の中ではあるけど、一般庶民はしたたかに生きていた。

