江戸も令和の今も人は人~誹風柳多留の江戸古川柳より
江戸時代の人の、ちょっとした動作を見れば、あれっ、現代とあんまり変わらないじゃないかということが多くある。生活様式は違っていても、やっていることは一緒じゃん。そんな川柳を集めてみた。
江戸時代の川柳を古川柳という。七七の問題(前句という)があり、それに対する五七五を一般人がつくり投稿する。問題と解答で五七五七七の短歌となる。優秀作には賞金が出る。
その優秀作を集めた「誹風柳多留」の作品を紹介する。わかりやすい表現にした句と、次に原文の句と前句を並べている。原文の前の5‐384のような数字は、「誹風柳多留」の巻数と作品番号を示している。
人は武士なぜ町人になって来る
5-384 人は武士なぜ町人に成て来る うつりこそすれうつりこそすれ
前句は「うつりこそすれ」なので、移り変わるものは何かと考えたら、おお、武士が刀をささず、町人のようになるのは遊郭だ。と思いついた。吉原では、刀をあずけなければ店へ上がれなかった。
「花は桜木、人は武士」といわれるように、身分社会の頂点の武士が、士農工商と身分の下の町人(工商)の姿になるんだと言っているのだ。
実際、遊女になる女性は武家の出ではなく、農工商出身の女性がほとんどなので、武士相手では愛想が悪い。あまり武士の姿ではもてなかったのだろう。それでももてたいのが男の性。
二つ三つふつて火なわを猪牙へ入れ
4-625 二つ三つふつて火なわを猪牙へ入れ はたらきにけりはたらきにけり
昔はライターやマッチがないので、火縄というものを使っていた。硝石などの薬をしみこませて消えにくくした火をつけた縄のこと。この火を使って煙草に火をつけていた。はいはい、当時は男も女も当たり前に煙草を吸っていた。
火縄に火がちゃんとついているかどうかわからないので、二三度ふってみる。振ると酸素が供給されて火がついているのがわかる。うん、大丈夫だと安心し、そして火縄箱という箱にしまい、猪牙舟に積み込む。
猪牙舟は、猪の牙のように先が細長い船。猪牙舟に乗って客は遊郭へいくのだ。
舟宿のおかみさんも、火縄も、一生懸命働いている(「はたらきにけり」)。
女房に髪をゆわせる気の弱り
5-419 女房に髪をゆわせる気のよわり いとしかりけりいとしかりけり
おしゃれに気をつかっているころは、ちゃんと床屋で髪を結っていたのだけれど、最近は自宅で髪を結っている。これは気力のおとろえか。そんな男の姿を「いとしかりけり」、つまり、不憫だ、気の毒だと言っている。
精力絶倫のころがなつかしい男の嘆き。
聞きわけもなくまた来ては蚊をいれる
4-107 聞わけもなく又来ては蚊をいれる 前句不明
蚊取りマットも殺虫剤もない昔は、蚊が入らないように蚊帳をつっていた。昔の家には蚊帳をつるためのフックが部屋一面にあり、そこに蚊帳をひっかけて、部屋中が蚊帳の世界となる。青い(緑)色をした蚊帳の中に入ると別世界のような気にもなる。子どもの頃は蚊帳の中でホタルを飛ばしたりもしたなあ。
その蚊帳を開けっぱなしにすれば蚊が入ってくる。うまいぐあいに蚊が入らないように蚊帳に入らなければならない。でも、うまく蚊帳に入れない子どもは、蚊帳をつったのが楽しくて何度も出入りをしている。それにともなって蚊も何匹も蚊帳の中に入ってきている。ああ。
帰るまで笑ひつづける女中客
5-572 帰るまで笑ひつづける女中きやく はこびこそすれはこびこそすれ
最後は女性の句。
足を運んで(「はこびこそすれ」)やって来た女の客は、何が楽しいのかずっと笑い続けている。男にはわからない世界だ。
えっ、こんなことを言ったら、これまた男女差別。男だってうるさい客はいるし、静かな女性客だっていっぱいいる。それでも、「女ってものはね」と一般化して詠むのが江戸古川柳の醍醐味だい。
こんなちょっとした出来事は、よく見れば令和の世にもいっぱいある。
「誹風柳多留」の古川柳のまとめはこちらの後半部分に今まで紹介したもの全て載せている。それを見るだけで、あなたも古川柳通になれる、かもね、
タイトル画像は黄表紙「扨化狐通人」より、
黄表紙についてはこちらも、
