「偏愛」から「衝動」を見つけるーー『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』谷川嘉浩・著(ちくまプリマ―新書)
哲学者や研究者が中高生にも読めるようにわかりやすく書いてくれている「ちくまプリマ―新書」が好きで、気になった著者がプリマ―から本を出していたらとりあえず読みたくなる。
今読んでいるのは『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』谷川嘉浩・著。面白いしわかりやすいし、いろいろ考えさせられる。このタイトルに惹かれた大人は読んで損はないと思う。子どもはどうだろうか。もしわたしに子どもがいたら、人生のレールを外れてほしくないって思ってしまいそうだけど…。親がまず読んでから、子どもにおすすめするかどうかを判断すればいいかもしれない。
理想の状態を目指してコツコツ努力できる人ならいいけど、そうでない人(=わたし)は衝動こそが変化や成長の原動力になる。どんな得になるのかとか、社会の何の役に立つかとか、そんなの関係ねえ~!やりたいんだからやっちゃうんだ! みたいな衝動を見つけてそれに打ち込むことができたら、とりあえず楽しいし、楽しいだけでお釣りが出るんだけど、そこでの出会いや、いつのまにか身についたスキルが、のちのちの人生を立体的にカラフルに変えていく、と思う。
わたしにとって小説はそうだったし、ポートレート撮影とか、朗読劇とか、着物とか、ここのnoteやその前からずっと書き続けてきたブログなんかも、たぶん衝動から始まっている。誰かの役に立つことも重要だけど、夢中になって楽しくて誰に頼まれなくても勝手にやるような、そんな衝動をもっとさらに見つけたい。
衝動を見つけるためには、偏愛がヒントになると著者はいう。自分の偏愛を知るためには、自分の「好き」を細かく解像度高く分解する必要があるのだそうだ。解像度高く「好き」を言語化していくことで、その好きは他の分野にも応用が利くようになるのだそうだ。
ハヤブサは森が好きなんじゃなくて、いっぱいいろいろそびえたっていてエサがたくさんある環境が好きだったから、ビル街でも生息できるようになったわけで、「森が好き」のままだと新天地を見つけることはできなかった。好きの解像度を上げれば、ハヤブサのように森林からビルが林立するマンハッタンの街へ新たな生息地を広げることができる。
なるほど!!わたしもマンハッタンに進出したい!!さっそく考えてみたくなる。
たとえばわたしは、去年から着物にはまっている。着物の何が好きなのか…。素材かも? 絹とか麻とかいろんな素材がさまざまに変化するのが面白く、その過程もどんな手触りなのかも着たらどうなるのかも体験したくなる。布好き?加工技術好き?知識欲かも?
他にも着物以外の分野でいろいろ好きなこと、苦手なことを考えてみる。自分で疑問を見つけて調べて解決するのは好き。「そうだったのか!」という驚きが好き。でも解なき道を突き進む研究者はあまり向いていなかった。長時間粘り強く考えて考えて、そうではないものをつぶしていって、それらしき答えにたどりついても、簡単には「そうだったのか!」という快感は得られない。だから研究者じゃなくて研究者から話を聞いたり、リサーチして分かりやすく伝えるライターの方が楽しくやれている。
小説に関しては、何でこの登場人物はこんなことするんだろう…と想像しながら書いていって「そうだったのか!」と分かる瞬間が一番面白い。そして研究と同じで、延々と考え続けるのは、結構苦手なのかもしれない。だから長編小説をなかなか書けないのかもしれない。
そんなこんなをchatGPT(チャピって呼んでる)に放り込んで、わたしのことを分析してもらったら、こんな感じの表が出てきた。

まあ占いの結果と同じで、楽しいのは本人だけなのでじっくり読む人はいないと思うけど、ちょっと次を見て。

潜在トラブルは「長編継続困難」…!!!
言われとるやん!当たっとるやん!!
そしてそれに対処するには、〈章ごとに「問いと答え」を明示しミニ完結型に〉なのだそうだ。ちょっとこれいいかも。取り入れようかしら。300枚(12万字)の長編を書くなら、1万字ごとに12章に分けて、その中に解くべき謎をそれぞれ設定して、各章ごとに解決していき、小さく完結するのだけど、その解は連動してだんだん関連しあって、最後に大きなものが見えてくる、みたいな物語の作り方をすれば、300枚書けるかもしれない。12話完結の連続テレビドラマみたいな作り方だから、とても合理的だし、そんなふうに作られている長編小説もよくあるし、わたしもそうすればよかったんだ。300枚だから遠くにゴールを置いて、そのゴールへの道のりが見えないと書けないと思い込んでいて、頓挫していた。
さらにチャピが追加で5年後にどうなりたいか聞いてきたので、長編小説を出版したいと答えたら、スケジュールまで提案してくれたよ。AI担当編集者爆誕…!

これがまた、わたしが立てる願望まみれのポンコツスケジュールよりも、1000倍現実的なんだな…。考えるだけ考えて書き出せずに挫折しかけていた300枚の長編小説を、何だか取り組めそうな気がした。
ところでこんなふうに、読書日記を書こうとすると、途中から自分の話になってしまうのだけど、わたしは本の役目って読む人の思考を活性化することにあると思っている。読んだら自分の話をしたくなるというか。
アートを見に行くのも同じ。誰かに出会うのも同じ。旅行に行くのも同じ。わたしをどう刺激して、わたしの何を引き出してくれるかが大事なんだと最近はよく思う。
だから、極端にいえば、本に書かれている内容よりも本を読んでいる時間のほうが重要かもしれない。速読でパラパラめくるだけで「本を読める」ようになり、何冊も本を「読む」ことができたとして、それって心を動かす暇があるのかなと疑問に思う。
旅行にたとえると、たくさんの場所に旅行に行きたいから、目的地まで瞬間移動できる能力を手に入れて、目的地に行って帰ってきて3分で旅行ができた!と言ってるみたいなものではないだろうか。
もしくは食事にたとえると、彩を考え、調理法を工夫し、さまざまな味や形態を考え、時間をかけて食事を楽しむように作られたメニューを出すレストランに来て、時間がもったいないし咀嚼するのが面倒くさいから1分で済まして、と言うようなものじゃないだろうか。そんな人は最初からレストランに来ないで栄養剤でも飲んでいた方がいい。目的が間違っている。
だから、読書は時間がかかってもいいし、たくさん読めなくてもいい、と言いたいよ。ただ、読んでいる文章が頭に入ってこないと楽しめないからちょっと問題がある。たぶんそれは本との相性だったり、背景知識が必要な本だったり、読むテンションがチューニングされていなかったり、いろんな理由があったりすると思う。旅行に慣れていないのに、いきなりディープな個人旅行をしたら、ビクビクして落ち着かなくて楽しむどころじゃないし。そういう場合は本を選び直したらいいのだと思う。もしくは読書に慣れている人に楽しみ方を聞いてみたらいいと思う。
まあそんなこんなでちくまプリマ―は大人にこそおすすめの新書なのだけど(ときどきガチで書いていて、ブルーバックスより難しい本もあるけど…)、今度わたしがライティング担当した本が、ちくまプリマー新書から出ます。プリマ―の仲間入りできてうれしい。
『意識の不思議』渡辺正峰・著(ちくまプリマ―新書)
渡辺先生は、本気で意識のアップローディングを目指している東大の研究者。意識を機械にアップロードし、肉体が滅んでも半永久的に生きることができる未来を自分が生きているうちに実現してようとしている。
本人が書いた本がすでに2冊刊行されているのだけど、まあ難しいので、まずはここから読んでみてください。中高生にもわかるように、何十時間も説明してもらって、めちゃくちゃがんばりました(笑)
渡辺先生いわく、「今までで一番わかりやすい本」だって。
来週発売の筑摩プリマー新書「意識の不思議」の見本が届きました。今までで一番わかりやすい本になっているので、ぜひ!(@kanchiku さんありがとうございます!!) pic.twitter.com/KabOLnirbp
— 渡辺正峰/Masataka Watanabe (@watanabemasata) June 4, 2025
渡辺先生と意識の研究をしている哲学者・信原幸弘先生(東大名誉教授)の対談本もわたしがライティング担当しました。脳の理系な興味より、意識とは何かという哲学的な興味がある人はぜひこちらも。
『意識はどこからやってくるのか』信原幸弘・渡辺正峰 著(ハヤカワ新書)
SF書きの人にも面白いと思うので、ぜひ。哲学書は頭に入らないという人にもおすすめ。話し言葉だから、哲学書より密度が小さくて、ゆっくり頭に入ってくるし、自分もいろいろ考えたくなる。耕してくれる本だと思う。
