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【心の地図をひらく旅~モンゴル編~】 ⑥道なき道のその先で

〈2日目 ウランバートル→ブルド〉

その後、私たちは宿泊予定の「バヤンゴビ・ツーリストキャンプ」へと向かうことに。
ところが、ガイドさんにとってもその場所は初めてだったようで、道がわからないらしい。
 
そこで、先に到着していた別のガイドさんと少年が、車で先導してくれることになった。
 
車を走らせているうちに、「道がわからない」というのも納得がいった。
カーナビはもちろん反応せず、そもそも「道」らしい道が存在しない。
時には川を越え、時には草原をくねくねと抜けていく。
進路は、ほとんど“勘”に頼っているようだった。
 
ようやくたどり着いた先には、ゲルが6棟ほど並び、何人かの人々の姿も見えた。
でも……何かがおかしい。
写真で見ていた「ツーリストキャンプ」とは明らかに様子が違う。
門も柵もなければ、共用のバスやトイレの施設も見当たらない。
 
旅行会社から送られてきた旅程表をリュックから取り出して確認する。
やはり、「2泊目:バヤンゴビ・ツーリストキャンプ」とある。
 
まさか、予定変更? それとも手違い?ガイドさんが場所を間違えたのか?私は一体どこに連れて来られたのか。
 
その不安は的中した。
ここはツーリストゲルではなく、どうやら遊牧民の家庭にホームステイすることになっていたのだった。
 
母屋と思われるゲルに案内されると、まず最初に出てきたのは、あの馬乳酒だった。旅行者が飲むと必ず下痢をすると噂される、例の飲み物だ。
 
この広大な草原でお腹を壊すなんて、絶対に避けたい。
私はそっとコップを見つめるだけにとどめた。
 
でもこの馬乳酒、実はとても貴重なものらしい。
ガイドさんによると、「馬乳酒は体にとても良いんですよ」とのこと。
 
へぇ、そうなんだ……と、軽く聞き流していた私だったが、次の言葉に驚かされる。
 
飲むと下痢をするので、体の毒を全部流してくれるんです
 
──えっ? モンゴル人でも下痢するの?
 
どうやら、これはモンゴル人にとっても天然の下剤のような役割を果たしているらしい。
冬場には肉中心の食事となり、野菜不足で便秘になりやすい。その解消のために役立っているのだろうか?
……と勝手に想像していたが、後から聞いたところ、どうやら違った。
 
馬乳酒(アイラグ)は、モンゴルの過酷な自然環境に適応するため、古くから伝わる発酵飲料で、栄養価が高く、保存も効く。
アルコールや乳酸の生成によって消化を助けるため、健康にも良いとされ、遊牧民の生活に欠かせない飲み物なのだという。
また、客人へのもてなしや儀式にも用いられる、モンゴル文化を象徴する存在でもあるらしい。
 
そのことを知ると、この飲み物がどれほど大切なものなのか、少しだけ実感がわいてきた。とはいえ、やっぱり私は……もう少し勇気が必要かもしれない。
 
そうしているうちに、モンゴルの文化と自然に静かに包まれながら、ゲルでの時間がゆっくりと流れていった。
 
ほどなくして、私たちが泊まるゲルへ案内された。
というより、「あのゲルがあなたたちのゲルです」と遠くを指さされ、スーツケースを引いて草原を200メートルほど歩いた。
草原でスーツケースを引くのは、想像以上に大変だ。
 
たどり着いたゲルは、窓付きで、左右にシングルベッド、中央にダブルベッドが置かれていた。
「ここで寝るのか……いや、寝られるのか?」
 

宿泊したゲル


ドアを開けていたら、外から数匹のバッタがぴょんぴょんと飛び込んできた。
──これは、ほとんど外で寝るような感覚かもしれない。
 
でも、まぁいい。
郷に入っては郷に従えだ。

つづく。

モンゴル編は全23回にわたり、毎週金・土曜日の夜に掲載します。
第7回は『 ラクダの背で感じたモンゴルの温かさ』
どうぞお楽しみに!


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