ワークマン:なぜ「溶接工の防護服」が、キャンプ女子の定番になったのか。ワークマンが成し遂げた、1,500店舗の「翻訳」戦略。
【連載】真価の再定義 〜コモディティ化を突破する「次世代の勝ち筋」【第4回】
おかげさまで、第2回の「すかいらーく」、そして昨日の「ダイソー」と、2日連続で『noteマネー』公式にピックアップしていただきました。非上場企業である大創産業の戦略が、競合する上場企業の文脈でこれほど多くの方に読み解かれたことは、筆者として大きな喜びです。
さて、この「真価の再定義」シリーズもいよいよ佳境。第4回で取り上げるのは、アパレル業界の既成概念を根底から覆した「ワークマン」です。
■はじめに
雨の日の通勤路、あるいは週末のキャンプ場。かつては建設現場の専売特許だった「イージス」のロゴが、いまや20代の女性や、スマートなビジネスパーソンの背中にある。
「ワークマン」。かつて吉幾三氏のCMと共に「プロのための作業服」という強固なイメージを築き上げたこのブランドは、いまやユニクロやモンベルを脅かすアパレル業界の台風の目となった。彼らが成し遂げたのは、単なる「おしゃれな服」へのモデルチェンジではない。自らのコア・アセットである「過酷な現場で鍛えられた機能性」を、一般消費者の「日常の不満」へと見事に翻訳(トランスレート)した、極めて緻密な言語の変換術である。
なぜワークマンは、作業服という宿命を捨て、ライフスタイルの主役になれたのか。その成功の裏にある「真価の再定義」を深掘りする。
■飽和した「プロ市場」と、放置された「一般の不満」
戦略の出発点は、既存市場の限界に対する冷静な分析であった。ワークマンが長年主戦場としてきた職人向けの作業服市場は、堅調ではあるが爆発的な成長は見込めない。一方、一般のアパレル市場は「見た目」のコモディティ化が進み、消費者は二極化する不満を抱えていた。
「高機能な服が欲しいが、本格的なアウトドアブランドは高すぎる」
「安価なファストファッションは、雨の日やアクティブなシーンでは頼りない」
この「高機能」と「低価格」の間にぽっかりと空いた巨大な空白地帯(ブルーオーシャン)を、ワークマンはいち早く発見した。しかし、単に作業服をそのまま一般店舗に並べても売れない。そこで必要だったのが、顧客の文脈に合わせた「価値の翻訳」である。
筆者は研修で、マーケティングの基本として、「顧客のニーズは、顧客が抱えている“ふ(不・負)の字”に隠れている」と説いている。ワークマンは、市場の顧客の既存の市場に存在するウエアに対する機能の不満、不足、価格に対する負担をキャッチアップしたという例になる。
■「機能性」を「日常」へと翻訳する技術
ワークマンの凄みは、プロ向けのスペック(機能)を、一般消費者が直感的に「自分に関係がある」と思える物語へと書き換えた点にある。

・「溶接の火花に強い」 → 「焚き火で穴が空かないキャンプウェア」へ
溶接工のために開発された防融加工は、キャンパーにとっての「焚き火の火の粉」という課題を解決する特効薬となった。
・「厨房で滑らない靴」 → 「雨の日のマタニティ・シューズ」へ
油まみれの床でも滑らない「コックシューズ」が、実は雨の日の妊婦や高齢者にとって最強の安全靴であることにSNS上の口コミから気づき、それを「ファッショナブルなデザイン」という器(ガワ)へ載せ替えた。
・「高視認性の安全服」 → 「夜間のランニング・サイクルウェア」へ
命を守るための反射材は、都市部で夜間に走るランナーやサイクリストの安全という文脈に転用された。
彼らが行ったのは、新しい機能の開発ではない。「すでにある圧倒的な機能」を、別の誰かの「切実な不満(ふの字)」へ繋ぎ合わせるリンク(結合)の作業だったのである。
■多業態展開による「包囲網」と、1,500店舗への野望
最新の決算資料によれば、ワークマンは現在、かつてないスピードで「業態の棲み分け」と「出店加速」を進めている。
特に注目すべきは、中長期的に「1,500店舗体制」目指す強気な出店戦略だ。
・ワークマン女子(Workman Girl): ショッピングセンターや路面店を中心に、年間30店舗のペースで出店を加速。 これまで男性中心だったブランドイメージを塗り替え、女性層を「入口」としてファミリー層を丸ごと取り込む。
・Workman Plus II: 行政人口5万人以下の小規模エリアをターゲットにした新業態で、年間15店舗の出店を計画。 「職人の店」としての基盤を守りつつ、一般客の利便性も担保する。
・Workman Colors: さらに「大人カワイイ」をテーマにした最新業態を展開。 ワコール等の異業種コラボによる「呼吸するインナー」など、これまで手薄だったインナーカテゴリーにも進出し、ファッション性と機能美の高度な融合を図る。
このように、同じ「機能的素材」を使いながらも、店構えとラベル(ブランド名)を変えることで、競合他社が手を出せない広大な市場を「包囲」しているのだ。
■抽象化:ビジネスパーソンへの学び「価値の翻訳者になれ」
ワークマンの事例から学ぶべき最大の教訓は、「商品は変えなくていい、用途を変えよ」ということだ。
コモディティ化に苦しむ多くの企業は、安直に「新機能の追加」や「価格の引き下げ」に走る。しかし、解決の糸口はそこにはない。
・あなたが今持っているスキルや、自社の地味なサービス。それは、全く別の業界の「誰かの悩み」を解決する劇薬にならないか?
・顧客が、あなたが意図したのとは「違う使い方」をしていないか?
もし、顧客が本来の用途とは違う使い方をしていたら、それこそが「真価」が再定義される瞬間である。マーケティングの本質とは、企業が価値を押し付けることではなく、顧客が見出した「新しい文脈」に、適切な名前を付けてあげることなのだ。
ワークマンが「作業服」という名前を捨て、「アウトドア・スポーツ・ライフスタイル」という新しい言葉で自らを定義し直したように、私たちも自らの資産を別の言語で翻訳する勇気を持つべきである。
■結びに:読者への問いかけ
「作業服」が「女子旅」の定番になったように、あなたの周りにも「本来の役割を飛び越えて愛されているもの」はありませんか?
あるいは、あなた自身のスキルが、一見無関係な分野で思わぬ重宝をされた経験はないでしょうか。その「ズレ」の中にこそ、次のブルーオーシャンが眠っています。
皆様が体験した「価値の翻訳」のエピソードを、ぜひコメントで教えてください。
次回の予告:
第5回は「富士フイルム」を分析する。銀塩フィルムの消滅という、会社存亡の危機をいかにして「写真技術の転換」で乗り越えたのか。化粧品ブランド「アスタリフト」の成功に隠された、驚異の技術転用と多角化戦略の正体に迫る。
文中で触れたように、顧客のニーズの明確化と深掘り、「ふの字探し」は、「マーケティングの基本のき」として、研修の冒頭に必ず徹底していきます。
■現在募集中のイベント
【根拠情報】
・株式会社ワークマン 2024年3月期 第3四半期 決算説明資料(2024/2/5)
(21〜22ページ:#ワークマン女子やPlus IIの出店戦略、Kids・インナー等のカテゴリー拡大について記載) https://www.workman.co.jp/ir_info/pdf/2024/42ki_3q_kessan.pdf
・PR TIMES:株式会社ワークマン プレスリリース(2025/3/10)
「『大人カワイイ』がとまらない!ワークマン・Workman Colors最新女性&Kidsアイテム大公開イベントを開催」
(※ワコールとの初コラボによるハーフトップブラの発表や、Workman Colorsの展開について明記) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000060.000013308.html
【マーケティングコラム第134回】
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