【読書感想文】母と暮せば
今回この本を手にしたのは、著者名に山田洋次とあったからだ。
山田洋次氏と言えば、「男はつらいよ」の監督だ。
その監督なのだから、きっと素晴らしい話なのではないか、そんな思いからだった。
だが、著者は山田洋次監督だけではない。
作家、井上ひさし氏の三女、井上麻矢さんとの合作となっている。
さて、どんな話なのだろうか?
本書は、医者を志していた浩二とその母親伸子、浩二の婚約者である町子との語りで構成されている。
三人の人間模様かと思い読み始めた。
すると原爆が落ちたその日から話は始まり、浩二の爆死となる。
主人公かと思われた人物の死に、頭の中は混乱する。
ということは、浩二は主人公ではない?
話しは息子を失った母親の悲しみと婚約者を失った悲しみに進んでいくが、途中で浩二が登場する。
生き返ったのか?
それとも死んだというのは違うのか?
そうも思ったものの、原爆によって死亡したのは事実で、母、伸子の前に現れたという設定になっている。
あるわけないと笑うのは簡単だが、私は否定する気にはなれない。
母親だからこそ、息子が見えるし、感じるし、話すこともできるのではないか。
それこそが、母親の愛なのではないかと思うからだ。
婚約者の町子は、浩二のことが忘れられず、祝言こそ上げていないが、心の中では自分は浩二の妻なのだと、操を立てている。
凄いねぇ。昔の人って、本当に清い。
死んじゃったら、前に進めというのが私の考えだ。
死んだ人のことを思っても、死んだ人は喜ばないし、生きている方は生きるために進むべきだと思う。
それって、現代を生きているからなんだろうな。
戦時中の人の考えって違うのかもしれない。
ただ、清いなぁ、という思いは心底思ったけど。
そんな戦時中の学生の生活は、今とはまるで違う。
医者を目指していた浩二は、戦争に行った兄に
「母さんを守るためにも医者になれ」
と言われていた。
その言葉通り、本当は違う職業につきたかったが医学の道に進む。
これもまた、信じられないほど素直だ。
家族の為に、自分の人生を曲げるなんて考えられない。
しかし、一般的な職業に就こうと思えば戦争に駆り出されてしまう。
医者ならば学業にあたっている間は、戦争に引っ張られなくてもすむ。
医者になっても、軍医として戦争に行くため、死ぬことはないという。
だが、お国の為に多くの人達が頑張っているのだからと、学生たちも遊ぶことは許されない。
夏休みだからって、そんなのは関係なかったようだ。
今の暑さに比べたら、大分楽だっただろうが、それでも夏は夏だ。
蝉が鳴く中、必死に勉強していたのだろう。
そんなある日の原爆投下だ。
あっという間に身体が溶けたという。
恐ろしいけど、これが歴史なんだよね。
またその当時は、軍事関係の写真を撮ったというだけでスパイ扱いされたらしい。
浩二も、運動会で写した16枚の写真の中に、たった1枚。
それも小さく高射砲軍地が写っていただけで、スパイとして捕まってしまった過去がある。
それを救いだしたのが、伸子なのだが。
今なら、警察だってそんなバカげたことはしないが、戦時中の警察は理不尽この上なかったという。
それに歯向かった伸子は、強い女だったのだろう。
女は弱しされど母は強しと言われるが、実際それができる人はそんなにはいないと思う。
それ程愛した息子を失ったのだから、辛いなんて言葉では言い表せなかっただろう。
しかも、夫も失い長男も戦争で失っているのだ。
お国のためだというけど、そんな道理で納得できるはずはない。
それでも伸子は言う。
「生き残った人間は、生き残ったことを罪だと思っている。
生きていることが間違いだと思ってしまう。
だけど、よくよく考えると、それは理にかなわぬこと」
戦争という抗えない苦しみで、家族を失ったからそ、こういう思いが生まれるんだろうな。
生きること、生きていることを罪だなんて、現代ではありえない話だ。
戦争というのは、それほど人間を壊してしまうのだろう。
ラストは伸子の静かな死となる。
息子浩二と共に、光の世界へと旅立つのだが、名場面だと思った。
これだけはっきりとした映像をイメージさせることができるなんて、さすがは山田洋次監督だな。
本書を通して、映像としてはあまり見えてこなかったが、ラストの息子と旅立つシーンだけは、鮮明な映像となって見えてきた。
それは全身に何度となく鳥肌の立つ、素晴らしいものだった。
これ、映画で見たかったなぁ。
そう思うのは、私だけではないと思う。
タイトル:母と暮せば
著者:山田洋次・井上麻矢
出版:集英社
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