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俺は犬神~神様見習い、はじめました~①

作者:篠宮あおい

《あらすじ》
寿命14年の犬として愛され、穏やかな最期を迎えるはずだった――はずの俺。
だが、“神”を名乗る謎の存在にスカウトされ、突如転生。
今度の人生(?)は、なんと“犬神”!
昼休みも休暇もない、ブラック企業顔負けの激務が待っていた。
けれどこの力で、もう一度、大好きな飼い主を守れるなら……
犬と神様、異色タッグが贈る、ほろ苦くて泣けて、時々クスッと笑えるファンタジーファーストステージ。

第1話 プロローグ


犬の寿命は大体14年程度だと聞いたことがある。
でも、14年という時間がどのくらいなのかは分からない。
永遠とも思えるほどの愛情をたくさんもらって、たくさん走って、幸せな犬生活を過ごしてきたから。
だが、ある日を境に、どんどん体が動かなくなって、とうとう終わりが見えた。
「そうか、これが14年ってことか」
俺はベッドから動けなくなり、ぼんやりとそんなことを考えるようになった。
「これが”死を待つものの心境”ってやつか。
怖いかと思ってたけど、案外そうでもないなw」
確かに、怖くはない。
ただ、人間たちが心配そうに、俺の顔を覗き込むのが辛かっただけだ。
俺の大好きな人間が悲しむなんて…。
ところが──。
「ねぇ、ママ。この子が死んだら、次はどんな子を飼う?
真っ白な毛の子がいいなぁ」
ある日、飼い主の奈津美が言った。
「そうか…俺が死んでも、次の犬を飼うのか。
人間って、薄情なもんだな。
でも…その方がいいのかな…。
泣かれるよりは、ずっといいんだ…」

俺は目を閉じようとした。
その時、目が眩むほどの光が俺の前に現れた。
「確かに、人間というのは薄情かもしれんな」
「え?」
「だが、そのくらいじゃないと、辛いことを乗り越えられんのだろう。
それほど、人間というのは、弱くて脆いものなのじゃ。
だから、ちょうどいいのじゃ。
それでもお前は愛情豊かな飼い主によって、幸せな人生を歩めたのだ。
結構なことじゃよ」
「あの、あなたは誰ですか?」
不思議に思った俺は、光るものに話しかけた。
すると相手は、ふっと不敵な笑みを浮かべた。
「わしは、神様じゃ」
「…頭、いかれてますか?」
「失礼なことを言うものではない。
おまえがもうすぐ戻るべきところへ逝くから、こうして迎えに来てやったというのに」
「神様が迎えに来るの?ヒマなの?」
「…口を慎め、犬」
「…ねぇ、神様。俺の命はもうすぐ終わるんだよね?」
「そう言ったであろう」
「それなら、願い事を叶えてくれる?」
「なんじゃ?最後に美味い肉が食べたいとかか?
だが、この家は高い肉を買えるほどの金はないぞ」
「そんなことじゃないよ。
俺は、俺の家族に、笑顔でいて欲しいんだ。
こんなに俺のことを可愛がってくれたんだもの。
いつまでも、幸せでいて欲しいだよ…」
「なるほど、殊勝な犬じゃな」
「あのさ、犬・犬って言うけど、ちっとも嬉しくないよ」
「何を言っておる、犬。
おまえを喜ばせようと思って言っているわけではないぞ。
だが、その願い叶えてやってもよいがなw」
「え!本当に?」
「ああ、叶えるのはたやすい。
だが、普通に叶えてもつまらん」
「神様がそんなこと言うの?」
「神様だからといって、真面目とは限らん。
人間にも不真面目な者がおるようにじゃ」
「それってつまり、自分が不真面目だって言ってない?大丈夫?」
「小賢しい犬じゃな。とにかく、神様にもいろいろおるのだ」
「そうかもだけど、なんかありがたみを感じないな。
…それで、どうやって叶えてくれるの?」
「どうやって、かw
そうじゃな、おまえが神様になるというのはどうじゃ?」
「俺が?!」
「ああ、おまえが神様になれば、願いは叶え放題じゃぞ」

「そんな、簡単に言っていいの?」
「あのなぁ、犬が神様になるというのも、あり寄りのありだろう?」
「あり寄りのありってなに?
若いふり?何千年も生きてるのにw」
「うるさいわ!何千年も生きておるからこそ、今の言葉も分かるんじゃ!」
「そういう言い訳使うのか…」
「言い訳ではない!それでどうするのじゃ!?」
「どうするって、何が?」

犬の俺は、忘れっぽい。
ちょっと他のことを考えると今話していたことを忘れる。
これって、犬的には普通なことだけど、神様的にはNGらしい。
「狐だって、神様になるくらいなんだ。
犬でも構わんという話をしてやってるんじゃ!
なぜそれが分からぬ!」
「なんでそんなに怒るのかなぁ…。
短気は損気っていうのに。
まあいいけど。狐って、お狐様ってやつ?あれって、本当に狐だったの?
だとすると、俺でもいけるってことか…」
「大体、神の世界も人手不足なんじゃ」
「神様が人手不足…」
冗談で言っているのか?
ならば笑ってあげた方がいいような気もする。
俺が悩んでいると、神様はいらいらしながら言った。
「それで、どうするのじゃ!?神様になってみるか?神様になれば、やりたい放題じゃぞ」
「…神様になって、何をするの?」
「簡単なことじゃ、願いごとを叶えてやればいいだけのこと」
「そうか…じゃぁ、俺が死んだあと、飼い主が、真っ白な毛の可愛い子犬と、出会えるようにもできるってこと?」
「ああ、そんなのは簡単中の簡単じゃ」
「そうか、だったら俺、神様になるよ!」
「おお、そうか。そいつは助かるぞ」
神様はニヤリと笑った。
とはいっても、光がまぶしすぎて、俺には笑ったのかどうかなんて見えなかったけど。
「よし!おまえは神様として生まれ変わるのじゃ。
ただし、一度神様になったら、定年なんてのはありはせんぞ。
自己都合で退職なんて、そんな都合のいいこともない。
そこは覚悟しておくがよい」
「ずっと人間のそばにいられるってこと?
だったら…俺は、それがいいなぁ」
「ふっwそうかw…よし分かった!では、この書類にサイン…文字が書けんか。
まぁ、拇印の代わりに肉球印でもよかろう」
神様が出した書類に、かすかに動く手をのせると、書類は光と共に消え、俺はそっと目を閉じた。
すると俺の魂は、ふわりと肉体から離れた。
「あれ?あんなに重くて、だるかったのに、体が軽くなった!」
その瞬間、何かを察知したのか、飼い主が俺を覗き込み、大きな声で叫んだ。
それは、信じられないほどの悲しみに満ちた声だった。
「ぽん太?ぽん太?!
ねぇ、ぽん太!どうしたの?!ぽん太…起きて!
お願い、ぽん太。目を開けて…!」
優しいママさんは、俺の亡骸を見て気が狂ったように泣き出してしまった。
「ああ、あんなに悲しんでる。ごめんね、泣かないで…」
「そんなに憐れむ必要はない。すぐに別の犬に出会い、今の悲しみなんてのは、消し飛んでしまうじゃろう」
薄情なのは、神様の方だと思う。
でも、この時の俺には、神様の言葉なんて全く耳に入らなかった。
ただ、飼い主が泣いてくれる姿が心に痛みを与えていたんだ。
「大丈夫だよ、今にきっと真っ白な毛の犬と出会えるからね」
できることなら、このまま余韻に浸っていたいところだったけど、神様はそれを許さなかった。
「さぁ、神となりし犬よ。仕事じゃ!」

「え、もう?!」

「もうって…神様を待ってる人間は多いのじゃ」
「でも、犬神待ってる人間っているの?」
「人間に、犬か猫かなんてわからんじゃろう。
つまり、気にすることはないということじゃ。
さあ、人間のために働け!」
「ま、待って!もしかして、ブラック企業だった?!
それは勘弁!」
「契約済みじゃ!今更遅い!」
「そんなぁ!」
「ちなみに、昼休憩もなければ、休日もありはせんからな」
「やっぱりブラックじゃないかー!」
不敵な笑みを浮かべる光の神様が、手を大きく振ると、俺は一瞬にして光の渦に吸い込まれていった。
「うわぁー!」
こうして俺は、犬神として生まれ変わることとなった。

《2話へ続く》


※かめママブログ書庫入り

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