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【短篇小説】意外な殺人

俺が殺されたのは、3日前。
帰宅した部屋は暗く、妻は旅行に行っていた。
後頭部に受けた突然の打撃で、俺はあっけなくこの世を去った。

去った……いや、魂はこうしてここにいる。
逝けるわけがない。

犯人を特定するまでは、絶対に逝けるものか。

それにしても分からない。
どうして俺が襲われなければならないのか?

夫婦仲は良い。
義両親や義兄弟とも問題なく過ごしてきた。
会社でも順調だった。
留守を狙った強盗だったのか?
それなら、殺す前に金の場所を聞くだろう。

何も盗んではいかなかったのだから、その線はないか。
だとすると……。

俺は一生懸命考えてみた。
だが、どんなに考えても分からない。
俺に恨みがあった奴がいたのだろうか?
俺は知らぬ間に、恨みを抱かせるほど、酷いことをしていたのか?
いくら考えても分からない。

俺は両腕を組み、俺の亡骸を見つめ続けていた。
その時、玄関が開く音がした。入ってきたのは妻だ。
旅行に行っていた妻は、楽しそうに鼻歌交じりだ。
よほど旅行が楽しかったのだろう。

だが、愛する夫が冷たくなっているのを見たら、
きっと妻は半狂乱となり、泣き狂うだろう。
かわそうな妻。死ぬ前に、さよならを言いたかったなぁ。

俺はそんなことを考えながら、泣くであろう妻を見つめていた。
すると妻は案の定、俺の亡骸の横に跪いた。

次には涙を流すだろう。

妻は、俺を起こそうと体に触れた。
硬直した俺の身体に悲鳴をあげるでもなく、スマホを取り出した。

ああ、そうか。警察に電話するのか。
もしくは、救急車を呼ぶのか?
とはいえ、俺はとっくにこと切れている。
今更救急車を呼んだところで手遅れだぞ。

しかし妻は、動転するふうでもなく、泣くわけでもなく、
電話に向かって言った。

「しっかりやってくれたわね」

――え? しっかりやった?

「ええ、料金は振り込んだわ」

電話を終えた妻が俺を見下ろすと、笑顔で言った。

「もう、うんざりだったのよね、あんたと一緒にいるのって。
めちゃくちゃ細かくて、口うるさくて。
でも、安心して。これで私は自由になれるのよ。
アンタの貯金は全額私が使ってあげる」

なんだと……。
妻の言葉に俺は驚いた。

俺たちは、将来の為に貯金をして来た。
こんなご時世だ、年金なんて当てにならないからと、節約してきたのだ。
妻もそれを当然のことと受け入れていると思っていた。
まさか……そうではなかったということか?

「ああ、そうそう。心配しないでね、私のアリバイはちゃんとあるから。
旅行っていう、ね」

妻は笑いながらそう言うと、悲し気に泣く未亡人を演じるため、
化粧にとりかかった。

珍しく、どうしても友達と旅行に行きたいと言っていた妻。
たまにはそういうことも必要だろうと、大枚をはたいて送り出した。
それが、アリバイ工作だったとは。
俺の中に、妻への怒りが湧き、恨みが煮え湯のようにたぎりだした。

俺は憎しみのこもった手で妻につかみかかった。
すると俺の手は、ずぶずぶと妻の身体に吸い込まれて行く。

なるほど、そういうことか――。

妻の身体から抜いた手を見て、俺はニヤリと笑みを浮かべ窓へと顔を向けた。

ここは8階。
飛び降りればひとたまりもない。

俺は妻の身体に入り込むと、窓を開けた。
暗闇が大きな口を開けている。
俺はベランダに出ると、手すりに手をかけ地面目指してダイブした。


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