Netflixシリーズ『極悪女王』感想・レビュー・解説
筆者が幼い頃は、毎週のようにテレビでプロレスが放送されており、父と一緒に視聴していた。
子どもながらに、ジャイアントスイングやサソリ固めなどのワザも理解していたと思う。
そして本作を観ているうちに、昔、女子プロレスファンの友人に誘われて観戦に行ったときのことをふと思い出した。
たしか、クラッシュギャルズやジャガー横田、そして極悪同盟といった豪華な顔ぶれが登場していたはずだ。ということは、すでにリアル『極悪女王』を体験していた事になるが。
筆者の話しはここまでにして、最終話まで視聴したレビューを執筆する。もちろんネタバレなしで。

デジタルパンフレットより引用
松本香は内職で家計を支える母と妹と暮らしていたが、暴力的な父の帰宅で家庭は荒れる。ある雨の日、香は全日本女子プロレスの練習場を訪れ、スター選手ジャッキー佐藤に憧れプロレスラーを志す。厳しい練習と挫折の中、香は同期の長与千種とともに「強くなる」と誓い合う。千種がクラッシュ・ギャルズとしてスターになる一方で、香はヒール役「ダンプ松本」として暴れ役を担い、人気を集めるが、世間からは激しいバッシングを受ける。かつての親友・千種への対抗心を胸に、香は「敗者髪切りデスマッチ」で彼女と対決することになる。
1.臨場感ある試合とプロレスの見せ方
70年代の女子プロを牽引してきたのはビューティーペア。80年代の主役は極悪同盟ダンプ松本、クラッシュギャルズの長与千種とライオネス飛鳥、今回の主役だ。 本作は全編通してその選手たちの熱い死闘が繰り広げられる。カメラが選手たちの動きを追うように舐めまわし、選手と同じ目線のアングルが視聴者にとって、同じリング上にいるような臨場感が味わえる。 野球やボクシング映画なども同様、選手の素早い動きに合わせたカメラワークに感心するばかりだ。筆者がスポーツ映画が好きな理由には、それも含まれている。
そしておそらく、当時の経営戦略を映し出したかのようなプロレスの見せ方にとても興味が沸いた。どのように展開するかによって、客の入り数が全く違ってくるのだろう。
しかし、ただ見せればいい訳ではない。
それは次の章で触れるとして、ダンプ率いる極悪同盟のルールは「反則」だ。
チェーンを使用した首絞め、パイプ椅子で相手を殴る、もちろん流血は当たり前。ダンプサイドのレフリーも存在するほどだ。
どの業界でも新しいスターが生まれると、そのスターを贔屓する傾向がみられ、行動が正当化されるのが事実。反則なのに正当化、矛盾しているが、これには経営陣の思惑もある。
2.経営戦略と選手たちの本音
記憶が正しければ、全日本女子プロレスはフジテレビ、全日本プロレスは日本テレビが主に中継をしていた。
番組の人気度を測る世帯視聴率は2020年頃から個人視聴率へ、そして今では、コア視聴率と言ってさらにポイントを絞られるようになった。
それだけでなく、TVerなどの再生回数も重要視されている。
様々な生活スタイルが生まれるなか、家族そろってテレビを観る時代は終わり、世帯だけでは判断できないのは納得だ。
しかし、80年代の娯楽はテレビオンリー、世帯視聴率が全てと言っても過言ではない。
ゴールデンで数字を取るためにはテレビ局にとって大人気のプロレスは外せない。
また全女サイドは、次々に新しいスターを作り出し売り出すには、放送してくれるテレビが必要になってくる。双方にとって最高のビジネスパートナーだ。
それにはプロレスの見せ方が重要になる。
見せ方とは個人抗争¹、乱闘²、ヒールvsベビーフェイスの軍団抗争³と言った、様々な抗争アングルだ。
加えて、雑誌のインタビューで意思の食い違いなどを記載して、私生活までライバル視するのも個人抗争にあたる。
このような抗争が試合を面白くさせ、プロレスワザもテレビ放送もギリギリの所を攻める!これが当時は大ウケしたのだ。
本来ならここで、作中で多く使われるあるプロレス用語を引用したいが、興醒めするかたもいらっしゃると思うのでそれは避けるが、台本がないのは選手の心だけ、みな踊らされていた。
自分の心と現実に違和感を覚え、現場を離れる者も現れた。そして悲しいことに、ペア同士の揉め事にも発展していくのだった。
3.後楽園ホールとプロレス飯
ここで少し視点を変えて、プロレス飯のヤキソバについて。後楽園ホールで行われた本作のイベントで、筆者も頂いたが、プロレスの聖地で食べるヤキソバほど美味しいものはないだろう。
名物のヤキソバでお腹を満たしたら、選手の応援にも更に力が入る。このようなシンプルな推し活が素晴らしい。
味覚も、視覚も、場内に鳴り響く帰れコールの一体感も、訪れる人々の欲求をも満たし、興奮をMAXにするのが後楽園ホールなのだ。

4.プロレスで強くなれたのか
まだ練習生だった頃の長与千種と松本香。
ふたりが自身の幼少期を振り返り、たどり着いた答えが「プロレスで強くなりたい」「生きてる証を実感したい」という決意だった。
それに、スターになる選手は勝手に光だす現象(これは本当だと思う)も手伝い、憧れのスター選手や同期に光を感じ、同じプロレスの道を歩みたいとも思ったはずだ。
しかし松本香という純粋で優しい少女が、極悪女王のダンプ松本になるにはそう時間が掛からなかった。純粋だから極悪に対しても手加減できない、真面目な性格だ。
それでもいつかは全てをやり尽くす時が来る。
本人からみれば、現実に戻された感覚だろう。
選手それぞれ、そのタイミングは違うが共通していることは皆、リング上以外に心でも戦っているという事実だ。
作り出されるギミックを跳ね除け、本当の意味での強い女子プロレスラーとは何か、『極悪女王』はそれを私たちに教えてくれる。
かつて夢中になった人も、まったく知らない人も、戦う少女たちの物語をぜひ見届けてほしい。#Netflix感想文
コピーライトが不明なため、写真を貼れずに文字が多くなりましたが、ここまで読んで頂きありがとうございました。
【注釈】
¹個人抗争(シングル・アングル)
特定のレスラー同士の個人的な対立や因縁を描くストーリーライン。
²乱闘(バトルロイヤルや乱戦)
複数のレスラーが入り乱れて戦う形式で、混沌とした状況を演出します。
³ヒール vs ベビーフェイスの軍団抗争
悪役(ヒール)と善玉(ベビーフェイス)のグループ同士が対立するストーリーライン。
参照

