掌編小説 サンダルのお前 #せりふ三題噺
コウジを迎えに行ったら、半袖とサンダルで玄関から出てきた。
眠そうな顔をしていたけれど、きちんと髪は整えてある。
ちゃんと準備しておれを待っていたことが分かって少し嬉しくなった。
けど。
「……コウジさ、公園行くのにサンダルで行くの?」
おれは自転車のカゴに入れたサッカーボールと、コウジのサンダルを交互に見た。
それに、風がぴゅうと吹くと、半袖でいるにはまだ少し寒い。
「え、いいでしょ、暑いし」
「ボール蹴れるの」
「よゆー」
「……ならいいけどさ」
コウジは自分の自転車を出してくると、おれの方をちらりと見てから、声も出さずに先に走り出した。
いつもの事だ。おれもそれについて自転車をこぐ。
風を切ると、新緑の季節の空気が、温かさよりも爽やかな冷たさで肌を撫でていく。
コウジは寒くないんだろうか。
半袖のシャツの裾をはためかせて、たまに立ち漕ぎをしながら軽快に進んでいる。
自転車で10分くらいの、少し高台にある公園。
ボールだけ持って、自転車を駐輪場に停める。
桜が終わったあとの赤い芯が、アスファルトの上に散っている。見上げると、もうピンク色を一欠片も残していない、青々とした緑の葉っぱで空は覆われていた。
「喉乾いたな」
「寒くないの?」
「全然」
「広場で水飲もう」
芝生が広がる広場まで行く。
入口のところに水飲み場がある。
コウジは思いっきりその蛇口をひねって、空高くまで水を出した。
「ちょ、いきなりやめろって」
思わず笑ってしまった。コウジは自分でやって爆笑している。
Tシャツの袖に水しぶきが飛ぶのも気にしてなかったけれど、直ぐに勢いを弱めて口を近づけて飲んだ。
「はー生き返ったわ」
「おれも飲も」
コウジと交代して水を飲む。
公園の水は美味しくない。鉄と砂のような味がする。
だけど、ここに来るとつい飲みたくなってしまうのはなんでなんだろう。
広場までは既に何組かがボールで遊んでいた。
小さなコーンを立てて、本気的に練習してる子もいる。
おれたちはそこまでのやる気はない。ただボールを、回して蹴りたいだけ。
ボールを蹴った時の、鈍い音が好きだ。それくらいの理由。
「いくよー」
数メートルの距離を取って、おれはコウジに向かってボールを蹴り出す。ぼんっという音と共に。
コウジはズボンのポッケに片手を入れながら、足の側面でそれを返した。が。
「いてぇ」
笑いながら言って蹴り出されたボールはヨロヨロとおれの足元に届いた。
「だから言ったじゃん、サンダルは無理だって。馬鹿。」
「わりわり」
「やめよボール、ジャングルジム行こ」
この公園にはでかいジャングルジムがある。
ジャングルジムは、てっぺんまで登ると、なかなか悪くない。
いつも通りおれたちはスルスルとジャングルジムをのぼり始める。
「……ちょ、サンダル滑るわ」
「もう脱げよそれ」
コウジはおれに言われた通りに、登っている途中でその場でサンダルを脱ぎ捨てた。
地面に、どうでもいい方向を向いて落ちたサンダルを眺める。
なんだかざまあみろという気持ちだ。
母さんが見たら怒るだろうな。
てっぺんまで登って、少しの優越感に浸りながら座る。
見下ろした視界の隅に、紫色の花が見えた。
「なぁ、あの紫の花、なんだっけ」
「藤。藤棚」
「は?なんで即答できんの、やば」
「鬼滅で覚えた」
「鬼滅かー」
「俺、胡蝶しのぶ好きなんだ、ここだけの話だよ」
「え、コウジ胡蝶しのぶ好きなの?意外だな」
そこからコウジと鬼滅トークになり、好きな動画の話になり、動画の話から食べ物の話になり……
こんな取り止めのない時間が、おれは実は本当に好きだ。
「てかさ、コウジ半袖寒くないの。おれちょっと寒いんだけど。」
「全然寒くない!今日日差し強いじゃん。半袖サイコー。ちゃんと日焼け止めも塗ってる」
その言葉に思わず吹き出す。
「お前、サンダル履いてくるくせに日焼け止めは塗ってるのかよ」
「は?足にもちゃんと塗ってるし」
「やめて、お腹痛い」
爆笑するおれに、コウジはわざと不服そうな顔をしてから一緒にケラケラと笑った。
「肌を大切にしろって母ちゃんがうるせぇんだよ」
「ちゃんとしてるのに、ボールやるのにサンダル履いてくるなよ、明日は靴履けよ」
「わかったよ、お前も母ちゃんみたいだな」
「おれはお前のママじゃなーい!」
また笑う。
今日、帰ったら鬼滅を見よう。
明日も学校が終わったらすぐコウジの家に行こう。
それで、絶対明日はスニーカーを履かせるからな。
▼今週のお題
■セリフ
「ここだけの話だよ」
■三題
・サンダル
・日焼け止め
・藤棚
久々に参加させていただきました✨️
気晴らしに、思いつくがままに書いたけど楽しかったです笑
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