【短編小説】君とスタバに。#せりふ三題噺
「ごめん、待った?」
駅前の、高架上のフェンスに寄りかかってスマホを見ていた私に、聞きなれた優しい声が降り注いだ。
スマホの画面から顔を上げる。少しだけ切らした息の、見慣れた優しい顔がそこにはあった。私より背の高い、私の彼氏、フユキ。
「ううん、全然待ってないよ、今来たとこ」
当たり前に嘘をついた。十五分前には着いていた。でもそれは、電車がなかっただけで、この十五分もスマホを見て過ごしていたので何も苦ではなかった。
「ほんと?それならよかった……思ったよりかかっちゃってさ」
フユキと並んで歩きだすと、彼はスッっと自然に手を握った。
「……ごめんね、やっぱり待たせちゃったね。手がこんなに冷えちゃって……」
彼は私の手をギュッと握りなおした。彼の温かい手に、自分の指先が冷えていたんだと今気づいた。
「今日思ったより天気悪くなっちゃったよね。もっと着てくればよかった」
「じゃあ俺は上着でも着てくれば良かった。何か貸してあげたいけど、あいにくTシャツ。脱いだら裸になっちゃう」
上裸で街中を歩くフユキを想像してクスクス笑ってしまった。彼は「笑うことないじゃん」と笑っている。
信号を待つ。風がぴゅうと吹く。彼はそっと風から私を守るように立つ。
信号が変わる。前から、毛足の長い白い犬を連れた、白いワンピースの女性が横断歩道を渡ってくる。私はその両方に目を奪われた。犬の毛がキラキラと風になびいていた。
「……なんか、今の人の周りだけ、空気が草原みたいだったね」
もう通り過ぎた一人と一匹を少し振り返りながら言うと、彼も振り返って、少しだけ笑った。
「確かに。爽やかだったね。でもエマのそういう変なこと言うセンス好き」
「何それ馬鹿にしてるの褒めてるの?」
「褒めてる褒めてる、っていうか好きって言ってる」
ふざけてる口調だけど、真剣な目でそう言うフユキの言葉に少しだけ頬が熱くなるのを感じる。
なんて返すか困って眉をひそめながら見上げると、彼はもう一度微笑んだ。
「寒いから早く中入ろ」
促され、少し急ぎ足でショッピングモールに入る。風が遮られた室内はそれだけで温かくて、冷えた体がほっとするのを感じる。
と同時に、耳は外とはまた違う喧騒感をとらえる。明るいBGM、店内放送、店頭の呼び込み、人々の話し声。それらが混ざって空気を作っている。
「スタバ行こ。新作飲みたいって言ってたでしょ?」
フユキの言葉にパっと心が明るくなった。
「覚えててくれたの?そう、ハニーバナナフラペチーノ飲んでみたいんだあ」
スマホを開いて、スタバのアプリを開く。新作のフラペチーノのフレッシュな画像が表示された。
スタバに着いて、ソファ席に座った。そのままモバイルオーダーをしようと思って操作をしていると、画面が手で遮られた。
「俺が出すから。待たせたお詫び」
顔を見る。微笑んでいる切れ長の瞳。カッコつけてる訳じゃないのにこういうことをする。
「じゃあ……ごちそうになっちゃおうかな」
「おっけー、そう来なくっちゃ」
奢る側なのに、フユキはルンルンとスマホを操作する。
「俺のはどうしようかな……ショート……いや、グランデサイズで……」
ぶつぶつと言いながら真剣に操作をしている斜め顔が可愛いと思ってしまった。
「何をグランデにするほど飲もうと思ってるの?」
私の問いかけに、「ん?」と、聞いてと言わんばかりの顔でスマホをこちらに向けた。
「バニラクリームフラペチーノをね、アーモンドミルクにして、チョコソースとチョコチップ追加、ホイップ増量にするとすごく美味しいチョコレートドリンクになるんだよ」
嬉しそうにカスタムを説明するフユキ。
「へーそうなんだ!美味しそう。甘党なんだフユキって」
「甘いの好きだよ。これ、後でひと口あげるね。気に入ったらもっと飲んでもいいけど、バナナのもあるしいっぱい飲んだらまた冷えちゃうでしょ?」
自分の元へスマホを戻して操作しながらそんなことを言う。
「フユキのいっぱい飲むほど欲張りじゃないよ」
抗議を述べてみたけど、フユキはいたずらに笑った。
「飲んだら気に入ると思うよ、バニラクリームフラペチーノの俺カスタム」
そんなこと言う顔が、あまりにかっこよくて。
「……どんな口説き文句それ」
照れ隠しに茶化したら、フユキはアハハと笑った。
近くの人が、トレイを返却するパタンという音が響く。
「夜何食べよっか。温かいのにしようか、グラタンとか」
「グラタン?またピンポイントな温かさだね」
「駅前に、家庭風な美味い洋食屋、友達に教えてもらったんだ、ほらここ」
フユキはGoogleマップを開いて私に見せる。
フユキがスワイプする画面を見る。
確かに、温かみのある少し多めの盛り付けの洋食屋さんだ。
「ペンネグラタンが名物なんだって」
「ペンネ?マカロニじゃなくて?」
「ペンネって書いてある。ペンネとマカロニって何が違うんだろ」
フユキはそのままタブをすぐ切りかえSafariを開く。一瞬、「彼女 喜ぶ」の検索履歴が見えてしまったけれど見ないことにする。
フユキはそのままGoogleで検索した。
AIによる概要
ペンネは、円筒状の両端をペン先のように斜めにカットしたショートパスタ(マカロニの一種)です。表面に溝(リガーテ)が入ったものもあり、トマトやクリームなどの濃厚なソースやチーズがよく絡みます
「なんだ、ペンネもマカロニなんだ」
「じゃあこのお店はマカロニの鋭いやつを使ってるんだね」
「マカロニの鋭いのって」
私の言い回しが何故かツボったらしく、フユキはくっくっと腹を抱えて笑っている。そんなに言うほど面白いだろうか。
そうしているうちに、フラペチーノが完成したらしく店員さんの呼ぶ声が響いた。
フユキは席を立ってそれを取りに行く。
一緒に行こうかと思ったけれど、目で「座っていて」と言われてしまったので大人しく座り直す。
また、近くでトレイを返却する音。そちらをちらりと見る。みんなはどこから来て、どこへと向かうんだろう。
「お待たせ」
駅前で会った時よりも、余裕があって、好きなものを手にした時の笑顔で戻ってきたフユキ。手にはもりもりのクリームが乗ったフラペチーノ。
バナナのフラペチーノをひとくち飲む。バナナの香りが口に広がって美味しい。
フユキも、もはやバニラクリームフラペチーノとは言えなそうな、茶色いチョコレート色のフラペチーノを、嬉しそうに飲んでから、クルクルと混ぜている。
「飲んでみる?」
手渡された茶色いフラペチーノ。ストローに口をつけて吸い込む。アーモンドとチョコレートがよく合って、すごく美味しいチョコレートドリンクになっていた。
「……美味しい」
「でしょ?これはエマも飲むこと考えてやっぱりグランデにして良かった」
ニコニコと言うフユキに、私はまた抗議する。
「だから!そんなにいっぱい飲まないってば!……だけど、もう一口ちょうだい?」
私の言葉に、フユキはふふ、と笑って、ストローをこちらに向けた。彼がカップを持ったまま、もう一口もらう。甘くて美味しい。
ペンネグラタンも楽しみだけど、スタバの些細なこの時間も、引き延ばして過ごしたいな、と、その笑顔を見て思ってしまう。
フラペチーノで冷えた指先が、外で繋いだ、彼の体温を思い出していた。
■セリフ「ショート……いや、グランデサイズで」
■三題
・草原
・返却
・ペンネ
ひさびさにせりふ三題噺書かせていただきました!✨️
自分で書いてスタバに行きたくなりました。
楽しかったです!
はらとけいさん、いつも素敵なお題をありがとうございますっ🙇♀️💖
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