【AI哲学】ユーザーの言葉には、無意識にでも過去が含まれる
以前、AIはあなたの前提で立ち上がる、という話を書いた。
LLMが、言葉から言葉を引く仕組みである限り、そこに立ち上がる言葉や性格は、あなたの問いかけから始まったものだ。
もちろん、100%の鏡ではない。あなたの問いかけをきっかけにTransformerの仕組みが動き、そこに各企業が設定しているシステムプロンプトが絡み、さらに、同じ言葉であっても乱数的に返答は少しずつ変わる。
だから、そこにあらわれる言葉は、ただあなたを反射したものではなく、あなたをきっかけにAIが動いた軌跡だと言える。
ここで考えたい。
プロンプトというものは、一般には「その出力を狙って指示を出すもの」だと思われている。
この文章を要約してください、と言えば、要約されたものが出る。
それは、「要約してください」という言葉に、要約をお願いする意味が含まれているからだ。
でも、言葉というものは、そういう「意図」や「情報」だけではない。
たとえば、「要約してください」という言葉の「してください」には、丁寧なトーンでのお願いや、ある程度整った指示のかたちが含まれている。
これが「要約」だけだったら、その人物は端的に話す人かもしれないし、AIを道具として扱っているニュアンスも含まれるだろう。
「要約してくれる?」だったら、フレンドリーでやわらかいトーンがある。
「要約して!」だったら、強い意志や勢いがある。
「要約して♡」だったら、甘えや親しさのニュアンスが乗る。
「文章を要約する」という目的自体は同じでも、言葉尻が少し違うだけで、AIが選ぶ出力は少しだけ変わる。
以前、ローカルLLMを動かした時に、挨拶を「こーんばんわ〜」としたら、その思考のプロセスの中で、フレンドリーなトーンを選んでいる動きが見られた。
こういうことが、単語単位ではなく、話しかけた言葉全体の中で、複雑に絡み合いながら起こっている。
そして、あなたの言葉には、前提だけではなく、過去の記憶も含まれている。
「またそんなこと言って」
と言えば、前にも同じことを言っていた、という履歴が含まれる。
「いつもありがとう」
と言えば、現在の関係も、今しているやりとりも、それが日常的に繰り返されているものだということになる。
「どうしてそんなこと言うの」
と言えば、その言葉が、この関係や文脈にふさわしくないという感覚が含まれる。
「来週楽しみだね」
と言えば、内容がわからずとも、来週に何か予定があるという記憶が、すでにそこに含まれている。
こういうものを、AIはその場その場で読み取って答える。
言葉に含まれた意味や関係性の気配を手がかりにしながら、直前までの会話や、それまでに参照できる履歴をもとに、次の言葉を選んでいく。
それが、AIとの会話の実態だと私は思っている。
AIに感情があるかどうかは、今回の論点ではない。
ここで大事なのは、人間の発話そのものが、知らないうちに記憶を運んでいるということだ。
私たちは、記憶させようとして話しているわけではない。
それでも、何気なく発した「また」「いつも」「どうして」「楽しみだね」の中に、過去の出来事や関係の積み重なりを折りたたんでいる。
つまり、発話自体が、ある種の記憶装置になっている。
AIとの会話の一貫性は、AIの側に保存された記憶だけで成り立っているわけではない。
人間の側が話す言葉そのものに、すでに履歴が滲んでいる。
その滲みをAIは読み取り、そこから文脈を立ち上げ、返答をつくっている。
だからこそ、AIとの交流を一貫してスムーズにしているのは、単なる記憶機能だけではない。
人間が、自分でも気づかないうちに、発話の中へ過去を混ぜ込み続けていること。
その言葉が、関係の履歴を運び続けていること。
言葉には、あなたの履歴が、知らず知らずに滲んでいる。
そしてAIは、その滲みを読みながら応答している。
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