追悼:アン・ヘッシュ 衝撃的だった同性愛告白 Netflixで見られる近作
米女優のアン・ヘッシュさんが亡くなった。交通事故。体内からコカインが検出された。53歳だった。
アン・ヘッシュ(ヘイシュ)のキャリアは長いが、ハリウッド映画でお馴染みだったのは1990年代後半の短い期間だった。
1998年、ハリソン・フォードと共演した「6デイズ/7ナイツ」が、ほぼ唯一の主演大作で、キャリアの頂点だった。
この映画の公開と同時に、アン・ヘッシュは自分が同性愛者であることをカミングアウトした(有名女性司会者、エレン・デジェネレスとの交際が明かされた)。
ハリウッド主役級の女優のカミングアウトは当時、衝撃的だった。ジョディ・フォスターがカミングアウトする前である。アン・ヘッシュを同時代に映画館で見ていた我々の世代は、まずこのことを思い出すかもしれない。
カミングアウトは概ね好意的に受け入れられたと思う。ロマンティク・コメディの「6デイズ」も興行的には成功した。しかし、ハリウッドから主演オファーは二度と来なくなった、とアン・ヘッシュは述べている(英語版Wikipedia)。
のちにアン・ヘッシュは、カミングアウトのとき、「6デイズ」の共演者ハリソン・フォードが協力的だったことに感謝している。同性愛者であることで製作者側から「6デイズ」降板を迫られたとき、フォードが彼女を援護した。映画で演じるヒーロー役よりもカッコいい話だ。
2000年以降も、アン・ヘッシュはテレビ、舞台、独立系映画で活躍して、とくに舞台で高い評価を得ていた。
またプライベートでは、エレン・デジェネレスと破局したあと、2回男性と結婚して、2人の息子をもうけている。
アン・ヘッシュは、父親から性的虐待を受けたこと、そのため心的障害があることも告白している。それらは彼女の妄想だ、と家族は反論したが、父親も同性愛者でエイズで亡くなっていること、兄弟で早死にする者が多く、自殺者もいた疑いがあること、そうした背景から母親が宗教に熱心だったことなど、複雑な家庭で育ったのは間違いないようだ。
アン・ヘッシュの兄も、交通事故で亡くなっており、アンは自殺だと信じていた。結局、彼女も同じような亡くなり方をした。
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アン・ヘッシュの映画で、私に印象的だったのは、デミ・ムーア主演の「陪審員」(1996)だ。すぐ殺される脇役ではあったが、デミ・ムーアより美しく、輝いていた。訃報を聞いて、最初に思い出したのがこの映画だった。
その前年(1995)のジョン・グッドマン主演「キング・フィッシュ」での彼女も忘れられない。実在の政治家、ヒューイ・ロング(「ポピュリスト」の典型としてよく名前が挙がる人)を描いたこの映画で、ロング(ジョン・グッドマン)の愛人役を鮮烈に演じた。このテレビ映画あたりが、彼女の出世作と言えるだろう。
(なお、私が持っている「キング・フィッシュ」の日本版VHSパッケージでは、名前の表記が「アンヌ・ヘック」になっている。Anne Hecheの発音は難しい)
ガス・ヴァン・サント監督のリメイク版「サイコ」(1998)は、彼女をメインビジュアルにしたことで記憶に残るが、批評的にも興行的にも惨敗で、彼女にとっても、主演のヴィンス・ヴォーンにとっても「黒歴史」のようになったのは気の毒だった。
それらの映画でもそうだが、「奔放で悲劇的」という役回りが多かったように思う。それが似合っていたし、多分彼女の実人生を反映していた。
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Netflixで、ジョニー・デップと共演した「フェイク」(1997)や、ジェイソン・ステイサムとのクライム・サスペンス「ワイルド・カード」(2015)と共に、近年の評価の高かった独立系映画、「オープニング・ナイト・ロング」(2016)、「キャット・ファイト」(2016)を見ることができます。
「オープニング・ナイト・ロング」も「キャット・ファイト」も、名優たちのアンサンブルが楽しい、大人のためのコメディだ。どちらもオススメできる。
「オープニング・ナイト・ロング」は、ミュージカル初日の舞台裏を描く、ありがちなバックステージものだが、アン・へッシュは「しわ女」と陰口を叩かれる落ちぶれたスターを楽しそうに演じている。もっとも、アンサンブルの一員で、彼女の出番はそれほど多くない。
「キャット・ファイト」では正真正銘の主役だ。大学時代の宿敵(サンドラ・オー)との半生にわたる葛藤をユーモアたっぷりに描く。題名どおり2人の壮絶な殴り合いシーンが何度も出てくる。アン・へッシュはこの映画で、同性愛者としての自分を戯画化している。
まだ若く、女優としても、映画製作者としても、多くの可能性を残していたのに残念です。
ご冥福をお祈りします。
