【YouTube】現代曲屈指の名曲 ジョン・アダムズ『主席は踊る』聴き比べ
ジョン・アダムズの「主席は踊る The Chairman Dances」(1986)は、オペラ「中国のニクソン」から派生した10分ほどのオーケストラ曲。
「中国のニクソン」については、先日紹介文を書いた。
「主席は踊る」は、ハチャトリアンの「剣の舞」を連想させる曲調。ミニマリズムから生まれた曲ながら、迫力と叙情味があり、20世紀後半が生んだ「古典」として認められていると思う。録音では、初演者のエド・デ・ワールト盤、サイモン・ラトル盤、マリン・オールソップ盤などが代表か。
2021年に東京芸術劇場で、この曲にダンスを振り付けた舞踏家・井関佐和子氏が、曲のイメージをこう語っている。
この「ザ・チェアマン・ダンス」は勢いよく始まり、エンディングへ向かって様々なものが疾駆し、駆け抜けていくような世界観がある。それでいて、途中スローテンポになったり、ある種の男女のリレーションシップのようなものも見えたりしながら、最後はまるで「時」という名の列車が過ぎ去っていくようなイメージもある。
この曲はオペラでそのまま使われているわけではないが、オペラを見た人なら、第3幕で毛沢東と江青が過去を回想しながら抱き合って踊る場面を思い浮かべるだろう。井関氏の言う「男女のリレーションシップ」はそのことを踏まえていると思う。
井関氏の評言はとても適切だ。人生時間は瞬く間に駆け抜けていく、という表現としては、ブルックナー8番の4楽章と似ているのかもしれない。曲の終わりには、彼女が言う「時という列車が過ぎ去っていく」イメージーー人生の甘美な記憶の余韻と、ある種の索漠感がほしい。
なお、この曲の邦題は、「主席は踊る」の他に、「議長は踊る」「(ザ・)チェアマン・ダンス」などが使われるが、「主席〜」以外はよくないと思う。以下のアロンドラ・デ・ラ・パーラの動画では「会長は踊る」になっていて、おいおいと思った。「チェアマン」というと、企業の取締会の会長だと思うのだろうか。私はなぜか三木谷浩史氏が踊っている姿を思い浮かべてしまった。
この「チェアマン」は毛沢東のことだから、主席(国家主席)がいいと思うし、思い切って「毛沢東は踊る」としてもいいと思う(「the」は、「chairman dances」にかかっているわけではなく、「chairman」にかかって、「かの有名な主席(the chairman)=毛沢東」が踊っている、という意味だと思うので)。
また、「dance」ではなく「dances」と動詞なので、「チェアマン・ダンス」はおかしい。(「チェアマン」などとするのは、「主席」で毛沢東を思い浮かべてほしくない中国への忖度? まさかね)
この曲については、英語だが、以下の作曲家デヴィッド・ブルース氏のYouTube動画の解説が素晴らしい(私も英語は苦手だが、英語字幕を出して見た)。
ジョン・アダムズのオーケストレーション(YouTube デヴィッド・ブルース)
この曲のオーケストレーションがいかに巧みか、よくわかる解説だ。メロディを分割して複数の楽器で受け渡しながら1つのメロディのように奏でる「hoket」の技法(チャイコフスキーが「悲愴」で用いた)など、この動画で初めて知った。また、「ムーンドッグ」から始まって、ミニマルミュージックの簡潔な紹介にもなっている。
鑑賞のポイントとして、ミニマル音楽としての「リズムの正確さ、アタックの強さ、非ロマン性」が重要なのは間違いないが、上の「中国のニクソン」紹介動画で述べたように、オペラの叙情的で内省的な部分で使われる音楽なので、機械的ではなく、人間的な味わいを感じさせることも必要だ。
では、YouTubeで聴き比べを。
グイグイいく名演
アラン・ギルバート指揮 NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団(2021)
出てくるなり聴衆を一顧だにせず演奏を始めるのがかっこいい。極めて早いテンポでグイグイと進む。「叙情」部分は潔く切り捨てたような演奏だが、しっかり感動を伝えている。全体の見通しが良く、後半まできちんと計算されていて、スリルある好演だと思いました。うまい。
リズム感はいいが一本調子
アロンドラ・デ・ラ・パーラ指揮 ケルンWDR交響楽団(2022)
ルッキズム上等の私が「顔」でひいきしているアロンドラだが、この曲を演奏しているのは知らなかった。アメリカで音楽救育を受けたアロンドラにとっては基本レパートリーなのだろうか。彼女のリズム感の良さは演奏に生きている。ここであげた中では、ウッドブロックをいちばん強く叩かせ、「打楽器協奏曲」の側面を強調している。「叙情」部分に個性は感じるが、後半はコントロールが弛緩してきて、少々やかましい感じになる。それで、どうも音楽としての味わいに乏しい。彼女に不向きな曲なのでは。ステージ上でダフトパンクの「アラウンド・ザ・ワールド」的踊り付き。
こぢんまりとミニマル
ヨハネス・ミュラーシュトッシュ指揮 ボブ・コール・コンサバトリー交響楽団(2011)
カリフォルニア州立大学音楽学部の学生オケ。楽団名の「ボブ・コール」は音楽学部設立のため献金した地元の音楽好き投資家の名だ(どうでもいいけど)。アタックの弱さ、リズムの鈍さが一貫して気になり、音楽の作り方がこの曲のコンセプトと合っていないと感じる。でも、最後までまとまりのある演奏で、これはこれでありかと思いました。
共感力による熱演
アンナ・ウィットストラック指揮 スタンフォード・オーケストラ(2016)
これも学生オーケストラ。アメリカの学生オケはどこもうまいとはいっても、早めのテンポを取っているので、次第に音が混濁していき、カオス寸前になる。だが、それとともに音楽の熱量が上がってきて、ノリが伝わってくる。指揮者含めて音楽に共感しているのがよくわかる。他の演奏にはないちょっとした演出もあって、私は感心した。いい演奏。
