遺書としてのYouTube
「桑港(そうこう)たかし」という人のYouTubeがおもしろい。
いつもおもしろいわけではないが、ときどき、すごくおもしろい。
とくに、以下の動画がおもしろく、感動的だった。
もう引退した身には遅いけど、職業の選択を間違えた後悔が今でも常に自分を責めている。その後悔話を聞いてやってください。サンフランシスコ在住40年の後悔話。(桑港たかし / Takashi Soko)
桑港ーーサンフランシスコ在住のたかしさんは、72歳。渡米して44年。
瀬戸内海の小島出身。子供のころから英語だけが抜群にできた。上智大英文学科を出て、いったんは銀行に就職。
しかし「かみさんをもらい、子供をつくる」人生を送りたくなくて20代後半に渡米。
以後、ソフトウェア会社の契約社員などをしながら、米国の年金をもらえる年になった。独身。
日本の両親は30数年前に亡くなり、肉親の弟ともそれ以来会っていない。
17年間、日本に帰っていない。日本で会いたい人もいない。
しかし、米国永住権だけをとって、市民権はあえてとっていない(だからまだ日本国籍)。所有する小さなコンドミニアム(マンション)にひとり住んでいる。
貧しいわけではないが、万一の場合のたくわえがないので、70歳を過ぎた今もパートタイムの仕事を探している。
上の動画は、
「リタイアしたシニアのみなさん
ご自分の職業選びは正しかったと思いますか?」
という問いかけから始まる。
そして、アメリカでなかなかいい仕事に巡り合えず、失業保険の世話になりながら、人生の終わりが近づいた思いが語られる。
結局、どうすればよかったのか。本当にやりたい仕事がなかったのは認めざるを得ないが、もう少し賢明であるべきだった。しかし、これまで無事で生きてきたのも事実ーーといった自問自答がつづく。
動画では、バスでサンフランシスコ市内を移動するたかしさんの様子が映されている。「終着点が近い、もう始発点に戻れない」という言葉が文学的に響く。

要するに、引退したシニアの誰もが考えるような、人生の感慨が語られている。
たかしさんは、いつもは「アメリカ生活紹介」のような内容で、数千回の視聴数をかせいでいるYouTuberだが、今年7月に公開されたこの回は、異例の反響を呼んだようだ。3万回を超える視聴数になり、感動を伝える多くのコメントがついている。
チープな感想で恐縮なのですが、まるで高品質な映画のような心に染み入る動画です!
深みのあるビデオ感動しました。一旦何かを知ってしまうと元には戻れないという言葉が特に響きました。
桑港さんの動画は詩的で見ていて静かな気持ちになります。なんだか小津映画を見ているようです。
「映画のようだ」という感想はよくわかる。
小説や映画が伝えるような深い内容が、YouTubeの15分の動画になっている。
そして、小説や映画のような作り物めいた作為がない。
正直に、人生の思いが語られるだけだ。
しかし、それが小説や映画を越えるような表現になっている。とても感心した次第だ。
若い人が同じように感動するかはわからないが、老人には間違いなく「刺さる」だろう。
YouTubeを見ていると、ときにこういう動画に出会う。
狙って作れるものでもないと思う。
その人にとっての、「遺書」のようなものだと感じる。
こういうジャンルには、まだ名前がない気がする。
でも、私がいま触れたいのは、小説でも映画でもなく、「こういうもの」である。
