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【AmazonPrime】「スーサイド・ボマー」 隠れた逸品 カルト問題を考えるNYのイスラムサスペンス

アマプラで無料で見られる「スーサイド・ボマー」、原題は「The Martyr Maker(殉教者製造人)」。2018年アメリカの独立系映画です。

偶然見て以来、何度も見てしまう。我が偏愛の映画です。

ニューヨークを舞台に、イスラム原理主義をテーマにしたサスペンス。

統一教会問題でカルト宗教に関心が集まっていますが、世界的に見て、政治に影響するカルトの最高峰は、イスラム原理主義でしょう。その意味でも、いま見て欲しい映画です。


「イスラム2.0」問題


現在、イスラム教徒(ムスリム)は世界人口の4分の1くらいですが、キリスト教徒より出生率が高いので、21世紀のうちにはキリスト教徒を抜き、世界最大勢力になると予想されています。

ほとんどのイスラム教徒は穏健であるとはいえ、その教えの根本には「宗教と政治の一致」があり、政治を宗教化する、いわゆる原理主義派を生んだのはご承知のとおり。

とくに懸念されるのは、イスラム教徒の若い世代が原理主義に惹かれたり、イスラム教徒でなかった若者が原理主義に入信したりする傾向があることです。

これは、ネット時代になり、拍車がかかりました。ネットを通じた原理派のリクルート活動で若者が洗脳されるからです。飯山陽は、そうしたネット時代の新世代ムスリムを「イスラム教2.0」と呼びました。

例えば、Netflixのドキュメンタリー「800メートルの恐怖」は、2004年にスペインで起きたネット世代のイスラム教徒のテロを描いたものです。

穏健なシニア世代と、過激化する若者世代のあいだで、ムスリムの世代間ギャップ、世代間対立の構図があるんですね。


原理主義に目覚めるニューヨーカー(あらすじ)


この映画は、まさにそうしたムスリムの世代間対立を主題にしています。

ニューヨークのクイーンズ地区には多様な人種が住んでいます。そこに住む主人公のザヒドは、イスラム移民の2世です。

父親は穏健な商売人ですが、忠実なイスラム教徒であり、息子には、商売とともに信仰を引き継いでほしいと思っています。

しかし、主人公は、イスラム教の信仰を束縛と感じ、自由に生きたいと思っていた。ウェブデザイナーとして、ニューヨーク文化にどっぷり浸かって青春を謳歌しています。

ところが、ある日、原理主義派の男にリクルートされ、しだいに原理主義にのめり込んでいく。

「自分は結局、アメリカ社会の異物でしかない」という思いから、自らのアイデンティティに目覚めていく。あれほど嫌っていた父親世代のイスラム教より、さらに過激な原理主義者になっていくんですね。

「殉教者製造人」として当局から追われているアジテーターの下で、原理主義者のためのネットコンテンツを作り始める。

そしてある日、ザヒド自身が「殉教者製造人」から、「1週間後に自爆テロを実行しろ」と命じられる。ザヒドは覚悟を決め、体に爆弾を巻くのだがーー。

主人公の知らないところで、アメリカ当局の捜索が進行しており、最後に意外な真相が明らかになります。


ニューヨークの多様性が生んだ逸品


この映画には、CIAエージェント役のトム・サイズモア以外、ハリウッドの有名な役者は出てきません。しかし、なかなか味わい深いバックグラウンドがあります。

まず、監督・脚本のカマル・アーメドは、バングラデシュ系アメリカ人。つまり自分が「イスラム2世」なのでしょう。ニューヨーク・クイーンズ出身で、米国では有名なコミック・バンド「ジャーキーボーイズ」の元メンバーです。コメディアン・ミュージシャン・映画製作者を兼ねる多才な人物。この映画のアラブ風の音楽も彼の作曲で、なかなかいいです。

彼の過去作がマーティン・スコセッシ(やはりNYクイーンズ生まれ)に評価されたことからも分かるとおり、生粋のニューヨーク派ですね。カサヴェテス以来の、ハリウッド的でない、ザラッとした肌触りがある映画です(撮影監督と録音技師のみのドキュメンタリースタイルで撮られています)。

主人公を演じるアレクサンダー・メルシエも、「殉教者製造人」役のシーク・マハメッド=ベイも、友人役のアリ・バーカンも、ニューヨーク生まれの役者。それぞれが多様な出自を持ち、人種のるつぼたるニューヨークの空気をいちばん知っている人たちが映画を作っています。

だから、私はこの映画に、人種や民族、宗教をめぐる問題のリアリティを感じます。ストーリーには批判があるでしょうし(ザヒドが原理主義にのめり込む過程がやや説明不足など)、低予算ゆえの制約もあるけれど、ともかく娯楽作品として面白いし、宗教や人種という現代の問題を考える足がかりとなると思います。

私は香港映画の巨匠ジョニー・トーの映画を連想しました。ジョニー・トーが、香港の仲間たちと、香港というカオスな街を主人公にして傑作を撮ったように、この映画の主人公は「ニューヨークの下町」と言っていい。ローカルな感じを大事にしている。そして、カマル・アーメドには、ジョニー・トー同様の職人的な映画作りを感じます。

トム・サイズモアも、原理派のリクルーター役のコリー・ドゥバルも、主人公の父役のナイーム・ウジマンも、友人役のアリ・バーカン(最近、脇役で映画・ドラマに出まくっている)も、役者はすべていいです。

ハリウッド的な白人スターでない「個性派」名優ばかりを集めた配役で、ポリコレ的配慮の必要もないほど多様性に満ちています。これがアメリカのリアルだ、という製作者の主張がよくわかります。

アメリカ本国でも一部の注目を集めただけで終わり、日本でもあまり話題にならなかったのが残念な逸品です。AmazonPrime会員はタダで見られるから、暇なときにぜひお勧めしたいです。

なお、AmazonPrimeでは、同じニューヨークを舞台にイスラム原理主義を扱った「ターゲット・イン・NY」(2010)も見られます。


こちらもB級ですが、ダニー・グローバー、ロバート・パトリック、ジーナ・ガーションといった有名な(ちょっと懐かしい)役者が出てきます。

「スーサイド・ボマー」と同じように、ニューヨークに逃れたイスラム原理主義テロリストを当局が追う話です。

しかし、主役はトルコから来たエージェントたちで、あまりニューヨーク映画っぽくない。たぶんトルコの資本が入っているのでしょう。内容も何かちぐはぐで、イスラム弁護的です。いちばんの見所は、トルコで撮影されたイスラム寺院の美しさでした。

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