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【Netflix】「LOU /ルー」 たぶん日本人には分からない背景 [ネタバレなし]

あらすじ

辺鄙な田舎にひとり住む初老の女「ルー」。

ある日、近所に住む少女が誘拐される。

ほかに助けがなく、ルーは、少女の母と共に犯人を追っていく。

その過程で、ルーが、ただ者でないことが分かってくるーーというアクション映画。


評価

最初の15分くらいで、最近多い「この人を怒らせてはいけなかった」モノではなかろうか、と、何となくストーリーが読めてしまう。

でも、初老の主人公が大活躍するアクション映画なんで、年寄りには楽しい映画でした。

1980年代という時代設定が、いま60歳代の我々にぴったり。我々が青春時代に聞いたTOTOの「ホールド・ザ・ライン」や「アフリカ」に、ノリノリになりました。

私は以前からNetflixには年寄り向けのコンテンツが必要だと主張していましたが、これはまさにそれです。

が、その分、若い人には物足りないかも、ですね。

でも、J・J・エイブラムス製作だけに、ちょっとした仕掛けがある。

「アイ、トーニャ」の母親役でアカデミー助演女優賞を取った、「意地悪な母親(毒親)をやらせたら世界一」のアリソン・ジャネイが「ルー」を演じているのが第1のポイント。

また、「クリムゾン・タイド」などのマット・クレイヴンが保安官役で元気な姿を見せてくれているのも、私のような年寄り映画ファンには嬉しいところでした。

それにもう1つ、この映画には政治的な背景があります。

ここでは、それについて解説させていただきます。


たいがいの人がわからないであろう映画の背景


私のような年寄りにさえわかりにくい「設定」が、この映画にはあります。

それについて、以下に、ネタバレにならない範囲で書きましたので、これから見る方は参考にしてください。

この映画の「現在」は、1980年代後半。ネットやスマホどころか、まだ携帯もパソコンも普及していない時代です。

冒頭、ブラウン管テレビにレーガン大統領の顔が映り、

「身代金は払っていません。さらに人質解放のために、武器の提供も行っていません」(1)

と大統領が話す。その後、ニュースを読むアナウンサーが、

「レーガン大統領は1953年のイランのクーデターへのCIAの関与疑惑について説明しました」(2)

「次はチャレンジャー号事件についてのロジャーズ委員会報告です」(3)

少し間が空いて、またニュースが聞こえる。

「イランの協力なしに、ペルシャ湾での戦争は終わりません」(4)

というレーガン大統領の声が再び聞こえ、ルーが「あきれた」というように鼻を鳴らす。


この1分足らずのニュース音声で、映画の時代背景を説明しているわけですが、これだけでそれを理解するのは、無理ではないでしょうか。

でも、これは重要な情報で、物語の伏線でもあります。


(1)は、イランコントラ事件(1985〜)

(2)は、イランクーデター事件(1953)

(3)は、チャレンジャー号爆発事件(事故)(1986)

(4)は、イランイラク戦争(1980〜88)


そして、直接言及されないが、視聴者が当然知っていると前提されているのが、

(5)イラン革命(1979)

です。

しかし、(1)から(5)まで、事件を正確に覚えている人が、日本人にどれだけいるだろうか、と思います。

これらの事件は、当時のアメリカで激烈な反応を呼びました。アメリカが深く関係していたからです。

しかし、アメリカ人でも、今の若い人は、生まれる前のことでそんなに知らないかもしれない。

まして日本人は、よくわからないのではないでしょうか。これらの事件が起こった時代、特に80年代後半は、日本がバブルで浮かれていた時代でした。

自衛隊を初めて「外」に出したのは90年代の湾岸戦争の時で、80年代までの戦後日本は、「海外で起こっていることは自分たちには基本関係ない。まして中東の話なんてピンと来ない」「アメリカが何とかしてくれるだろう」という感覚だったのです(まあ今もあんまり変わらないかもしれませんが)。

これらの時代に青春時代を送った私も、イラン革命やチャレンジャー号事件はさすがに覚えていましたが、他の事件と相互の関連は、改めて調べないとわかりませんでした。


この映画の理解のために最も重要なのは、(2)のイランのクーデターです。

1953年、イランで、ソ連寄りだと疑われたモサッデク首相が追放され、親欧米のパフラヴィー2世(パーレビ国王)が権力を握りました。

当時のアメリカはアイゼンハワー政権でしたが、このクーデターはCIAが仕組んだという疑惑がずっとありました。

しかし、イラン革命でパフラヴィー2世が追放された後も、この映画のレーガン大統領のように、アメリカは一貫してこの疑惑を否定していました。

そして、それが事実であることをアメリカが正式に認めたのは、2009年のオバマ政権の時です。

世界の民主主義を守る立場であるはずのアメリカが、他国の民主的に選ばれた首相を自分の都合で追放し、しかもそれを50年以上にわたり隠し続けていました。

この映画の「現在」、1980年代では、CIAが絡んだという事実は表に出ていない。それはアメリカの国家機密だから、それを知っている者は抹殺される。当時、まだ冷戦は継続中、ソ連も健在です。そのことがこの映画の背景にあります。

そして、現実の「現在」、今の我々は真実を知っているので、このイランクーデター事件は、イランにとってはもちろん、世界にとっても、アメリカの「裏切り」の象徴なんですね。アメリカは嘘を重ね、信頼を裏切った。

この映画のテーマは「裏切り」です(ルーは、重要な場面で「なぜ裏切ったのか」と問われます)。

イランの話は、そこに重なってくるわけです。国家の裏切りと、個人の裏切り。


1979年のイラン革命(5)とは、ひとことで言えば、1953年のクーデターで居座った親米政権を、イスラム教シーア派を中心とした勢力が追放した革命。つまり、1953年のクーデターの否定、アメリカ従属の拒否でした。

この映画の「現在」である1986年ごろに問題になっていたのが、(1)の「イランコントラ事件」です。

この事件は、レバノンでイスラム教シーア派に捉えられて捕虜になったアメリカ兵を救うために、アメリカがイランと裏取引をして兵器をイランに提供した疑惑、そして、その取引で得た利益を、左傾化するニカラグアの反共右派ゲリラ「コントラ」に与えていた疑惑です。(この件の真相は、今もってはっきりしないようです)

この疑惑があったので、アメリカ政府はイランとの関係を改めて蒸し返されていました。

そして(4)のイランイラク戦争では、「イランの協力なしには」というレーガン大統領の言葉にもかかわらず、実際にはアメリカはイラクのフセイン政権を支援していました。それが湾岸戦争(1990ー91)につながり、9・11テロ(2001)やイラク戦争(2003ー11)まで因果がめぐり、現在まで尾を引いています。

いずれにせよ、そこにもアメリカの「嘘」があり、何もしてないふりをして、アメリカはCIAを使って中東・中南米など各地で暗躍していました(まあ、日本みたいに「アメリカが何とかしてくれる」という国のためでもありますが)。ルーが鼻を鳴らすのは、その「嘘」の累積に対してなわけです。

「みんなに過去があり、みんなに秘密がある」と、後の場面でルーがしみじみと言いますが、こうしたことすべてを指しています。

(3)のチャレンジャー号爆発事件は、この映画に直接絡んできませんが、この事件への言及によって、この映画の「現在」が、1980年代の前半ではなく後半(1986年ごろ)であることを示しています。(なお、現在ではチャレンジャー号爆発は「事故」であることが判明していますが、この時点ではまだ原因不明の「事件」でした。)

(映画の中で印象的に使われるTOTOの曲は、1980年代初期のヒット曲で、言及されるマドンナ「ライク・ア・バージン」も1984年の曲なので、最初は80年代前半の話かと思っていましたが、チャレンジャー号事件が出てくるので、86年以降の話となります。ボン・ジョヴィの1986年の「ウォンテッド・デッド・オア・アライブ」も使われます)


この映画は、こうした背景から、国と自分を信じられなくなった女「ルー」が、信じられるものを見つけるまでの物語、ということになります。

以上を知ったからといって、映画の評価は変わらないかもしれませんが、まあ私は勉強になりました。


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