知っている曲は『新宝島』と『怪獣』だけ。それなのに、なぜこんなにも心が揺さぶられるのだろう?
息子の部屋から流れてくる音楽に、いつの間にか引き込まれていた私。たった2曲との出会いが、音楽への向き合い方を静かに変えていく――そんな、ちいさな再発見の物語。
息子が教えてくれた「みんなが知っているあの曲」
サカナクションの存在を意識したのは、息子がきっかけだった。
ある時期、息子がよく聴いていた曲があり、家の中ではそのメロディーが自然に流れていた。シャッ、シャッと刻むリズムにのせて、繰り返されるフレーズが耳に残る。どこか懐かしくて、それでいて新しい。そんな不思議な感触のある曲だった。
それが、サカナクションの『新宝島』だった。
聴いた瞬間、「これ、誰の曲?」と息子に問いかけ、MVを見たときに「これか!」と記憶の奥にあったものがよみがえってきた。以前、どこかでこの曲に出会っていたのだと思う。
気づかないうちに、"みんなが知っているあの曲"の流れに私も乗っていたのだ。
そこから私は『新宝島』を繰り返し聴くようになり、歌詞をじっくりと追いかけてみた。もしもっと若い頃に出会っていたら、迷うことなく深くハマっていただろうなと、少し悔しく思った。
二度目の出会い、"しっぽ"に触れた瞬間
そして時が流れ、またある日、息子の部屋から流れてきた歌声に耳がとまる。それが『怪獣』だった。
『怪獣』MV(YouTube / サカナクション公式)
その時ははっきり歌詞が聞き取れたわけではなかったけれど、どこか心に引っかかる言葉の流れだった。
しばらくして、車の中で再びその曲に出会った瞬間、「あ、あのときの…!」とすぐに気づいた。
「これ、誰の曲?」とまた息子に尋ねると、「サカナクションだよ」と返ってきた。
そのとき私は、静かに頷いていた。私はようやく、サカナクションというバンドの"しっぽ"に指先がほんの少し触れた気がした。
歌詞を追いかけて見つけた、知ることの光と影
そして『怪獣』の歌詞を追いながら、言葉の意味をたどる旅が始まった。
繰り返されるフレーズ。耳に残り、頭の中で何度もリピートされる。こんなのずるいじゃん、と思わず口元がほころぶ。
それだけじゃない。この曲の歌詞には、探求心に火をつけられるような感覚があった。
言葉を追うたびに何かに近づいていく気がして、でも同時に、それまで信じていた"知っているつもり"が静かに崩れていく。
知ることで、新しい真実が手の中に灯る。でもその瞬間、それまで立っていた基盤が音を立てて崩れていく。
掴んだことが、確かに"光"であると同時に、その光の強さによって、古い価値観が影に変わってしまう。
それは、喜びだけじゃなく、ほんの少しの寂しさも伴う。知るということは、たぶん、ひとつの喜びにいくつもの葛藤が寄り添っているものなのだと思う。
山口一郎さんへの静かな応援
最近は、山口一郎さんのYouTubeチャンネルを見ることが増えた。
うつ病を公表され、活動を休まれていた時期があったことを知って、今こうして、時に楽しそうに踊ったり、AIと会話してみたりする姿を見ていると、"自分の好き"という感覚を、少しずつ取り戻していこうとしているのではないか――そんなふうに感じている。
うつ病というものは、誰かが「治った」「乗り越えた」と外から語れるものではない。
ただ彼は、それを受け止めたうえで、これからも活動を続けていこうと決めたのだと思う。
だからこそ、「がんばれ」と声をかけることではなく、これから彼が作っていく音楽や言葉に、静かに寄り添っていくことなんじゃないか――そんなふうに思う。
それが、私にとっての「好き」であり、ささやかだけれど確かな応援のかたちだ。
朝から夜まで、サカナクションが響く日々へ
音楽は、いつだって聴くたびに姿を変える。何度でも出会い直せる。そしてきっと、また心を動かしてくれる。
私は今、そんな音楽の"沼の入口"に立っている。
きっといつか、朝起きたときも、仕事をしているときも、夜眠る前も、サカナクションの曲が自然に流れている日々がくるのだろう。
楽しみ半分、怖さ半分。
何かに深く嵌るということの熱量を、私は知っている。人生の折り返し地点にいる今の自分がその熱量を持つということは、きっと色んなバランスを崩すことになりかねない。
だからこそ、若い頃の自分と今の自分との決定的な違いの中で、私にできる「沼」というのは、静かに聴き続けるということなのかもしれない。
それが、今の私にできるサカナクションを好きだと言える楽しみ方なんじゃないかと思う。
音楽とのつきあい方って、大人になると少しずつ変わってきますよね。
Creepy Nutsの曲を聴いていて、そんなことを感じた夜のことを、別の記事に書いています。
よかったら読んでみて下さい。
他にも音楽についてのエッセイやレビューを書いています。
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