フェリーで見た、忘れられない乗客の話。海の上に居た人達。
フェリーで働いとると、いろんな乗客と出会う。
観光客、トラック運転手、帰省中の家族、一人旅のおじさん。毎航海、いろんな人が乗ってくる。
ほとんどの人は大体普通。乗って、飯食って、寝て、降りる。それだけ。
でも、たまにおる。
一生忘れられん乗客が。
甲板手は乗客と直接関わる機会が意外と多い。
デッキをうろうろしとるから「あの人に聞けばわかる」って思われる。案内係でも客室乗務員でもないんやけど、まあ、教える。船の中では全員仲間みたいなもん。
そのぶん、いろんな場面に遭遇する。ありがたい話も、笑える話も、ちょっと泣けてくる話も。
今日はその中から、特に忘れられん3人の話をする。
フェリーの甲板手が10年以上で出会った、忘れられない乗客って?
忘れられない乗客 その1|毎月乗ってくるおじいさん
月に1回、必ず乗ってくるおじいさんがおった。
行き先はいつも同じ。用事があるわけでもなさそうで、乗って、海を見て、また帰っていく。
一度だけ話しかけてみた。「よく乗られますね」って。
そしたらおじいさん、にこっと笑って言った。「亡くなった家内が海が好きやったけん」って。
おれ、返す言葉がなくて「そうですか」しか言えんかった。
でもそのあと、おじいさんがデッキで海を眺めとる姿を見て、なんかええなって思った。
忘れられない乗客 その2|全力で船酔いしとるお兄さん
これは完全に笑える話。
夏の航海中、デッキに座る若いお兄さんを発見した。
顔が緑色。いや、比喩じゃなくて本当に緑。真緑。
ガジュマル?って思うぐらい。
「大丈夫ですか」って声かけたら「死にそうです」って言われた。
船酔いで死にそうって言う人、初めて見た。
酔い止めを渡して、横になれる場所に案内して、水を持っていった。お兄さんはずっと「ありがとうございます、でも死にそうです」を繰り返しとった。
降りるとき「生き返りました」って言いながら颯爽と歩いていった。元気になるのはや。
忘れられない乗客 その3|深夜にデッキで泣いとった女性
これはしんみりする話。
深夜の当直後の巡検中、デッキに一人の女性がおった。多分泣いとった。
声はかけにくい雰囲気で、特に何も声をかけたりしなかった。
数十分後くらいにまたそこを通ったら、女性はもうおらんかった。
入港してトラック、シャーシを下船さして船橋に戻ったらキャプテンが忙しそうに電話をしている。人もいつもより多く騒々しい、お客が一人降りてないらしい。
防犯カメラを確認すると昨日の女性がデッキに映っていた。その後カメラの死角に入り戻ってこなかった。
フェリーには、いろんな人が乗ってくる。
旅の途中の人、誰かに会いに行く人、誰かを思い出しに来る人。
甲板手はその全員の「移動」を支えとる。地味な仕事やけど、こういう瞬間に「ええ仕事しとるな」って思う。
船酔いのお兄さんだけは、次乗ってきたとき酔い止め持参しとってくれ。
フェリー甲板手10年以上の僕が書く、船乗りリアル日記。よかったらフォローしといてくれ。
