家事支援の国家資格、2027年秋の初回試験へ。この政策が"介護保険の外側"に与える影響
「保険で頼める生活援助には限界がある。家族の分のご飯は作れない。庭の草むしりも頼めない。お母さんと二人暮らしのご家族が、もう仕事を辞めるしかないと言ったとき、紹介できるものが何もなかった。」
担当者会議の後、ケアマネがこうこぼす場面がある。介護保険の外側に何かが必要だという声は、現場に長くある。
政府が、その外側の整備に動き始めている。
2027年秋、家事支援の国家資格の初回試験を目指す
高市首相は4月22日、「育児や介護など家事の負担による離職、これをどうしても防止したい」と述べ、家事支援の国家資格化について、来年秋の試験実施、税制措置を含む支援の実現に向けた検討を加速するよう指示した。
厚生労働省も、家事支援サービスに係る業界標準としての技能検定を創設し、2027年秋頃に第1回を実施する方向で検討していると説明している。現時点では、制度の詳細が確定した段階ではなく、あくまで「創設に向けた検討」が進んでいる段階だ。
家族の介護・看護を理由とする離職者数は、厚生労働省資料では年間約10.6万人とされる。また、離職者は50〜64歳で多く、女性比率も高い。さらに、仕事を続けたかった人のうち、就職活動を行っても再就職できた人は半数未満とされている。離職の代償は、想像以上に重い。
新たな資格制度については、政府資料で**複数等級の国家資格(技能検定)**の創設が示されており、職務分析表や検定試験の作成、講習プログラムの開発が進められる方向だ。加えて、新設を目指す国家資格の保有者など質の高いサービスの利用に対する税制措置を含む支援策も検討対象になっている。
品質保証と普及促進を一体で進めようとしている設計だ。
MITSUKETAの見立てとしては、この政策の本丸は「介護離職の防止」だけではなく、品質が見える保険外の家事支援サービス市場を公的に後押しすることにある。その設計が介護現場に何をもたらすか。次の章で整理する。
「生活援助」と「家事支援サービス」——同じではない
まず、2つの言葉を分けておく。
**訪問介護の「生活援助」**は、介護保険サービスだ。要介護・要支援の認定を受けた本人に対し、掃除・洗濯・調理・買い物などの日常生活上の援助を行う。介護保険の生活援助は、直接利用者本人の援助に当たらない家族のための家事や、草むしり、ペットの世話など日常生活の援助の範囲を超える行為は対象外とされている。利用者負担は原則1割だが、一定以上所得者は2割または3割になる。
今回の国家資格化の対象となる家事支援サービスは、介護保険の外側にある保険外の自費サービスとして構想されている。政府は、家事支援サービスの品質向上・信頼性確保のために技能検定化を進めようとしているが、現時点で制度の詳細や対象業務の最終形はまだ固まっていない。
ただ、現在の民間家事代行・家事支援サービスでは、家族分の食事づくり、家族の洗濯、庭の手入れ、ペットの世話など、介護保険では頼めない内容まで扱っている例が多い。つまり、現場感覚としては「介護保険では届かない部分を埋める市場」が、国家資格化によって見える化されようとしている、と理解するのが近い。
2つは法的根拠も財源も対象者も違う。
この区別は、今後ますます重要になる。財政制度等審議会では、これまでも軽度者に対する生活援助サービス等の地域支援事業への移行を繰り返し提起してきた。これは直ちに「生活援助を保険外にする」と決まった話ではないが、保険内サービスの範囲を見直す議論が続いているのは事実だ。
その意味で、家事支援の国家資格化は、単に「新しい便利サービスが増える」という話では終わらない。保険外で質の見える担い手層が整えば、介護保険の内側で何を守るのかという議論の前提が変わる可能性がある。
生活援助と保険外家事支援では、月額はどのくらい違うのか
3層で試算する。
第1層は制度の数字だ。 介護保険の生活援助(生活援助中心型・20分以上45分未満)は183単位。1単位10円で単純計算すると、月4回利用した場合の介護報酬は7,320円。利用者の1割負担は732円だ(※地域区分・所得区分により変動あり)。
第2層は利用者の金額だ。 一方、将来の有資格サービスの価格は未定だが、現行の民間家事代行をみると、例えばCaSyはお掃除代行・お料理代行ともに1時間2,790円〜で、別途交通費880円がかかる。ダスキンの家事おてつだい定期サービスは、地域差はあるが1回2時間8,800円〜だ。つまり、保険外の家事支援は時間単価だけでなく最低利用時間や交通費の影響を受けるため、単純な時給比較より負担が大きくなりやすい。
月4回の利用を想定すると、少なくとも月1万円台半ば程度から、事業者や使い方によっては月3万円超になるケースもある。現在の記事でよく見かける「月5,000〜7,500円」という単純試算は、実際の最低利用時間や交通費を織り込むと、かなり低めに出やすい。
第3層は生活の物差しだ。
介護保険なら月732円で済む支援が、保険外では月1万円台半ば〜3万円超になりうる。これは「ちょっと高くなる」ではなく、家計にとっては別のサービスに変わるレベルの差だ。特に、年金中心で暮らす世帯や、介護と就労を両立している家族にとっては、この差が継続利用の可否を左右する。
繰り返すが、これは「生活援助が保険外になる」と決まった話ではない。
ただ、リスクを織り込んでこの政策を読むと、見え方が変わる。介護保険の外側に公認の担い手層ができることは、内側の範囲をめぐる議論の前提を変えていく。

2027年までに、事業所が動き始めること
今すぐ制度が変わるわけではない。だが2027年秋頃の初回試験という起点が見えた今、準備できることがある。
まず訪問介護事業所がすべきことは、生活援助の「保険内でしか守れない価値」の言語化だ。介護保険の生活援助は、ケアマネのアセスメントに基づき、利用者本人の生活機能維持を目的として設計されたサービスだ。単なる「家事代行」ではなく、「介護計画の一部として組み込まれた生活支援」だ。この違いを事業所自身が言葉にしていなければ、保険外サービスとの比較の場面で、自分たちの価値が伝わりにくくなる。
ケアマネが今から整えておくべきは、保険外の家事支援を紹介できる地域資源のリストだ。民間の家事代行、地域のNPO、住民互助活動など、すでに動いているチャネルは地域によって違う。2027年に国家資格保有者のサービスが加わるタイミングで「紹介できる選択肢がある」状態にしておくことで、在宅支援の幅が広がる。
施設相談員・MSWは、退所後の在宅生活設計の費用試算に保険外家事支援の月額を加える視点を持っておきたい。在宅復帰のコーディネートで家族の就労継続を支援できるかどうかは、この保険外サービスの使いこなしに左右される部分がある。
2027年秋頃の資格試験はまだ先だ。制度が現場に届くにはさらに時間がかかる。今できることは多くない。だがこの政策を「介護保険の外側が整備される予告」として読み、自分たちのサービスの位置づけを問い直す材料にはできる。
介護保険の外側が整備されるとき、内側も問われ直される。この順序を意識していた事業所が、2027年以降の議論で先手を打てる。
参考リンク
📌 国家資格の等級・試験内容・税制優遇の具体的制度設計が固まり次第、追記します。
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