山岳救助隊の証言 ― 助けを呼ぶ声が二つ聞こえた ―
割引あり
私は山岳救助隊に所属している。
遭難者の捜索は時間との勝負だ。
一分遅れれば命を落とすこともある。
だから私たちは、「助けて」という声を聞けば、迷わずその方向へ向かう。
……一つだけ例外がある。
先輩から最初に教えられた決まりだ。
「同じ人の声が二つ聞こえたら、返事をするな。」
意味は教えてもらえなかった。
あの日までは。
十月の終わり。
夕方から登山者一名が行方不明になった。
男性、三十八歳。
日没までに下山予定だったが連絡が途絶えた。
私たちは夜間捜索を開始した。
山は深い霧に包まれ、ライトの先しか見えない。
午後十一時を過ぎた頃だった。
谷の下から声が響く。
「助けて!」
間違いない。
遭難者だ。
私たちは返事をしようとした。
その瞬間。
山の反対側から、まったく同じ声が聞こえた。
「助けて!」
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