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サンフェーデッドを聴いて


サンフェーデッドを初めて聴いたのは、高二の頃のロッキンだった。

当時は流行りのAKBやEXILEなどの大衆向けヒットチャートに辟易としていて、反骨心で邦ロックにどっぷり浸かっていた。要は逆張りである。

GRASS STAGEから移動して、LAKE STAGEのandropを見に行こうとしていた時だったと思う。SOUND OF FORESTからありえない勢いで歪んだギターが聴こえてきて、なんだなんだと寄り道した。ゴリッゴリに歪んだバンドサウンドの真ん中で、細くて小さくて、今にも倒れそうな女の子が立っていた。殺人的なバンドサウンドをバックにするには似つかわしくない歌声を浴びた時、脳の奥で何かが弾けたような気がした。

気づけば棒立ちのまま、その謎の女の子に釘付けになっていた。首からぶら下がっているタイテ付き地図によると、篠澤広というらしい。

帰ってから篠澤広について調べ上げた。YouTubeにMVが2つだけあったがどちらも無断転載だったので気がついたら消えていた。今をときめくヒットチャートアイドルという訳では無く、かと言って地下アイドルという訳でもない。初星学園という組織らしい。思春期だったし、逆張り野郎だったので俺が好きなのは篠澤広であってアイドルじゃねーからと吐き捨てて特にそっちは調べなかった。

高校から自転車で20分ほどの位置にあるTSUTAYAでサンフェーデッドのシングルを買った。他にも曲はあるらしいが、田舎のTSUTAYAには売っていない。たまたま新曲だったから買えただけだ。

当時の俺と言えば邦ロックに偏ってはいたが、NICO Touches the Wallsや[Champagne]などの王道系ロックは浅くしかハマれず、どっぷり浸かったのは凛として時雨やNothing's Carved In Stoneやストレイテナーや銀杏BOYZやらだった。大半がアニメ入口ではあるが。iPodの容量があまり無いため選別して曲を入れていたが、錚々たるバンドの中に篠澤広の名前があるのがなんだかおかしかった。

仲のいい女の子がいた。
彼女は明るくよく笑う子だった。そして音楽の趣味が一致していてよく二人で下校したり遊んだりした。ELLEGARDENやくるりが好きだった。変なバンドを教えてくれたりもした。

特に河川敷にはよく行った。河川敷の斜面にある段差、大方河川敷で野球をする子らの保護者の応援席であろう。いつも二人で座り、iPodのイヤホンを分け合いお気に入りの曲を聴いていた。
「この曲ギターしか聴こえないんだけど何?」
「凛として時雨」
こんな会話をよくしていた。

ある時、サンフェーデッドを流した。彼女にも深く刺さった。波長が合うのだから当然かもしれない。そこから彼女も篠澤広にハマっていった。当時は「推し」という単語はオタク用語に無かったが、やっていた事は推し活だった。推し活と言っても、地方在住の俺たちは曲を聴いて感想を言い合うくらいのものしかできなかったが。

それでも、そんな時間があの頃の俺には永遠だった。



3つ隣の駅にある、駅前から広がる商店街で祭りをやっていて、彼女と金髪のガタイのいいDQNが手を繋いで歩いているのを目撃したのは暫くしてからだ。


男友達と祭りを練り歩いていたはずだが、普段彼女が見せない表情を遠くからはっきり見てしまってからの記憶が曖昧だ。
わかっているのは、気がつけば河川敷で一人座っていたこと。
そして、その時に聴いたサンフェーデッドが、なんだかいつもより身近に感じたことだった。



何事も無かったかのように日々は過ぎて、1年が経った。彼女との関係も特に変わりは無かった。

変わったのは、彼女の顔に生傷ができるようになったこと。バイト禁止の進学校なのに、高校3年生の夏なのに、彼女がバイトをしていること。

与えられた情報から、彼女が何か不幸な目に遭っていることは想像ができる。不幸の原因が誰なのかも。地元のパチ屋でたまたま見かけた彼氏という自分視点の情報から、点と点を結ぶのが、あまりにも簡単すぎる。

だけど、何もできなかった。
何も踏み出すことができなかった。

1度だけ、頬の青痣について尋ねたことがあった。「転んだ」と笑っていた。
最近彼女がハマったというamazarashiの「アノミー」が、片耳に残り続けた。



隣町のライブハウスに篠澤広が来ることになったのは、夏休み最終日だった。受験勉強に疲れ、また、自分では何もできないくせに彼女を元気にしたいなどと思い上がった俺は、彼女をライブに誘った。
初星学園のツアーらしく、篠澤広以外にも小さいお嬢様みたいな子とやたら元気な子が出ていた。


ライブが始まった。まず3人で初星学園の曲を歌っていた。流石に高校3年生ともなると逆張り精神は少しマシになるのか、素直に楽しんでいた。

篠澤広のソロパートが始まった。

この時の感情は、言語化が難しい。

初めて篠澤広を目撃したあの日以来の生ライブ、だと言うのに、初めて出会ったあの衝撃がより深くなる。

か細く儚げな歌声は、どんなパンチより重く腹に響いて、今にも崩れ落ちそうな身体なのにまるで天使が踊っているかのように軽やかで。
可愛いかっこいいの次元では無い、眩い光。
薄暗く汚いいつものライブハウスを輝かせながらも、一切安心感が無い不安定さ。
何かありがたい物を見ている。何か暖かいものに包まれている。そう思った。

気づけば、涙を流しながら拝んでいた。
隣の彼女も泣いていた。
サンフェーデッドのギターソロが、殺人的に響いている。


ライブが終わった。
余韻に浸りながら彼女と帰る。
終わってからの帰宅道ではただ「すごい」「ヤバい」としか言えなかったから、傍から見たらギャルの感想戦だ。


彼女を家まで送った。「ここまででいいよ」と言われた時、自分の中で何かが動いた。

しどろもどろになりながら、言葉を詰まらせながら、「あんな彼氏と別れて俺と付き合おう」と言った。

彼女は驚いてから、困った顔をした。

ごめんね。それでもあの人が好きだから

そんな音が耳に残っていた。



やっぱり河川敷に来た。いつもの場所に座り、いつもみたいにiPodを取り出す。隣にイヤホンを置いて、片耳で音楽を流す。曲目は決まっている。



本当に片耳だとギターしか聴こえねえんだなと笑った。

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