世界の工場を動かす「黄色い巨人」―FANUCは、ヒューマノイド時代に何を狙うのか
黄色いマシンが世界の工場を動かす理由――産業ロボットの歴史、世界シェア、そしてヒューマノイド時代の未来戦略
世界4大産業ロボット比較 その1:FANUC編
本シリーズは、世界の産業用ロボット業界を長く牽引してきた「4強」――FANUC・安川電機・ABB・KUKA――を、1社ずつ徹底解説するものである。
その1:FANUC(日本)――CNCと黄色いロボットの王者。世界最大級のロボットメーカー。
今回の「その1」では、世界最大級の産業ロボット企業であるFANUCを取り上げる。
工場の中で、ひときわ目立つ黄色いロボットアームが動いている。
溶接する。
運ぶ。
削る。
組み立てる。
箱詰めする。
機械に部品を供給する。
そして、また次の動作へ移る。
人間のように疲れない。
気分に左右されない。
毎日、毎時、毎分、同じ精度で動き続ける。
その黄色いマシンの名は、FANUC。
ファナック株式会社。
日本が世界に誇る産業ロボットの巨人であり、ABB、安川電機、KUKAと並んで、世界の「4大産業ロボットメーカー」の一角として語られてきた会社である。
しかし、FANUCを単なる「ロボットアームの会社」と見ると、その本質を見誤る。
FANUCの本当の強さは、ロボットアームそのものだけではない。
CNC。
サーボモーター。
ロボット。
ロボマシン。
IoT。
保守サービス。
これらを一体化し、世界中の製造現場を動かす「工場の頭脳と神経」を握っているところにある。
黄色いロボットは、FANUCの一部にすぎない。
FANUCの本質は、工場を自動化するための制御技術そのものにある。
そして今、産業ロボット業界は大きな転換点に立っている。
これまでの産業ロボットは、決められた場所で、決められた作業を、決められたプログラム通りに実行する存在だった。
自動車工場の溶接ライン、半導体・電子部品の組立、金属加工、食品包装、物流パレタイズ。
FANUCの黄色いマシンは、こうした製造現場で圧倒的な信頼性を築いてきた。
だが、これからのロボットは変わる。
AIが見る。
AIが判断する。
AIが言葉を理解する。
AIがシミュレーション空間で学ぶ。
AIが現実のロボットを動かす。
この流れは、いま「フィジカルAI」と呼ばれている。
そして、その先にはヒューマノイドロボットの時代がある。
Tesla Optimus、Figure、Agility Robotics、Boston Dynamics Atlas、Unitree、UBTech、Agibot、Xiaomi、Fourier Intelligence。
米国と中国を中心に、人型ロボットの開発競争が一気に加速している。
では、FANUCはどう戦うのか。
人型ロボットそのものを作るのか。
それとも、産業ロボットの王者として、ヒューマノイド時代の裏側を支えるのか。
FANUCの未来戦略を理解するには、まず産業ロボットの歴史、FANUCの創業史、そして同社がなぜここまで強くなったのかを見なければならない。
この記事では、4大産業ロボットシリーズの一社として、FANUCを取り上げる。
黄色いマシンの会社は、なぜ世界の工場を動かす存在になったのか。
そして、ヒューマノイドロボット時代に、FANUCはどのようなポジションを取りに行くのか。
結論から言えば、FANUCの未来は「ヒューマノイドを作る会社」ではなく、「ヒューマノイドを含む次世代ロボットが動く工場インフラを握る会社」になる可能性が高い。
黄色いマシンは、AI時代においても、単なる腕ではない。
工場のOSであり、制御の神経系であり、現実世界を動かすフィジカルAIの実装基盤なのである。
目次
第1部 FANUCとは何者か――本質・歴史・4強の位置
1|産業ロボットとは何か――人間の腕を工場に移植した技術
2|FANUCの原点――ロボットではなくNCから始まった会社
3|創業者・稲葉清右衛門――FANUCを作った“制御の巨人”
4|FANUCの社名――Fuji Automatic Numerical Control
5|FANUCの歴史年表――NCからロボット100万台へ
6|黄色いマシンの意味――FANUCのブランドはなぜ黄色なのか
7|FANUCの事業構造――ロボット専業ではなく“one FANUC”
8|4大産業ロボットの中でのFANUCの位置
第2部 FANUCの現在地――決算・地域・世界市場
9|2026年3月期の現状――売上8,578億円、ロボットが最大部門へ
10|決算の質――高い利益率と財務の健全性
11|世界シェアをどう見るか――FANUCは“世界最大級”だが数字には注意が必要
12|産業ロボット業界の現在地――中国が最大市場になった
第3部 ヒューマノイド時代の論点
13|ヒューマノイドロボット時代は本当に来るのか
14|FANUCはヒューマノイドを作るべきか
15|ヒューマノイド時代の本命は“人型”ではなく“汎用作業”である
16|FANUCとヒューマノイドの関係――競合ではなく補完
17|FANUCの本質――黄色いロボットではなく「工場OS」である
第4部 フィジカルAI戦略と技術基盤
18|FANUCのフィジカルAI戦略――Google Geminiがロボットを操る
19|NVIDIAとの連携――デジタルツイン、模倣学習、Jetson Thor
20|FANUC Open Platform――閉じた巨人から、開いたロボット基盤へ
21|NVIDIA GTC 2026――四強がそろってフィジカルAI基盤に乗った
第5部 強み・弱み・競争
22|FANUCの強さ① CNCという“工場の頭脳”を握る
23|FANUCの強さ② サーボとモーション制御
24|FANUCの強さ③ ロボット100万台の実績
25|FANUCの強さ④ サービスファーストと生涯保守
26|FANUCの強さ⑤ 自社工場を自動化する会社
27|FANUCのリスク① 中国ローカルメーカーの台頭
28|FANUCのリスク② ヒューマノイド企業に“話題”を奪われる
29|FANUCのリスク③ ソフトウェア企業との主導権争い
30|FANUCのリスク④ 中小企業への導入壁
第6部 未来戦略と最新展開
31|FANUCの未来戦略① 既存産業ロボットのAI化
32|FANUCの未来戦略② デジタルツインを工場導入の標準にする
33|FANUCの未来戦略③ 米国・中国・日本の三極対応
34|FANUCの未来戦略④ 人手不足市場を取る
35|FANUCの未来戦略⑤ サービス収益とデータ収益
36|米国生産の強化とリショアリング――FANUC America 9,000万ドル投資
37|インド市場のサービス強化――FANUC India新サービス棟
38|食品産業向けロボット――DR/8-16B Stainlessが示す“人手不足産業”への展開
39|中央テクニカルセンターとZEB――顧客体験・実機検証・ESGを一体化する本社戦略
40|FANUCは“ロボットのApple”ではなく“工場のToyota”である
41|FANUCと日本製造業――日本復活の鍵になるか
第7部 結論
42|最終結論――FANUCはヒューマノイド時代の「工場OS」を取りに行く
第1部 FANUCとは何者か――本質・歴史・4強の位置
1|産業ロボットとは何か――人間の腕を工場に移植した技術
産業ロボットとは、製造現場で使われる自動化されたロボットである。
一般的には、プログラムによって制御され、複数の軸を持ち、部品の搬送、溶接、塗装、組立、加工、検査、梱包などを行う機械を指す。
人間の腕のように動く多関節ロボットが代表的だが、SCARAロボット、デルタロボット、直交ロボット、協働ロボット、大型搬送ロボットなど、形態は多様である。
産業ロボットの最大の特徴は、同じ作業を高精度で繰り返せることだ。
人間は、柔軟で賢い。
しかし、疲れる。
危険な作業では怪我をする。
高温、粉塵、薬品、重量物、夜間連続稼働には限界がある。
一方、ロボットは、柔軟性では人間に劣る。
しかし、決まった条件下では圧倒的に強い。
高速、高精度、長時間、安定稼働。
その強みが、自動車工場をはじめとする大量生産の現場で爆発的に広がった。
産業ロボットの歴史は、戦後の製造業の歴史そのものでもある。
大量生産。
自動車産業。
家電産業。
電子部品。
半導体。
精密加工。
物流。
食品。
医薬品。
そして今、EV、電池、半導体製造装置、データセンター関連設備、ヒューマノイド部品へと広がっている。
産業ロボットは、単なる機械ではない。
製造業の競争力を決める基盤である。
人件費が上がる国では、省人化の武器になる。
高齢化が進む国では、労働力不足への対応になる。
品質を追求する工場では、ばらつきを減らす手段になる。
危険作業が多い現場では、人間を守る装置になる。
そして国家レベルで見れば、産業ロボットの普及率は、その国の製造業の強さを映す指標にもなる。
世界で最初の産業ロボットとして有名なのは、米国のUnimateである。
1950年代にジョージ・デボルとジョセフ・エンゲルバーガーによって開発され、1961年にゼネラルモーターズの工場で実用化された。
最初の用途は、人間にとって危険な高温のダイカスト部品を扱う作業だった。
つまり、産業ロボットは最初から「人間を危険作業から解放する技術」として始まった。
しかし、その後の進化は単なる安全対策にとどまらなかった。
自動車工場の溶接ラインに導入され、塗装工程に入り、搬送工程に入り、電子部品の組立や加工機へのワーク供給にも広がった。
人間の代替ではなく、工場そのものを再設計する技術になったのである。
この産業ロボットの世界で、日本企業は大きな存在感を持ってきた。
FANUC。
安川電機。
川崎重工。
不二越。
三菱電機。
デンソー。
オムロン。
その中でもFANUCは、産業ロボット単体ではなく、CNC、サーボ、ロボット、ロボマシン、保守網を統合した会社として、独特の地位を築いた。
2|FANUCの原点――ロボットではなくNCから始まった会社
FANUCの歴史は、ロボットから始まったわけではない。
原点はNC、すなわち数値制御である。
NCとは、工作機械の動きを数値データによって制御する技術である。
それ以前の工作機械は、熟練工の手作業やカム、治具、機械的な仕組みに大きく依存していた。
しかしNCによって、工作機械は「プログラムで動く機械」へと変わった。
この変化は巨大だった。
旋盤、フライス盤、マシニングセンタ、研削盤。
これらの工作機械を、数値データで高精度に制御できれば、複雑な形状を安定して加工できる。
熟練工の経験をある程度プログラム化できる。
製造の再現性が高まる。
量産の品質が上がる。
現代の工場を支える「CNC工作機械」の始まりである。
FANUCの技術的起源は、1955年に富士通信機製造、現在の富士通で始まったNC開発プロジェクトにある。
このプロジェクトを率いたのが、後にFANUC創業者となる稲葉清右衛門である。
1956年、稲葉清右衛門らは、日本の民間企業として初のNCとサーボシステムの開発に成功する。
1958年には、初の商用FANUC NCを牧野フライス製作所へ出荷する。
ここが重要である。
FANUCは最初から「ロボットアームのメーカー」だったのではない。
工作機械を数値で制御する頭脳を作った会社だった。
この出自が、後のFANUCの強さを決める。
ロボットを動かすには、モーターが必要である。
モーターを正確に動かすには、サーボ制御が必要である。
サーボを統合するには、制御装置が必要である。
工場全体を自動化するには、CNC、ロボット、工作機械、センサー、ネットワーク、保守が必要になる。
FANUCは、ロボット単体ではなく、ロボットを動かす制御の世界から出発した。
だから、同社の本質は「腕」ではなく「神経系」にある。
現在のAI時代に置き換えれば、FANUCはフィジカルAIの身体を動かすための制御基盤を長年作ってきた会社だと言える。
3|創業者・稲葉清右衛門――FANUCを作った“制御の巨人”
FANUCを語るうえで、稲葉清右衛門の存在は欠かせない。
稲葉清右衛門は、FANUCの創業者であり、名誉会長を務めた人物である。
FANUC公式やIFRの追悼文でも、彼はFANUC創業者として紹介されている。
彼は1946年に東京大学工学部を卒業し、同年に富士通へ入社した。
その後、1950年代にNC開発を率い、1956年には日本の民間企業として初のNCを生み出す。
1972年、富士通から独立する形で富士通ファナックが設立され、稲葉は同社の中心人物となる。
1975年にはFANUCの社長に就任した。
稲葉清右衛門のすごさは、単にロボットを作ったことではない。
数値制御、サーボ、CNC、産業ロボット、ファクトリーオートメーションを一本の技術思想として結びつけたことにある。
製造業の現場で本当に重要なのは、派手なデモではない。
動くこと。
止まらないこと。
壊れにくいこと。
壊れてもすぐ直ること。
長期間使えること。
保守部品があること。
現場の生産性に効くこと。
FANUCの企業文化には、この現場主義が強く残っている。
FANUCは、山梨県忍野村の富士山麓に巨大な本社・工場群を構える。
そこには、CNC、サーボアンプ、サーボモーター、ロボット、ロボショット、ロボカットなどの工場が集まっている。
「黄色い森」とも言える独特の本社地区は、単なる本社ではなく、FANUCの思想そのものを形にした場所である。
外部の流行に振り回されず、自社で技術を磨き、工場で使い、信頼性を高め、世界中の顧客に届ける。
この閉じた強さ、内製志向、現場志向が、FANUCを世界的な企業にした。
稲葉清右衛門は、2020年に95歳で逝去した。
しかし、彼が築いた「厳密」と「透明」を重んじる経営思想、そして「壊れない、壊れる前に知らせる、壊れてもすぐ直せる」という現場への価値提供は、今もFANUCの中核にある。
4|FANUCの社名――Fuji Automatic Numerical Control
FANUCという社名は、一般に「Fuji Automatic Numerical Control」に由来すると説明される。
Fujiは富士通の流れ。
Automaticは自動化。
Numerical Controlは数値制御。
つまり、社名そのものが「富士通発の自動数値制御」を意味している。
この社名からも分かるように、FANUCの根はCNCである。
FANUCを黄色いロボットの会社としてだけ見ると、CNCという根幹が見えなくなる。
だが、現実の工場では、CNCこそ重要である。
工作機械が金属を削る。
ロボットが部品を供給する。
サーボが軸を動かす。
制御装置が全体を同期させる。
センサーが状態を把握する。
保守システムが異常を検知する。
この全体を握るのが、FANUCの強みだ。
ロボットメーカーにはいくつかのタイプがある。
第一に、ロボットアームそのものに強い会社。
第二に、サーボやモーターに強い会社。
第三に、システムインテグレーションに強い会社。
第四に、AIやソフトウェアに強い会社。
第五に、工作機械や制御装置まで含めて工場全体に入り込む会社。
FANUCは、第五のタイプである。
ロボットだけでなく、工作機械の頭脳であるCNCも握る。
サーボも握る。
ロボマシンも持つ。
保守網も持つ。
これが、FANUCを単なるロボットメーカーではなく「工場OS企業」と呼べる理由である。
5|FANUCの歴史年表――NCからロボット100万台へ
FANUCの歴史は、戦後日本の製造業の高度化そのものと重なる。
1955年、富士通信機製造、現在の富士通でNC開発プロジェクトが始まる。
1956年、日本の民間企業として初のNCとサーボシステムの開発に成功。
1958年、初の商用FANUC NCを牧野フライス製作所へ出荷。
1959年、日本初の連続経路NCを開発。
1960年、オープンループNC「FANUC 220」を開発。
1965年、線形切削用NCを開発し、日本でブームを起こす。
1968年、世界初の商用DNCを完成。
1969年、完全モジュール化NCを開発。
1972年、富士通から独立し、富士通ファナック株式会社が設立。CNCを導入。
1974年、ロボットを開発し、自社工場に導入。
1977年、商用ロボット「ROBOT-MODEL 1」の生産・出荷を開始。
1982年、社名をFUJITSU FANUC LTDからFANUC LTDへ変更。GMとの合弁でGMFanuc Roboticsを米国に設立。ACサーボモーターも開発。
1984年、本社を東京・日野から富士山麓へ移転。
1985年、FANUC Series 0を開発。
1986年、GEとの合弁でGE Fanuc Automationを設立。デジタルサーボを完成。
1992年、GMFanuc Roboticsを再編し、FANUC Roboticsとして完全子会社化。中国・北京、インドにも展開。
1997年、上海FANUC Roboticsを中国で設立。
2002年、720時間連続無人運転を可能にするロボットセルを実用化。
2003年、知能ロボットの商用生産を開始。
2015年、協働ロボットCR-35iAを開発。Preferred Networksとの提携も発表。ロボット累計40万台へ。
2017年、ロボット累計50万台。
2022年、CNC累計生産500万台。
2023年、FANUCロボット累計出荷100万台。
2026年、Google、NVIDIAとの連携を強化し、フィジカルAIロボットシステムを前面に押し出す。
この年表から見えるのは、FANUCが常に「制御技術の会社」として進化してきたことだ。
1950年代はNC。
1970年代はCNCとロボット。
1980年代はサーボとグローバル展開。
1990年代は自動車工場と世界市場。
2000年代は知能化と無人運転。
2010年代は協働ロボットとAI連携。
2020年代はフィジカルAIとデジタルツイン。
FANUCは流行に飛びつく会社ではない。
だが、現場に必要な技術が成熟したタイミングで、確実に取り込んでいく会社である。
6|黄色いマシンの意味――FANUCのブランドはなぜ黄色なのか
FANUCといえば黄色である。
黄色いロボット。
黄色い制御装置。
黄色い工場。
黄色いロゴ。
黄色いカタログ。
この色は、FANUCのブランドそのものだ。
工場で黄色いロボットアームを見れば、多くの技術者はすぐにFANUCを思い浮かべる。
産業機械の世界で、ここまで色とブランドが強く結びついた企業は多くない。
もちろん、産業ロボットには他にも象徴的な色がある。
KUKAはオレンジ。
ABBは白や赤の印象が強い。
安川電機のMOTOMANは青系の印象がある。
しかし、FANUCの黄色はとりわけ強烈である。
黄色は目立つ。
工場内でも視認性が高い。
危険な動作をするロボットアームの存在を示す色としても分かりやすい。
だが、それ以上に重要なのは、FANUCがこの黄色を半世紀にわたって守り続けてきたことだ。
ブランドとは、広告だけで作られるものではない。
同じ色の機械が、世界中の工場で、何十年も動き続けることで作られる。
FANUCの黄色は、信頼性の記憶である。
自動車工場で黄色いロボットが動く。
電子部品工場で黄色いロボットが部品を運ぶ。
工作機械の横で黄色いロボットがワークを供給する。
食品工場で黄色いデルタロボットが高速ピッキングする。
重工業の現場で黄色い大型ロボットが重量物を扱う。
その積み重ねが、FANUCの黄色を「工場自動化の色」にした。
記事タイトルに「黄色いマシン」を入れる意味はここにある。
FANUCの黄色は、単なるデザインではない。
世界の製造現場で築かれた信頼の記号なのである。
7|FANUCの事業構造――ロボット専業ではなく“one FANUC”
FANUCの現在の事業は、大きく4つに分けられる。
FA。
ROBOT。
ROBOMACHINE。
SERVICE。
この4つが「one FANUC」として統合される。
FAは、CNC、サーボ、レーザーなど、工場の制御技術である。
ROBOTは、産業ロボット、協働ロボット、塗装ロボット、デルタロボット、SCARA、大型ロボットなどである。
ROBOMACHINEは、ROBODRILL、ROBOSHOT、ROBOCUTなどの自動化された機械群である。
SERVICEは、保守、修理、教育、部品供給、予防保全である。
FANUCの強さは、この4つが分離していないことにある。
ロボットだけを売るのではない。
CNCだけを売るのでもない。
工作機械に入り、ロボットに入り、サーボに入り、保守に入り、工場全体の稼働率を高める。
特にFANUCが重視するのは、サービスである。
同社は「Service First」の精神を掲げ、顧客がFANUC製品を使い続ける限り保守を続ける方針を示している。
産業機械の世界では、これは非常に重要である。
工場の設備は、スマートフォンのように数年で買い替えるものではない。
10年、20年、場合によっては30年以上使われる。
ロボットが壊れればラインが止まる。
CNCが止まれば加工が止まる。
サーボが壊れれば生産が止まる。
工場では、止まることが最大のコストである。
だから、製造業の顧客は安さだけで設備を選ばない。
長く使えるか。
故障しにくいか。
部品が手に入るか。
現場の技術者が対応できるか。
サービス拠点が近いか。
復旧が早いか。
FANUCの高収益体質は、この「信頼性」と「保守」によって支えられている。
安いロボットは売れる。
しかし、止まらないロボットはもっと強い。
FANUCは、この世界で長年戦ってきた。
8|4大産業ロボットの中でのFANUCの位置
産業ロボットの世界では、長らく4大メーカーが語られてきた。
FANUC。
安川電機。
ABB。
KUKA。
もちろん、現在では川崎重工、三菱電機、不二越、デンソー、オムロン、Staubli、Epson、Comau、中国のEstun、Efort、Siasun、Inovance系、さらに協働ロボットではUniversal Robots、Techman、Aubo、Dobotなど、多くのプレイヤーが存在する。
それでも4大メーカーという言い方が残るのは、自動車産業を中心に、世界の大型製造業に深く入り込んできた歴史があるからだ。
この4社を比較すると、FANUCの特徴は非常に明確である。
FANUCは、CNC、サーボ、ロボットを一体で持つ「工場制御の王者」である。
安川電機は、サーボモーターとモーションコントロールを源流に持つ「精密制御の王者」である。
ABBは、欧州の総合電機・オートメーション企業を背景に持つ「グローバル自動化の巨人」である。
KUKAは、ドイツの自動車産業とIndustry 4.0を象徴する「欧州ロボットの名門」である。
そして今、この4大メーカーの構図は大きく変わっている。
KUKAは、中国の美的集団、Mideaの傘下に入った。
ABBのロボティクス事業は、SoftBank Groupによる買収が発表され、AI・ロボティクス戦略の中に組み込まれようとしている。
安川電機は、サーボとロボットの技術を持ちながら、AI時代の適応型ロボット、ヒューマノイド関連にも接近している。
FANUCは、独立した日本企業として、CNC、サーボ、ロボット、ロボマシン、サービスを一体で持ち続けている。
この状況は面白い。
ABBはSoftBankのAI資本と結びつく。
KUKAは中国Mideaの製造・家電・自動化戦略と結びつく。
安川は日本の精密制御とサーボの強みを維持する。
FANUCは、黄色い工場OSとして、独自路線を続ける。
FANUCの強みは、派手さではない。
だが、工場現場における信頼性、保守、制御、CNCとの連携では圧倒的に強い。
これはヒューマノイド時代にも重要になる。
なぜなら、ヒューマノイドが工場に入るとしても、工場の設備、ライン、工作機械、PLC、センサー、ロボットセル、AGV、AMR、CNC、MES、ERPとの接続が必要になるからである。
人型ロボットだけが単独で工場を変えるわけではない。
工場全体の制御基盤とつながって初めて、実用化される。
その接続部分に、FANUCの出番がある。
4大産業ロボット比較――FANUC・安川・ABB・KUKAの違い
4社を、本拠・資本/経営構造・歴史的な強み・AI/ヒューマノイド時代の論点で並べると、こうなる。
FANUCは、日本の独立系企業である。CNC、サーボ、産業ロボット、ロボマシン、保守網を一体で持つのが強みで、いまはGoogleやNVIDIAと連携し、既存の産業ロボットをフィジカルAI化する方向に動いている。
安川電機も、日本の独立系企業である。サーボモーター、モーションコントロール、MOTOMANロボットを軸とし、その精密制御技術をヒューマノイドや次世代ロボットへどう展開するかが論点になる。
ABB Roboticsは、スイスを本拠とするグローバル企業ABBのロボティクス部門である。電力・制御・自動化を背景にしたグローバル産業ロボットを強みとし、ソフトバンクによる買収合意でAIロボティクス色が強まる可能性がある。ソフトバンクのAI戦略と結びつき、フィジカルAIプラットフォーム化していくかが焦点だ。
KUKAは、ドイツの企業だが、いまは中国の美的(Midea)傘下にある。自動車産業、ドイツのIndustry 4.0、欧州のロボット技術を歴史的な強みとし、中国の製造業・家電・自動化戦略と結びついて、中国市場で再定義されていく可能性がある。
この比較で見ると、FANUCの個性ははっきりしている。
ABBはAI資本との結合、KUKAは中国資本との結合、安川はモーション制御の深掘り。
その中でFANUCは、CNCからロボット、ロボマシン、サービスまでを一体化した「工場OS」として、AI時代の産業ロボット基盤を取りに行く会社である。
第2部 FANUCの現在地――決算・地域・世界市場
9|2026年3月期の現状――売上8,578億円、ロボットが最大部門へ
FANUCの2026年3月期、すなわちFY2025の連結売上高は8,578億円だった。
営業利益は1,838億円。
営業利益率は21.4%である。
製造装置メーカーとして、この利益率は非常に高い。
なお、FANUCの決算上の報告セグメントは単一セグメントであるため、ここでは製品・サービス別売上として見る。
製品・サービス別に見ると、ロボット部門の存在感が際立つ。
FA部門は2,085億円。
ロボット部門は3,786億円。
ロボマシン部門は1,296億円。
サービス部門は1,411億円。
売上構成比では、ロボットが44.1%を占める。
つまり、現在のFANUCにとって、ロボットは最大の売上部門である。
ただし、FANUCをロボット専業と見るのはやはり正確ではない。
FA、ロボマシン、サービスも合わせて初めて、同社の強さが成立する。
地域別では、米州、中国、欧州、日本、アジアその他が重要な市場である。
2026年3月期の地域別売上を見ると、米州が2,322億円、中国が2,284億円、欧州が1,524億円、日本が1,108億円、アジアその他が1,242億円となっている。
国内(日本)の比率はおよそ13%にすぎず、売上の約87%は海外である。米州と中国がほぼ並んで各約27%を占め、両者で全体の過半を稼ぐ。欧州は約18%、中国を除くアジアは約14%である。
ここで重要なのは、中国と米州である。
中国は、世界最大の産業ロボット市場である。
EV、電池、電子部品、一般産業、物流、半導体関連など、自動化需要が巨大である。
一方で、中国市場では中国ローカルメーカーの台頭が激しい。
価格競争も強い。
FANUCにとって中国は、最大級の成長市場であると同時に、最大級の競争市場でもある。
米州は、再工業化、サプライチェーン再構築、労働力不足、AI投資、データセンター関連製造などが絡む重要市場である。
FANUCは2026年、米国ミシガン州でロボット生産能力拡大を視野に入れた新施設投資も発表している。
これは、北米で高まるフィジカルAI、バーチャルコミッショニング、デジタルツイン需要に対応する動きである。
つまり、FANUCの現状はこう整理できる。
売上は過去最高水準。
営業利益率は高い。
ロボットが最大部門。
中国と米州が重要市場。
サービスが安定収益を支える。
そして、次の成長軸はフィジカルAIである。
10|決算の質――高い利益率と財務の健全性
FANUCの2026年3月期決算は、同社の強さを改めて示した。
売上高は8,578億円で、2022年度を上回る過去最高水準。
営業利益は1,838億円。
純利益は1,665億円で、前期比12.9%増。
営業利益率は、前期の19.9%から21.4%へ上昇した。
製造装置メーカーとして、この収益性は際立っている。
財務の健全性も高い。
自己資本比率は高水準を維持し、配当性向60%を維持しながら、上限500億円の自社株買いも決定した。
製品・サービス別では、ロボット部門が中国のEV関連・一般産業向けで大きく伸び、FA部門もインドと中国のCNC需要に支えられた。
一方、ロボマシン部門は中国以外のアジアと国内で苦戦した。
2027年3月期の会社計画は、売上高9,096億円、営業利益2,122億円と、さらなる増収増益を見込む。
ここで重要なのは、FANUCが価格ではなく「質」で稼いでいることである。
台数を安売りする会社ではなく、止まらないライン、CNC連携、保守、AI対応で高い利益率を確保する会社。
この体質こそ、フィジカルAI時代にも効いてくる。
11|世界シェアをどう見るか――FANUCは“世界最大級”だが数字には注意が必要
FANUCは、世界の産業ロボット市場で最大級の企業である。
ただし、「世界シェア何%」と断定する場合は注意が必要である。
産業ロボットのシェアは、調査会社や定義によって数字が変わる。
売上ベースなのか。
出荷台数ベースなのか。
産業用ロボットだけなのか。
協働ロボットを含むのか。
ロボットシステム全体を含むのか。
中国ローカルメーカーをどこまで含むのか。
為替影響をどう見るのか。
この違いによって、ランキングもシェアも変わる。
外部推計では、FANUCが世界トップ級、あるいは世界最大級の産業ロボットメーカーとされることが多い。
ABB、安川電機、KUKAと並ぶ4大メーカーの一角であり、ロボット累計出荷100万台という実績も持つ。
ただし、FANUC公式が毎年「世界シェア何%」と明示しているわけではない。
記事で安全に書くなら、次の表現が良い。
「FANUCは世界最大級の産業ロボットメーカーである」
「ABB、安川電機、KUKAと並ぶ4大産業ロボットメーカーの一角である」
「2023年に産業用ロボット累計出荷100万台に到達した」
「CNCとロボットの双方で世界トップクラスの地位を持つ」
一方で、世界市場全体を見ると、最大の変化はメーカー別シェアよりも、地域別需要の変化である。
IFRのWorld Robotics 2025によれば、2024年の世界の産業ロボット新規導入台数は約54.2万台だった。
アジアが新規導入の大半を占め、中国だけで世界導入の54%を占めた。
中国の新規導入は約29.5万台。
日本は約4.45万台。
韓国は約3.06万台。
欧州は約8.5万台。
米国を含むアメリカ地域はそれより小さい。
つまり、世界の産業ロボット市場は、すでに「中国中心」の構造になっている。
しかも中国では、2024年に中国メーカーが外国メーカーを上回り、国内市場シェアを57%まで高めたとされる。
これはFANUCにとって大きな意味を持つ。
FANUCは中国市場で売上を伸ばせる。
しかし、中国メーカーとの競争は激しくなる。
価格では中国ローカル勢が強い。
納期でも中国勢が強い。
政府支援、ローカル顧客との関係、EV・電池・電子産業との密着でも中国勢は強い。
その中でFANUCが勝ち続けるには、単にロボットを安くするだけでは不十分である。
信頼性。
高精度。
制御技術。
サーボ。
CNCとの連携。
保守。
グローバルサポート。
デジタルツイン。
フィジカルAI。
そして、顧客の工場全体を止めない力。
これらを総合した価値で勝つ必要がある。
12|産業ロボット業界の現在地――中国が最大市場になった
産業ロボット業界の最大の変化は、中国である。
かつて産業ロボットの中心は、自動車大国である日本、ドイツ、米国、韓国だった。
もちろん今も重要市場である。
しかし、導入台数で見れば、現在の主役は中国である。
2024年、世界の産業ロボット新規導入は約54.2万台。
そのうち中国だけで約29.5万台。
世界の54%である。
この数字は圧倒的だ。
なぜ中国で産業ロボットが増えるのか。
第一に、人件費が上がった。
かつて中国は低賃金労働力の国だった。
しかし、沿海部を中心に人件費は上がり、若い世代は単純作業を避けるようになっている。
工場は人手不足に直面している。
第二に、EVと電池産業が巨大化した。
BYD、CATL、NIO、XPeng、Li Auto、Geely、Huawei系サプライチェーンなど、中国のEV・電池産業は大量の自動化設備を必要とする。
バッテリーセル、モジュール、パック、車体、モーター、インバーター、電子部品。
これらの製造にロボットが使われる。
第三に、政府の産業政策がある。
中国は「製造強国」を目指し、スマート工場、ロボット、AI、半導体、EV、電池、工作機械を重視している。
自動化は国家戦略である。
第四に、中国ローカルメーカーの成長がある。
以前は日本、欧州、韓国メーカーのロボットが強かった。
しかし今、中国国内メーカーが低価格・短納期・現地対応で急成長している。
2024年には、中国市場で中国メーカーが外国メーカーを上回ったとされる。
これはFANUCにとって脅威である。
FANUCは中国市場で成長できる。
しかし、中国ローカル勢が価格を下げ、品質を上げ、AI連携を進めれば、シェアを奪われる可能性がある。
特に標準的な搬送、パレタイズ、簡易組立、一般的な溶接などでは、価格競争が激しくなる。
中国メーカーは国内顧客に近く、カスタマイズも速い。
政府系案件にも入りやすい。
FANUCが中国で勝ち続けるには、汎用品の価格競争だけではなく、高信頼、高精度、高稼働率、グローバル顧客対応、CNC連携、サービス、AI対応で差別化する必要がある。
逆に言えば、FANUCはそこに勝ち筋がある。
第3部 ヒューマノイド時代の論点
13|ヒューマノイドロボット時代は本当に来るのか
今、ロボット業界で最も注目されているテーマはヒューマノイドである。
人型ロボットが、工場、倉庫、店舗、病院、家庭に入る。
人間のように歩き、人間のように物を持ち、人間のように作業する。
AIが言葉を理解し、視覚で周囲を認識し、身体を動かす。
このビジョンは非常に魅力的だ。
TeslaのOptimusは、自社工場での活用を掲げる。
Figureは、工場や物流向けを狙う。
Agility RoboticsのDigitは、倉庫作業を狙う。
Boston DynamicsのAtlasは、運動性能とAI連携で注目される。
中国ではUnitree、UBTech、Agibot、Fourier、Xiaomiなどが急速に動いている。
では、ヒューマノイドは産業ロボットを置き換えるのか。
答えは、短期的にはノーである。
産業ロボットは、特定作業では圧倒的に強い。
溶接、塗装、高速ピッキング、重量物搬送、パレタイズ、工作機械へのワーク供給。
こうした作業では、人型である必要がない。
むしろ、人型でない方が速く、安く、安定する。
産業ロボットは、固定設置され、剛性が高く、可搬重量が大きく、タクトタイムを最適化できる。
ヒューマノイドは、汎用性は高いが、現時点では高価で、複雑で、稼働時間、保守、安全、速度、精度に課題がある。
つまり、ヒューマノイドは産業ロボットをすぐに置き換えるものではない。
むしろ、最初に入るのは、既存の産業ロボットが苦手な領域である。
人間用に作られた環境。
工程変更が多い現場。
多品種少量生産。
倉庫内の不定形作業。
段ボール、袋、布、ケーブルなど柔らかい物の扱い。
既存設備を大きく改造できない工場。
人手不足だが専用ラインを作るほどではない作業。
夜間の補助作業。
危険・単調な人手作業。
ここにヒューマノイドの可能性がある。
しかし、そこでもFANUCの産業ロボットが不要になるわけではない。
むしろ、ヒューマノイドと産業ロボットが共存する工場になる可能性が高い。
固定作業は産業ロボット。
移動や汎用作業はヒューマノイド。
搬送はAMR。
検査はAIカメラ。
設備制御はPLC。
加工はCNC。
全体最適はMESやAIエージェント。
この複合システムの中で、FANUCは重要な役割を持つ。
14|FANUCはヒューマノイドを作るべきか
では、FANUCは自社でヒューマノイドを作るべきなのか。
これは非常に重要な問いである。
FANUCには、ロボット制御、サーボ、モーター、産業現場、保守網がある。
だから、技術的にはヒューマノイド開発に入れる可能性はある。
しかし、FANUCがすぐにTesla OptimusやFigureのような人型ロボットを前面に出すかというと、慎重に見るべきだ。
理由は三つある。
第一に、FANUCの顧客は製造業である。
顧客が求めるのは、話題性ではなくROIである。
投資回収できるか。
ラインが止まらないか。
品質が上がるか。
人手不足を解決できるか。
この視点から見れば、専用産業ロボットの方が有利な作業は多い。
第二に、ヒューマノイドはまだ不確実性が高い。
二足歩行、人間型の手、全身制御、電池、耐久性、安全、価格、保守、AI学習データ。
解くべき課題が多い。
FANUCのような信頼性を重視する会社にとって、未成熟な製品を急いで出すことはブランドリスクになる。
第三に、FANUCには別の勝ち筋がある。
それは「ヒューマノイドそのもの」ではなく、「フィジカルAI対応の産業ロボット基盤」を握ることである。
FANUCはすでにGoogleやNVIDIAと連携し、Physical AI Robot Systemを発表している。
ROS、Python、高速外部制御、PLC連携、デジタルツイン、模倣学習、Jetson Thor。
これらは、ヒューマノイドに近い技術領域である。
FANUCは、いきなり人型ロボットメーカーになる必要はない。
むしろ、既存の産業ロボットをAIで柔軟化し、協働ロボット、双腕ロボット、移動ロボット、デジタルツイン、AIエージェントと組み合わせる方が現実的である。
工場で本当に求められるのは、「人型であること」ではない。
「作業ができること」である。
FANUCは、そこを取りに行く会社だ。
15|ヒューマノイド時代の本命は“人型”ではなく“汎用作業”である
ヒューマノイドロボットの議論では、どうしても「人型」に目が行く。
二足歩行。
人間のような手。
人間のような動き。
人間のような外見。
しかし、産業現場で本当に重要なのは、人型であることではない。
汎用作業ができることである。
工場や倉庫には、人間向けに作られた作業が大量に残っている。
箱を開ける。
部品を取り出す。
検査する。
棚から取る。
治具に置く。
台車を押す。
機械のボタンを押す。
ケーブルを扱う。
袋を扱う。
布を扱う。
段ボールを扱う。
小ロット品を組み立てる。
ラインの隙間作業をする。
これらは、専用自動化しにくい。
作業が変わる。
対象物が変わる。
環境が変わる。
数量が少ない。
投資回収が難しい。
だから人間が残っている。
ヒューマノイドは、ここを狙う。
しかし、同じ領域を狙う方法は人型だけではない。
協働ロボットでもよい。
双腕ロボットでもよい。
移動台車にロボットアームを載せてもよい。
AIカメラとロボットアームでもよい。
AMRと固定ロボットの組み合わせでもよい。
つまり、ヒューマノイド時代の本質は「人型ロボットの勝利」ではない。
「柔軟なフィジカルAI作業の実用化」である。
この視点で見ると、FANUCの戦略は合理的である。
FANUCは、いきなり人型ロボット競争に正面から入らず、既存の産業ロボットをフィジカルAI化している。
自然言語指示、物体認識、ROS、Python、デジタルツイン、模倣学習、エッジAI。
これにより、産業ロボットの適用範囲を広げようとしている。
ヒューマノイドが得意な領域を、必ずしも人型でなくても取りに行ける。
これがFANUCの現実的な戦い方である。
16|FANUCとヒューマノイドの関係――競合ではなく補完
FANUCとヒューマノイド企業の関係は、単純な競合ではない。
一部では競合する。
人手作業の自動化市場では、協働ロボット、双腕ロボット、ヒューマノイドが競合する可能性がある。
例えば、箱の移動、機械への部品投入、検査、棚入れ、簡易組立などは重なる。
しかし、多くの場合は補完関係になる。
固定作業はFANUCの産業ロボット。
移動作業はAMRやヒューマノイド。
高精度加工はCNC。
柔軟物作業はAIロボット。
人間との協働はCRX。
ライン全体の最適化はデジタルツイン。
安全監視はAIカメラ。
工程管理はMES。
こうした複合工場では、FANUCのロボットとヒューマノイドが同じ現場で働く可能性がある。
例えば、未来の工場を想像してみる。
FANUCの黄色いロボットが、工作機械へ金属部品を供給する。
別のFANUCロボットが、加工後の部品を取り出す。
NVIDIA Isaac Sim上のデジタルツインが、ロボットセルの動作を事前検証する。
Google系AIエージェントが、工程変更を自然言語で受け取り、作業候補を生成する。
AMRが部品を搬送する。
ヒューマノイドが、人間用に残された工程で段取り替えや補助作業を行う。
FANUCのサービスシステムが、故障予兆を検知する。
CNCが高精度加工を続ける。
この工場では、ヒューマノイドは主役の一つだが、すべてではない。
FANUCは、工場全体の自動化基盤として重要な役割を担う。
だから、FANUCの戦略は「ヒューマノイドに勝つ」ではなく、「ヒューマノイド時代の工場自動化全体で不可欠な存在になる」ことだと言える。
17|FANUCの本質――黄色いロボットではなく「工場OS」である
FANUCとは何者か。
単なる黄色いロボットメーカーではない。
CNCから始まった、工場自動化の制御企業である。
サーボ、CNC、ロボット、ロボマシン、サービスを一体化した、世界最大級のFA企業である。
2023年にロボット累計出荷100万台へ到達した、産業ロボットの巨人である。
2026年3月期には売上8,578億円、営業利益率21.4%を実現した、高収益な製造装置企業である。
そして今、Google、NVIDIAと連携し、フィジカルAI時代へ進もうとしている会社である。
産業ロボット業界は大きく変わっている。
中国が世界最大市場となり、中国ローカルメーカーが台頭している。
ABBはSoftBankのAIロボティクス戦略に組み込まれようとしている。
KUKAは中国Midea傘下で動く。
安川電機は精密制御とAIロボットへ進む。
Tesla、Figure、Agility、Unitree、UBTech、Agibotなどがヒューマノイド市場を盛り上げている。
この中でFANUCはどう戦うのか。
おそらく、FANUCはヒューマノイドブームに単純に乗る会社ではない。
人型ロボットそのものを急いで出すより、既存の産業ロボットをAI化し、工場で本当に使えるフィジカルAI基盤を作る方向に進むだろう。
自然言語で指示できるロボット。
AIが物体を認識するロボット。
シミュレーションで事前学習するロボット。
模倣学習で柔軟物を扱うロボット。
人の近くで安全に働く協働ロボット。
デジタルツインで立ち上げ期間を短縮するロボット。
壊れる前に知らせるロボット。
世界中で保守できるロボット。
これがFANUCの進む道である。
ヒューマノイド時代とは、すべてのロボットが人型になる時代ではない。
AIが現実世界を動かす時代である。
その時、必要になるのは、信頼できる身体、正確な制御、安全な動作、現場での保守、工場全体との接続である。
FANUCは、その多くをすでに持っている。
だから、黄色いマシンは終わらない。
むしろ、AI時代に再定義される。
FANUCは、ロボットの会社である前に、工場を動かす会社である。
黄色いロボットは、その象徴にすぎない。
産業ロボットの次に来るのは、フィジカルAIである。
ヒューマノイドは、その一つの形である。
しかし、工場の現実を動かすのは、派手な人型だけではない。
工場の頭脳。
工場の神経。
工場の腕。
工場の保守。
工場のデータ。
工場のAI。
そのすべてをつなぐ存在として、FANUCは次の時代も世界の製造現場に居続ける。
黄色いマシンは、これからも世界の工場を動かす。
ただし、次の黄色いマシンは、AIを理解し、シミュレーションで学び、人間の言葉を受け取り、現実の物体を扱う。
FANUCの未来は、ヒューマノイドに置き換えられる未来ではない。
ヒューマノイドを含むすべてのフィジカルAIが働く工場で、不可欠な基盤になる未来である。
第4部 フィジカルAI戦略と技術基盤
18|FANUCのフィジカルAI戦略――Google Geminiがロボットを操る
2026年、FANUCはGoogleとの協業で、Physical AI Robot Systemを発表した。
ポイントは、GoogleのGemini Enterpriseを使ったAIエージェントが、人間の自然言語指示を理解し、対象物を認識し、FANUCロボットを自律的に動かすというものだ。
これは、従来の産業ロボットとは大きく違う。
従来の産業ロボットは、専門家が教示する。
ティーチペンダントで動作を教える。
プログラムを書く。
座標を調整する。
安全領域を設定する。
工程ごとに作り込む。
一方、フィジカルAIの方向性は、人間が自然言語で指示し、AIがタスクを理解し、ロボットの動作へ変換する世界である。
もちろん、現場で完全に自由な自然言語制御がすぐに使えるわけではない。
安全性、信頼性、再現性、責任分界の問題がある。
しかし、方向性は明確である。
ロボットの使い方は、プログラミングから指示へ変わる。
専門家だけが使える機械から、現場作業者も扱える機械へ変わる。
固定作業から、より柔軟な作業へ変わる。
FANUCはこの流れに乗ろうとしている。
Googleとの連携で重要なのは、FANUCロボットがROS、Python、高速通信インターフェース、PLC連携などのオープンプラットフォーム対応を進めていることだ。
これは、FANUCが閉じた制御の会社から、AI開発者や外部プラットフォームと接続できる会社へ変わりつつあることを意味する。
さらに、FANUCはGoogle DeepMindのGemini Robotics Trusted Tester Programにも参加している。
これは、ロボット基盤モデルの研究開発において、FANUCが実機ロボットと産業現場の側から関わることを意味する。
AI企業にとって、最大の課題は現実世界のデータと実機検証である。
FANUCには、実機ロボットと工場現場がある。
ここにGoogleのAIが乗る。
この組み合わせは、ヒューマノイド時代にも重要である。
19|NVIDIAとの連携――デジタルツイン、模倣学習、Jetson Thor
FANUCは、NVIDIAとの連携も強化している。
ここで重要なキーワードは三つある。
デジタルツイン。
模倣学習。
エッジAI。
まず、デジタルツインである。
FANUCは、自社のロボットシミュレーションソフトROBOGUIDEと、NVIDIA Isaac Simの連携を強化している。
ROBOGUIDEで作成したロボット動作をIsaac Simに取り込み、実機と同じ制御アルゴリズム、同じ軌跡、同じサイクルタイムで仮想空間に再現する。
これは非常に重要である。
ロボット導入では、現場での立ち上げに時間がかかる。
部品を用意し、治具を作り、ロボットを設置し、プログラムを作り、干渉を確認し、サイクルタイムを詰める。
この作業は熟練エンジニアに依存しやすい。
デジタルツインが進めば、導入前に仮想空間で工程検証できる。
ロボットの軌道、干渉、サイクルタイム、センサー配置、ばら積み部品の動きまで検証できる。
現場立ち上げの期間を短縮できる。
次に、模倣学習である。
FANUCはNVIDIA Isaac GR00T Nを用いて、2台のCRX協働ロボットがTシャツを畳むデモを披露すると発表した。
Tシャツのような柔らかい物は、従来の産業ロボットが苦手とする対象である。
形が変わる。
毎回状態が違う。
掴む場所も変わる。
プレイバックティーチだけでは対応しにくい。
そこで、人間が作業する様子から学ぶ模倣学習が使われる。
ロボットがカメラで対象を見ながら、学習した動作をリアルタイムで生成する。
FANUCのモーション制御とNVIDIAのロボット基盤モデルを組み合わせることで、柔軟物への対応を目指す。
これは、ヒューマノイド時代の核心に近い。
ヒューマノイドが期待される理由は、柔軟で不定形な作業ができる可能性があるからだ。
しかし、それは必ずしも人型でなければならないわけではない。
FANUCの双腕協働ロボットでも、AIと模倣学習を組み合わせれば、従来苦手だった作業に近づける。
最後に、エッジAIである。
FANUCはNVIDIA Jetson Thorプラットフォームの採用も発表した。
AI演算性能を高め、人にぶつからないAIロボットなど、現場でリアルタイムに判断するシステムを強化する。
フィジカルAIでは、クラウドだけでは不十分である。
ロボットは現場で動く。
安全判断はミリ秒単位で必要になる。
ネットワーク遅延やクラウド障害に依存できない場面もある。
だから、ロボット側、または工場内エッジ側でAI処理を行う必要がある。
FANUCとNVIDIAの連携は、まさにここを狙っている。
20|FANUC Open Platform――閉じた巨人から、開いたロボット基盤へ
FANUCは伝統的に、堅牢で閉じた産業機械のイメージが強い。
これは悪い意味ではない。
産業現場では、閉じていることが安全性や安定性につながる。
誰でも勝手に触れるシステムでは危険である。
工場では、信頼性が最優先である。
しかし、AI時代には閉じすぎていることが弱点になる。
AI開発者はPythonを使う。
ロボット研究者はROSを使う。
シミュレーションではIsaac Sim、Omniverse、MuJoCo、Gazeboなどを使う。
AIモデルはクラウドやGPUとつながる。
現場データはMLOpsやデータ基盤とつながる。
工場システムはMES、ERP、PLM、SCADAとつながる。
この世界では、ロボットが外部とつながる必要がある。
FANUCは、ROS 2ドライバ、Python実行、高速外部制御、OpenUSD SimReady資産など、オープンプラットフォーム対応を進めている。
これは非常に大きな変化である。
FANUCが完全にオープンなAIスタートアップになるわけではない。
しかし、産業用の信頼性を保ちながら、AI開発者が接続できる入口を作っている。
これは、ヒューマノイド時代にも重要である。
今後のロボットは、単体製品ではなく、AIエコシステムの中で動く。
基盤モデル、シミュレーション、データ収集、遠隔操作、模倣学習、強化学習、安全監視、クラウド更新、現場フィードバック。
これらがつながる必要がある。
FANUCがOpen Platformを進める意味は、黄色いロボットをAIエコシステムに接続することにある。
FANUC Open Platformの技術的な意味をもう少し具体的に言えば、同社はROS 2ドライバを公開し、ロボットコントローラ上でPythonを実行できる方向へ進めている。さらに、高速外部指令入力によって、外部AIからロボットへより細かく、より速く指示を渡す道を開いている。公式説明では、CRXシリーズから可搬3kg級、小型ロボット、さらに2.3トン級の大型ロボットまで、幅広いFANUCロボットにAI技術を組み合わせることを狙っている。
これは、FANUCが「ロボットを閉じた箱として売る会社」から、「AI開発者が産業用ロボットを使えるようにする基盤企業」へ変わり始めたことを意味する。
閉じた信頼性と、開いたAI連携。
この両立が、FANUCの次の勝ち筋である。
21|NVIDIA GTC 2026――4強がフィジカルAI基盤へ接続し始めた
2026年3月のNVIDIA GTC 2026は、産業用ロボット業界にとって象徴的な場になった。
FANUC、ABB Robotics、安川電機、KUKA。
産業用ロボット4強が、NVIDIAのフィジカルAI基盤に接続し始めたのである。
NVIDIAによれば、この四社が世界で動かす産業用ロボットは、合計で200万台を大きく超える。
各社は、NVIDIA Isaac/Omniverseを自社の立ち上げ・シミュレーションツールに統合し、Jetson/IGX Thorといったエッジ計算基盤をロボットに取り込もうとしている。
FANUCの動きは、この中でも具体的である。
FANUCは、自社のシミュレーションソフトROBOGUIDEとNVIDIA Isaac Simの連携を強化し、実機と同じ制御アルゴリズムで仮想空間を再現する。
さらに、2台のCRX協働ロボットがNVIDIA Isaac GR00T Nを使ってTシャツを畳む模倣学習デモを披露した。
人にぶつからないAIロボットは、最新のJetson Thorへ更新され、AI演算性能は従来のJetson AGX Orin比で7.5倍以上に高まったとされる。
加えてFANUCは、GoogleのGemini Enterpriseを使ったAIエージェントがロボットを操るPhysical AI Robot Systemも進めている。
頭脳はGoogleとNVIDIA、体はFANUC。
この分業が、黄色いマシンをAI時代へ橋渡しする。
なお、産業用ロボットを見るときは、導入台数だけでなく「ロボット密度」も重要な指標になる。製造業従事者1万人あたりの台数で見る指標である。IFRによれば、韓国が1万人あたり1220台で世界最高、シンガポール818台、ドイツ449台と続く。地域別では西欧267台、北米204台、アジア131台であり、製造現場の自動化密度はなお拡大している。ロボットを作る国であることと、ロボットを使いこなす国であることは、別の競争である。
第5部 強み・弱み・競争
22|FANUCの強さ① CNCという“工場の頭脳”を握る
FANUCの第一の強さは、CNCである。
CNCは、コンピュータ数値制御である。
工作機械の軸を動かし、工具を制御し、金属や樹脂を加工する。
製造業の中核にある技術だ。
ロボットアームは目立つ。
しかし、工場の中で精密部品を生み出しているのは、CNC工作機械であることが多い。
自動車部品、航空機部品、スマートフォン部品、半導体装置部品、金型、医療機器部品。
これらは高精度な工作機械で作られる。
FANUCはこのCNCの世界で強い。
CNCで培った制御技術は、ロボットにもつながる。
軸を動かす。
速度を制御する。
位置を制御する。
加速度を制御する。
振動を抑える。
サイクルタイムを短縮する。
故障を予測する。
これらは、ロボットでも工作機械でも本質的に同じ課題である。
FANUCはロボットを「腕」として作っているだけではない。
その腕を動かす制御の中核を持っている。
これが、AI時代にも効いてくる。
AIがロボットに「この部品を取って、この場所へ置け」と指示しても、実際に滑らかに、正確に、安全に動かすには、低レベルの制御が必要である。
LLMだけではロボットは動かない。
画像認識だけでも動かない。
ロボット基盤モデルだけでも現場では不十分である。
現実世界には、摩擦がある。
重力がある。
振動がある。
部品のばらつきがある。
安全規格がある。
設備制約がある。
サイクルタイムがある。
タクトタイムがある。
故障リスクがある。
AIの判断を、現実の動作に変換する制御技術が必要になる。
FANUCは、その制御技術を何十年も磨いてきた会社である。
23|FANUCの強さ② サーボとモーション制御
第二の強さは、サーボとモーション制御である。
ロボットはモーターで動く。
しかし、ただモーターを回せば良いわけではない。
ロボットの各関節を、どの速度で、どの角度まで、どの加速度で動かすか。
重いワークを持った時にどう補正するか。
高速動作で振動をどう抑えるか。
複数軸をどう同期させるか。
工具やハンドの先端位置をどう正確に保つか。
異常な負荷をどう検知するか。
人間や周辺設備との接触リスクをどう減らすか。
これがサーボ制御である。
FANUCは、NCの時代からサーボを磨いてきた。
1956年にNCとサーボシステムを開発したことが、その出発点である。
産業ロボットは、機械、電気、制御、ソフトウェアの総合技術である。
その中でも、サーボとモーション制御は中核である。
ヒューマノイドロボット時代には、この重要性がさらに増す。
人型ロボットは、二足歩行、バランス、腕、手、腰、首、全身協調制御が必要になる。
これは産業用6軸ロボットよりも難しい。
しかし、工場で本当に必要なのは、必ずしも人間のように歩くことではない。
重要なのは、作業対象を正確に扱うこと、危険なく動くこと、タスクを安定して完了することである。
FANUCがヒューマノイドそのものを作るかどうかは別として、FANUCのサーボと制御思想は、ヒューマノイド時代にも極めて重要である。
特に、工場向けヒューマノイドが普及するには、単に歩けるだけでは不十分だ。
手先作業の精度。
力制御。
視覚との連携。
安全制御。
既存設備との接続。
メンテナンス性。
長時間稼働。
これらが必要になる。
FANUCが直接ヒューマノイドを作らなくても、産業ロボット側からフィジカルAIを取り込み、協働ロボットや双腕ロボット、移動ロボット連携へ広げることで、ヒューマノイド時代の現実的な自動化需要を取ることができる。
24|FANUCの強さ③ ロボット100万台の実績
FANUCは2023年、産業用ロボット累計出荷100万台に到達した。
これは非常に大きな実績である。
1977年に「ROBOT-MODEL 1」の商用生産・出荷を開始してから46年。
自動車、電機、電子部品、金属加工、物流、食品、医薬品など、世界中の工場でFANUCロボットが使われてきた。
ロボットの種類も広い。
小型ロボット。
中型ロボット。
大型ロボット。
アーク溶接用ロボット。
スポット溶接用ロボット。
マシンテンディング用ロボット。
ハンドリングロボット。
パレタイズロボット。
SCARAロボット。
デルタロボット。
協働ロボット。
塗装ロボット。
2.3トン可搬の超大型ロボット。
FANUCは、ロボットのラインアップが非常に広い。
小さな部品を高速に扱うロボットから、自動車ボディや大型構造物を扱うロボットまで持つ。
ここがヒューマノイド企業との違いである。
多くのヒューマノイド企業は、まだ量産実績が乏しい。
デモ映像は魅力的だが、工場で何年も連続稼働し、サービス網で支えられているわけではない。
ソフトウェアは進化していても、現場導入、保守、安全、故障対応、部品供給、責任分界の問題が残る。
FANUCは、逆である。
派手な人型デモではなく、実際の工場で100万台規模の稼働実績がある。
この差は大きい。
ヒューマノイドロボットが産業現場に入る時代になっても、顧客は最終的にこう問う。
本当に動くのか。
何時間動くのか。
故障率はどうか。
壊れたら誰が直すのか。
安全規格はどうか。
既存ラインとつながるのか。
投資回収できるのか。
現場の作業員が使えるのか。
FANUCは、この問いに答えるための経験を持っている。
これは、AIスタートアップにはない資産である。
25|FANUCの強さ④ サービスファーストと生涯保守
FANUCを語るうえで、サービスは非常に重要である。
同社は「Service First」を掲げ、世界100カ国以上、数百カ所規模のサービス拠点で顧客を支えている。
FANUC製品を顧客が使い続ける限り、保守を続けるという方針も示している。
産業機械ビジネスでは、売って終わりではない。
むしろ売ってからが始まりである。
工場設備は、顧客の生産ラインに深く組み込まれる。
一度導入されると、長期間使われる。
故障時には即時対応が求められる。
保守部品の供給、技術者の派遣、遠隔サポート、予防保全、教育が必要になる。
このサービス網は、参入障壁になる。
新興ロボット企業は、良いデモ機を作れるかもしれない。
しかし、世界中の工場を24時間支えるサービス網を作るのは難しい。
顧客はロボットの性能だけでなく、導入後の安心を買う。
FANUCの「黄色いマシン」が強いのは、機械そのものだけでなく、後ろに巨大な保守体制があるからだ。
これはヒューマノイド時代にも決定的に重要になる。
人型ロボットは、より複雑な機械である。
関節数が多い。
センサーが多い。
AIソフトウェアが絡む。
安全リスクも高い。
現場での調整も多い。
つまり、保守がさらに重要になる。
ヒューマノイドロボットが工場に入れば、単に売るだけでは済まない。
現場で動かし、学習し、更新し、修理し、再教育し、安全を担保する必要がある。
FANUCが直接ヒューマノイドを作らないとしても、FANUCのサービス網と現場対応力は、フィジカルAI時代の大きな武器になる。
26|FANUCの強さ⑤ 自社工場を自動化する会社
FANUCのもう一つの特徴は、自社工場を高度に自動化していることだ。
ロボットメーカーが、自社工場でロボットを使う。
CNCメーカーが、自社工場でCNCを使う。
サーボメーカーが、自社工場でサーボを使う。
これは単なる宣伝ではない。
自社製品を自社工場で使うことで、改善点が見える。
故障が分かる。
現場の使いにくさが分かる。
生産性の効果が分かる。
そして、それを次の製品に反映できる。
FANUCの本社地区には、多くの工場があり、CNC、サーボアンプ、サーボモーター、ロボット、ロボショット、ロボカットなどの組立工場が集まっている。
そこでは工場自動化とロボット化が進められている。
2002年には、720時間連続無人運転を可能にするロボットセルを実用化している。
720時間とは30日である。
つまり、1カ月連続で無人運転できるセルを実用化したということだ。
この「自社工場で使い込む」姿勢が、FANUCの信頼性を支えている。
AI時代にも同じことが重要になる。
フィジカルAIは、机上のアルゴリズムだけでは完成しない。
現場で試し、失敗し、改善し、データを取り、シミュレーションに戻し、また現場に出す必要がある。
FANUCは、現実の工場とロボットを持っている。
これは、AI企業にはない強みである。
AI企業は頭脳を持つ。
FANUCは身体と現場を持つ。
ヒューマノイド時代には、この両者の結合が重要になる。
27|FANUCのリスク① 中国ローカルメーカーの台頭
FANUCの最大リスクは、中国ローカルメーカーの台頭である。
中国市場は巨大だ。
しかし、競争も激しい。
中国メーカーは、価格が安い。
現地対応が速い。
政府支援を受けやすい。
中国EV・電池メーカーとの距離が近い。
若いエンジニアが多く、AI・ソフトウェアにも積極的である。
標準的なロボット用途では、価格差が大きな武器になる。
FANUCが高品質でも、顧客が価格を重視すれば、中国ローカル勢が勝つ場面は増える。
特に中国国内では、国産化志向も強い。
工作機械、ロボット、半導体装置、EV部品、AIチップ。
あらゆる分野で国産化が進む。
FANUCは、中国市場で売りながら、中国メーカーに追い上げられる構図にある。
これは日本企業全体に共通する課題でもある。
かつて日本企業は、高品質で中国市場を攻略した。
しかし、中国企業は品質を上げ、価格を下げ、スピードを上げてくる。
日本企業が過去の成功モデルに留まれば、徐々にシェアを奪われる。
FANUCが中国で勝ち続けるには、単なる高品質だけでは足りない。
AI対応。
立ち上げ期間短縮。
デジタルツイン。
保守。
グローバル対応。
安全性。
高難度用途。
CNCとの連携。
日本・米国・欧州企業のグローバル工場への横展開。
こうした価値を提供する必要がある。
中国ローカル勢と同じ土俵で安売りするのではなく、より高度な自動化、より止まらないライン、よりグローバルな品質保証で勝つ。
これがFANUCの戦い方である。
28|FANUCのリスク② ヒューマノイド企業に“話題”を奪われる
第二のリスクは、ヒューマノイド企業に話題を奪われることである。
FANUCの黄色いロボットは、工場では圧倒的な存在感がある。
しかし、一般向けの話題性では、ヒューマノイドの方が強い。
人型ロボットが歩く。
荷物を運ぶ。
料理をする。
工場で作業する。
人間と会話する。
こうした映像はSNSで拡散されやすい。
投資家も注目する。
若いエンジニアも惹かれる。
メディアも取り上げる。
一方、FANUCのロボットは、工場の中で地味に働く。
派手なデモより、止まらないことが価値である。
これはB2Bでは強いが、世間の期待値形成では不利になる可能性がある。
しかし、ここでFANUCが無理にヒューマノイド競争に合わせる必要はない。
むしろ、FANUCは「現場で本当に使えるフィジカルAI」というポジションを取るべきである。
ヒューマノイドのデモは面白い。
しかし、工場で1日20時間、年間300日、安定して働けるか。
保守できるか。
安全に動くか。
投資回収できるか。
ここにFANUCの強みがある。
FANUCは、話題性ではなく実装力で戦う会社である。
ただし、広報戦略は重要になる。
AI時代には、優秀なエンジニアを採用するにも、投資家の期待を得るにも、社会にビジョンを示す必要がある。
FANUCは、これまで以上に「黄色いマシンがAI時代にどう進化するのか」を発信する必要がある。
29|FANUCのリスク③ ソフトウェア企業との主導権争い
第三のリスクは、ソフトウェア企業との主導権争いである。
フィジカルAI時代には、ロボットの価値の一部がソフトウェア側に移る。
AIモデル。
ロボット基盤モデル。
シミュレーション。
クラウド。
データ基盤。
自然言語インターフェース。
マルチロボット制御。
自律計画。
安全AI。
遠隔操作。
ロボットアプリストア。
これらを握る企業が、ロボットの主導権を持つ可能性がある。
Google、NVIDIA、Microsoft、OpenAI、Tesla、中国AI企業。
こうした企業は、ソフトウェアと計算資源で圧倒的に強い。
もしロボットがスマートフォンのようになれば、ハードウェアメーカーは下請け化する可能性がある。
OSを握る会社が価値を取り、ロボットメーカーは部品提供者になる。
これはFANUCにとって大きなリスクである。
だからこそ、FANUCは自社の強みを守る必要がある。
ロボット制御。
安全。
現場実装。
保守。
CNC連携。
工場顧客との関係。
実機データ。
産業用途のノウハウ。
AI企業にすべてを渡すのではなく、FANUCのロボット基盤の上でAIを動かす形にする。
GoogleやNVIDIAと連携しながらも、現場の主導権を失わない。
これが重要である。
FANUC Open Platformは、開くための戦略であると同時に、FANUCのロボット基盤をAI時代の標準にするための戦略でもある。
30|FANUCのリスク④ 中小企業への導入壁
第四のリスクは、中小企業への導入壁である。
大企業の自動車工場や電子部品工場では、ロボット導入の専門チームがいる。
システムインテグレーターも入る。
投資額も大きい。
ROI計算もできる。
しかし、中小企業ではそうはいかない。
ロボットを入れたいが、何から始めればよいか分からない。
作業が毎日少しずつ違う。
ロボット担当者がいない。
投資回収が見えない。
保守が不安。
安全対策が分からない。
プログラムを作れる人がいない。
この壁を下げなければ、産業ロボット市場の裾野は広がらない。
ヒューマノイドが期待される理由の一つもここにある。
人間用の環境で、人間に近い形で作業できれば、専用ラインを作らなくても自動化できるのではないか。
この期待である。
FANUCが中小企業市場を広げるには、ロボットを「簡単に使える機械」に近づける必要がある。
協働ロボット。
標準アプリ。
簡単教示。
自然言語指示。
デジタルツイン。
AIによる動作生成。
低コストセル。
導入パッケージ。
レンタルやサブスク。
地域SIerとの連携。
この方向に進めば、FANUCは中小企業の人手不足解決にも深く入り込める。
日本では特に、この需要は大きい。
町工場、食品工場、部品加工、物流倉庫、医療機器、農業関連、地域製造業。
ロボット導入の裾野はまだ広い。
FANUCが日本の中小製造業を救う存在になるかどうかも、今後の重要テーマである。
第6部 未来戦略と最新展開
31|FANUCの未来戦略① 既存産業ロボットのAI化
FANUCの未来戦略の第一は、既存産業ロボットのAI化である。
これは最も現実的で、最も収益化しやすい。
FANUCにはすでに膨大なロボットラインアップがある。
小型から大型まで、溶接、搬送、組立、塗装、パレタイズ、加工機連携まで対応している。
これらをAIでより使いやすく、より柔軟に、より短期間で立ち上げられるようにする。
具体的には、次の方向である。
一つ目は、ロボット導入の簡易化。
AIエージェントや自然言語指示によって、専門家でなくてもロボット作業を設計しやすくする。
二つ目は、シミュレーションによる立ち上げ短縮。
ROBOGUIDEとIsaac Simの連携により、現場導入前に仮想工場で検証する。
三つ目は、ばら積み、柔軟物、不定形物への対応。
従来ロボットが苦手だった対象を、AI視覚、物理シミュレーション、模倣学習で扱えるようにする。
四つ目は、協働ロボットの高度化。
人の近くで安全に動き、人の腕を避け、作業者と同じセルで働くロボットを進化させる。
五つ目は、保守・予防保全のAI化。
壊れる前に知らせる。
異常を検知する。
稼働率を高める。
サービスをデータ化する。
この戦略は、FANUCらしい。
ヒューマノイドという新市場を追いかけるのではなく、既存顧客の困りごとをAIで解決する。
現場にあるFANUCロボットを、AI時代にアップグレードする。
これは最も強い戦い方である。
32|FANUCの未来戦略② デジタルツインを工場導入の標準にする
第二の未来戦略は、デジタルツインである。
ロボット導入の大きな課題は、立ち上げ工数である。
ロボットは買えばすぐ動くわけではない。
工程設計が必要である。
周辺設備が必要である。
ハンドが必要である。
治具が必要である。
安全柵やセンサーが必要である。
プログラムが必要である。
現場調整が必要である。
ここに時間とコストがかかる。
多品種少量生産の時代には、この立ち上げコストが自動化の壁になる。
大規模量産なら専用ラインを作れる。
しかし、中小工場や変種変量生産では、ロボット導入のハードルが高い。
デジタルツインは、この壁を下げる。
仮想空間で工程を作る。
ロボットを配置する。
部品を置く。
動作を作る。
干渉を確認する。
サイクルタイムを計算する。
AI学習データを生成する。
現場導入前に問題を潰す。
FANUCがNVIDIA Isaac SimとROBOGUIDEを連携させる意味はここにある。
今後、ロボット導入は「現場で試行錯誤」から「仮想空間で検証してから現場へ」へ移っていく。
これは、製造業にとって大きな変化である。
さらに、ヒューマノイド時代にはデジタルツインが必須になる。
人型ロボットは、現場でいきなり学習させるには危険である。
転倒する。
人にぶつかる。
設備を壊す。
部品を落とす。
学習に時間がかかる。
だから、シミュレーションで学習し、現実に転移する必要がある。
このSim-to-Realの基盤が、フィジカルAIの中核になる。
FANUCは、産業ロボットのデジタルツインから始めて、将来的にはヒューマノイドや移動ロボットを含む工場全体の仮想検証へ広げられる。
33|FANUCの未来戦略③ 米国・中国・日本の三極対応
FANUCの未来戦略を考える上で、地域戦略も重要である。
世界の製造業は、米国、中国、日本、欧州、インド、東南アジアに再編されている。
特に重要なのは、米国、中国、日本である。
中国は最大市場である。
導入台数が圧倒的に多い。
EV、電池、電子、一般産業、自動化需要が強い。
しかし、中国ローカルメーカーとの競争が激しい。
FANUCはここで、価格だけでなく高信頼・高精度・サービス・AI対応で戦う必要がある。
米国は、再工業化市場である。
米中対立、サプライチェーン再構築、労働力不足、半導体・EV・電池・航空宇宙・防衛・データセンター関連製造が伸びる。
FANUCは米国でのロボット生産能力拡大を視野に入れた投資を進めている。
これは、地政学リスクと顧客要求に対応する動きである。
日本は、FANUCの本拠地であり、技術開発と高信頼生産の拠点である。
日本の製造業は人手不足、高齢化、技能継承問題を抱えている。
中小企業の自動化、食品、物流、医療機器、半導体装置、工作機械、ロボット部品などで需要がある。
FANUCは日本市場で、単なる大企業向けロボットではなく、中堅・中小製造業の省人化にも対応していく必要がある。
この三極に加えて、インドと東南アジアも重要になる。
インドは、製造業育成と人口規模の両面で今後の成長市場である。
東南アジアは、中国からの生産移管先として重要である。
FANUCはグローバルサービス網を持つため、多国籍企業の工場移転にも対応しやすい。
今後のFANUCは、世界市場を単純に一つの市場として見るのではなく、地域ごとに異なる戦略を取る必要がある。
中国では高性能・高信頼でローカル勢と戦う。
米国では再工業化とAI自動化需要を取る。
日本では人手不足と技能継承を支える。
インド・東南アジアでは新興製造業の自動化を支える。
この地域戦略が、FANUCの未来を左右する。
34|FANUCの未来戦略④ 人手不足市場を取る
日本、米国、欧州、韓国、中国。
多くの国で人手不足が深刻化している。
特に製造業では、若い人材が工場作業を避ける傾向が強い。
熟練技能者は高齢化する。
夜勤や重労働、危険作業を担う人材が減る。
賃金は上がる。
品質要求は高まる。
この環境では、ロボット需要は構造的に増える。
ただし、従来の産業ロボットは導入が難しかった。
大規模工場なら導入できる。
しかし、中小工場では、ロボットシステムの設計、導入、保守、教育の負担が大きい。
ここが市場拡大の壁だった。
FANUCの未来戦略は、この壁を下げることにある。
協働ロボットCRXシリーズ。
簡単プログラミング。
AIによる動作生成。
デジタルツインによる事前検証。
標準セル化。
サービス網。
教育・アカデミー。
予防保全。
これらを組み合わせれば、ロボット導入の難易度を下げられる。
ヒューマノイドも、人手不足の解決策として期待されている。
しかし、FANUCにとっては、必ずしも人型である必要はない。
顧客の人手不足を解決できればよい。
食品工場ならデルタロボットや協働ロボット。
金属加工ならマシンテンディング。
物流ならパレタイズ。
電子部品なら小型ロボット。
重工業なら大型ロボット。
多品種少量ならAI対応ロボット。
人間と同じ空間なら協働ロボット。
つまり、FANUCの人手不足対策は、ヒューマノイド一本ではなく、多様なロボットの組み合わせである。
これが現実的な自動化である。
35|FANUCの未来戦略⑤ サービス収益とデータ収益
FANUCの未来を考える上で、サービス収益も重要である。
ロボットは売って終わりではない。
保守、部品、教育、ソフトウェア、更新、予防保全、遠隔監視、AI診断。
これらが継続的な収益源になる。
今後、ロボットはますますソフトウェア化する。
AIモデルを更新する。
シミュレーションデータを使う。
ロボットの稼働データを分析する。
故障予兆を検知する。
現場改善を提案する。
デジタルツインと実機を同期する。
複数工場の稼働状況を可視化する。
この世界では、ロボットメーカーはハードウェア企業であると同時に、データ企業、ソフトウェア企業、サービス企業になる。
FANUCは、サービス網を持っている。
そこにデータとAIを重ねれば、顧客との関係はさらに深くなる。
ただし、ここには課題もある。
FANUCは伝統的にハードウェアと制御の会社である。
クラウド、AI、ソフトウェアサブスクリプション、データプラットフォームでは、Google、NVIDIA、Microsoft、AWS、中国AI企業、ロボットスタートアップが強い。
だからFANUCは、すべてを自前でやるのではなく、GoogleやNVIDIAと組む。
これは合理的である。
FANUCが握るべきなのは、現場の信頼性、制御、ロボット実機、保守、顧客接点である。
AI基盤やクラウドは、強いパートナーと組めばよい。
この分業が、フィジカルAI時代のFANUCの形になる。
36|米国生産の強化とリショアリング――FANUC America 9,000万ドル投資
2026年、FANUCの「三極対応」は、米国側で具体的な投資となって表れた。
2026年3月24日、米国子会社のFANUC Americaは、ミシガン州に約9,000万ドルを投じ、約84万平方フィート(約7.8万平方メートル)の新拠点を建設すると発表した。完成は2027年後半の予定で、225人の新規雇用を見込む。これにより、2019年以降の米国投資額は累計でおよそ3億ドルに達する。
狙いは、北米での生産・エンジニアリング能力の増強である。
新拠点は、フィジカルAI、バーチャルコミッショニング、デジタルツインといった次世代技術に対応し、北米で高まる自動化需要に応える。FANUC Americaは、ミシガンで40年以上にわたり塗装用ロボットを生産してきた実績があり、その上に積み増す形になる。あわせて、米オーバーンヒルズには、大規模な自動化人材の育成拠点「FANUC Academy」を2026年後半に開設する計画である。
この動きの背景には、米中対立と関税(通商法301条など)を受けたサプライチェーンの現地化、いわゆるリショアリングの流れがある。
「世界最大級だが、どの地域でも現地で作り、現地で支える」という三極対応を、FANUCは言葉だけでなく投資で実行している。
評価も伴っている。FANUCは、産業用ロボットの累計出荷100万台達成で2024年のRBR50ロボティクス・イノベーション・アワードを受賞しており、2026年にも、米国メーカー(Wilson Bohannan)の国内生産拡大を支援した取り組みでRBR50に選ばれている。
派手さよりも、現場での実装と供給体制。FANUCはその一貫した姿勢を、2026年の米国投資でも崩していない。
37|インド市場のサービス強化――FANUC India新サービス棟
2026年のFANUCで見落としてはいけないのが、インドでのサービス体制強化である。
FANUC Indiaは、2026年3月、カルナータカ州バンガロールの本社敷地内に新しいサービス棟を完成させた。発表は2026年5月19日である。新施設には、コールセンター、保守部品倉庫、サービスオフィスが入り、延床面積は約5,000平方メートルとされる。
このニュースは、一見すると地味に見える。
しかし、FANUCを理解する上では非常に重要である。
なぜなら、FANUCの競争力は「ロボットを売ること」だけではなく、「売った後に止めないこと」にあるからだ。
FANUC Indiaは1992年に設立され、CNC、ロボット、ロボマシンの販売・技術支援・サービスをインドで展開してきた。公式発表によれば、インドでの累計設置台数は32万台を超え、サービス拠点は23カ所、修理センターは5カ所。さらに、従業員の40%超にあたる230人以上がサービス専任である。
ここに、FANUCらしさがある。
インドはこれから、製造業の巨大市場になる可能性が高い。
スマートフォン、EV、二輪・四輪、自動車部品、家電、医療機器、航空宇宙、防衛、工作機械、半導体後工程。
「中国+1」の生産移管先としても、インドは重要である。
だが、インド市場で本当に勝つには、ロボット本体を売るだけでは足りない。
停電、環境条件、技能人材、部品供給、現地修理、教育、遠隔サポート。
こうした現場の課題を解決しなければ、ロボットは定着しない。
FANUC Indiaの新サービス棟は、FANUCの未来戦略が「米国・中国・日本」だけではなく、「インドを含む新興製造業圏」へ広がっていることを示している。
ヒューマノイド時代、ロボットの頭脳はAIで高度化する。
しかし、どれだけAIが進んでも、現場で止まったロボットを直すのはサービス網である。
FANUCの強さは、ここにもある。
38|食品産業向けロボット――DR/8-16B Stainlessが示す“人手不足産業”への展開
2026年5月、FANUCは食品産業向けの新しいステンレス製パラレルリンクロボット「DR/8-16B Stainless」を発表した。量産開始は2026年8月予定で、可搬重量は8kg、動作範囲は1,600mmである。
これは、従来の自動車・金属加工・電子部品中心の産業ロボット像から見ると、少し違った意味を持つ。
食品工場は、ロボット化の余地が大きい。
しかし、難易度も高い。
食品は形が不揃いである。
柔らかい。
滑る。
水分がある。
衛生管理が必要である。
洗浄性が求められる。
人手作業が多い。
季節変動も大きい。
多品種少量になりやすい。
つまり、食品工場は「人手不足」と「自動化難易度」が同時に存在する現場である。
FANUCがステンレス製の長リーチ・パラレルリンクロボットを投入する意味は、単なる製品追加ではない。
これは、産業ロボットの市場が、自動車工場の溶接ラインから、食品・日用品・医薬品・物流などの“人手不足産業”へ広がっていることを示している。
ヒューマノイドロボットが注目される理由も、まさにここにある。
既存の産業ロボットでは対応しづらい作業が、食品や物流には多いからだ。
しかし、FANUCの答えは「すべてを人型にする」ではない。
食品に向くなら、食品に向いた形のロボットを出す。
洗浄性が必要ならステンレスにする。
高速ピッキングが必要ならパラレルリンクにする。
動作範囲が必要なら長リーチ化する。
ここに、FANUCの現実主義がある。
FANUCの未来は、ヒューマノイド一色ではない。
現場ごとに最適なロボット形状を選び、そこへAI、ビジョン、デジタルツイン、サービスを重ねる。
この「現場最適のロボット群」こそ、FANUCの戦い方である。
39|中央テクニカルセンターとZEB――顧客体験・実機検証・ESGを一体化する本社戦略
FANUCは2026年4月、山梨県忍野村の本社敷地内にある中央テクニカルセンターの完成を発表した。中央テクニカルセンターは、FANUC本社のゲストエリア刷新の中核であり、実機展示、技術提案、顧客検証を行うための施設である。
この中央テクニカルセンターの意味は、単なるショールームではない。
FANUCの顧客は、ロボットやCNCをカタログだけで買うわけではない。
自社のワークで本当に加工できるか。
タクトタイムは合うか。
精度は出るか。
ロボットとの連携は可能か。
現場に入れた時に問題が出ないか。
こうした点を、実機で確認したい。
中央テクニカルセンターには、常設展示や特別展示を行うArena、実際の機械で性能確認を行うTest Arenaが用意されている。FANUCはここで、単に製品を見せるのではなく、顧客の加工条件や自動化条件に近い形で検証し、導入後を見据えた技術支援を行う。
これは、デジタルツイン時代にも重要である。
仮想空間で検証する。
実機で確認する。
また仮想空間に戻す。
現場導入の前に、問題を潰す。
この往復が、フィジカルAI時代の工場導入では不可欠になる。
さらに、中央テクニカルセンターは、FANUCとして初めてBELSの最高ランクである「ZEB」認証を取得した建物でもある。
ZEBとはNet Zero Energy Buildingのことで、省エネルギーと創エネルギーによって、建物の一次エネルギー収支を大きく改善する考え方である。
FANUCは2026年6月には、CDPのサプライヤー・エンゲージメント評価で最高評価の「Supplier Engagement Leader」にも選定されている。2026年1月には、Clarivate Top 100 Global Innovator 2026にも選ばれ、5年連続の選定となった。
これは、FANUCが単なる産業機械メーカーではなく、知的財産、環境、顧客体験、サービスを含めて、グローバル企業としての評価軸を広げていることを示している。
ヒューマノイド時代のロボット企業は、ハードだけでは評価されない。
AI、知財、安全、環境、サプライチェーン、教育、サービス。
すべてが問われる。
FANUCは、黄色いマシンの会社である。
しかし、その黄色いマシンを支える本社機能、実機検証施設、ESG対応、知財戦略まで含めて、世界の製造業に入り込もうとしている。
40|FANUCは“ロボットのApple”ではなく“工場のToyota”である
FANUCをテック企業に例えるなら、AppleやGoogleではない。
むしろ、工場のToyotaに近い。
派手な広告より、品質。
短期の流行より、長期の信頼。
外見の斬新さより、現場での完成度。
売り切りより、保守と改善。
単体製品より、工程全体。
理想論より、稼働率。
もちろん、FANUCとToyotaは別企業であり、事業も違う。
しかし、製造現場で求められる価値観は近い。
FANUCのロボットは、SNSでバズるために存在しているわけではない。
工場で止まらず働くために存在している。
この価値観は、ヒューマノイド時代にも重要になる。
AIロボットの世界では、派手なデモが先行しがちである。
だが、工場の顧客は冷静である。
どれだけ歩けるかではなく、どれだけ生産に貢献するかを見る。
どれだけ会話できるかではなく、どれだけ安全に作業できるかを見る。
どれだけ未来的かではなく、どれだけ投資回収できるかを見る。
ここでFANUCの強さが出る。
FANUCは、未来を語る会社というより、現場で未来を実装する会社である。
41|FANUCと日本製造業――日本復活の鍵になるか
FANUCは、日本製造業にとって象徴的な会社である。
日本は、半導体、家電、スマートフォン、ITプラットフォームでは苦戦した。
しかし、製造装置、工作機械、産業ロボット、精密部品、素材では今も強い分野がある。
FANUCは、その代表である。
AI時代になると、ソフトウェアだけが注目されがちである。
しかし、現実世界を動かすには、ハードウェアが必要である。
ロボット、工作機械、センサー、モーター、減速機、電源、制御装置、工場設備。
これらがなければ、AIは現実の物を動かせない。
日本がAI時代に再び存在感を出すなら、ソフトウェアだけで米国や中国と正面勝負するのではなく、フィジカルAI、ロボット、製造装置、精密制御、材料、現場改善と組み合わせる必要がある。
FANUCは、その中心になり得る。
もちろん、FANUCだけで日本製造業が復活するわけではない。
AI基盤、半導体、クラウド、データ、スタートアップ、SIer、大学、現場人材、制度改革が必要である。
しかし、FANUCのような企業がAI時代に再定義されることは、日本にとって非常に重要である。
黄色いマシンは、昭和・平成の製造業の象徴だった。
だが、令和のAI時代には、フィジカルAIの実装基盤になる可能性がある。
日本の強みは、現場にある。
FANUCは、その現場を動かす会社である。
第7部 結論
42|最終結論――FANUCはヒューマノイド時代の「工場OS」を取りに行く
最終的に、FANUCをどう見るべきか。
FANUCは、ヒューマノイドロボットの話題に乗り遅れている会社ではない。
むしろ、ヒューマノイド時代の本質を冷静に見ている会社である。
人型ロボットがすべてを置き換えるわけではない。
工場には、固定ロボットが向く作業がある。
協働ロボットが向く作業がある。
AMRが向く搬送がある。
食品向けステンレスロボットが向く工程がある。
CNCとロボットを連携させるべき工程がある。
そして、その上にAI、ビジョン、シミュレーション、デジタルツイン、模倣学習が乗る。
FANUCは、この全体を取りに行こうとしている。
黄色いロボット。
CNC。
サーボ。
ロボマシン。
サービス網。
インドのサービス拠点。
米国の生産能力。
GoogleのGemini Enterprise。
NVIDIA Isaac Sim。
ROS 2とPython。
Jetson Thor。
中央テクニカルセンター。
ZEB認証。
CDP評価。
Clarivateの知財評価。
これらはバラバラのニュースではない。
一つにまとめると、FANUCは「工場をAI時代に再設計する基盤企業」へ進んでいる、ということになる。
ヒューマノイドロボット時代に勝つ会社は、必ずしも一番人間らしいロボットを作る会社ではない。
現場で本当に使えるロボットを、長く、安定して、世界中で支えられる会社である。
FANUCの黄色いマシンは、これまで世界の工場を動かしてきた。
そして次の時代には、AIを受け取り、デジタルツインで検証され、現場で自律的に動くフィジカルAIの実装基盤になっていく。
だから、FANUCの未来戦略はこう表現できる。
ヒューマノイドそのものを追うのではない。
ヒューマノイドを含む、すべての次世代ロボットが働く工場のOSを握りに行く。
黄色いマシンの時代は終わらない。
黄色いマシンは、AI時代の工場OSへ進化する。
参考リンク・出典
FANUC 公式沿革
https://www.fanuc.co.jp/en/profile/history/index.htmlFANUC 公式グローバルサイト
https://www.fanuc.com/FANUC 2026年3月期 決算資料
https://www.fanuc.co.jp/en/ir/announce/pdf/2026/financialresult202603_e.pdfFANUC ロボット累計100万台に関する発表
https://www.fanuc.co.jp/en/profile/pr/newsrelease/2023/notice20230915.htmlFANUC Google連携 Physical AI Robot System
https://www.fanuc.co.jp/en/profile/pr/newsrelease/2026/notice20260513.htmlFANUC NVIDIA連携・Isaac Sim・Jetson Thor関連
https://www.fanuc.co.jp/en/profile/pr/newsrelease/2026/notice20260515.htmlNVIDIA Newsroom:Global Robotics Leaders and Physical AI
https://nvidianews.nvidia.com/news/nvidia-and-global-robotics-leaders-take-physical-ai-to-the-real-worldIFR World Robotics 2025 発表
https://ifr.org/ifr-press-releases/news/global-robot-demand-in-factories-doubles-over-10-yearsFANUC Open Platform/ROS 2 Driver/Python対応
https://www.fanuc.co.jp/en/product/robot/academia/FANUC America 9,000万ドル投資
https://www.fanucamerica.com/press-releases/fanuc-america-announces-90-million-investment-to-create-production-ready-capacity-for-robot-manufacturing-in-the-usFANUC India 新サービス棟
https://www.fanuc.co.jp/en/profile/pr/newsrelease/2026/notice20260519.html食品産業向け DR/8-16B Stainless
https://www.fanuc.co.jp/en/profile/pr/newsrelease/2026/notice20260518.htmlFANUC 中央テクニカルセンター完成
https://www.fanuc.co.jp/en/profile/pr/newsrelease/2026/notice20260422-02.htmlFANUC 本社新棟 ZEB認証
https://www.fanuc.co.jp/en/profile/pr/newsrelease/2026/notice20260422.htmlFANUC CDP Supplier Engagement Leader 2025
https://www.fanuc.co.jp/en/profile/pr/newsrelease/2026/notice20260609.htmlFANUC Clarivate Top 100 Global Innovator 2026
https://www.fanuc.co.jp/en/profile/pr/newsrelease/2026/notice20260122.html
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