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第6回世界の代表10社の「ヒューマノイド供給網(垂直統合・水平分業・量産戦略)」を比較する

Unitree、XPENG、UBTECH、Figure、Apptronik、Agility、Boston Dynamics、1X、AgiBot、Humanoid

📖 本シリーズについて(全6回)

ヒューマノイドロボットの競争は、「AIモデルの賢さ」だけでは決まらない。

実際に価格、性能、稼働率、量産速度を決めるのは、関節、手、センサー、計算機、電池、冷却、配線、安全設計、保守、そして供給網である。本シリーズは、ヒューマノイドを一台の完成品として眺めるのではなく、部品原価(BOM)・技術的トレードオフ・量産工程・供給網の四つの視点から分解する。

全6回の設計図

  • 第1回 動力系――アクチュエータ、モーター、減速機、センサー

  • 第2回 操作・知覚系――ロボットハンド、触覚、視覚、五感

  • 第3回 頭脳・神経・安全系――AI計算機、リアルタイム制御、安全層

  • 第4回 身体・エネルギー・保守系――電池、冷却、骨格、配線、連続稼働

  • 第5回 Tesla Optimus――量産構想とサプライチェーン

  • 第6回 世界の代表10社――垂直統合、水平分業、量産戦略の比較

シリーズ共通のBOM分類

本シリーズでは、回をまたいだ二重計上を避けるため、McKinseyが2026年に示した主要BOM区分を共通の基準として用いる。

  • 動力・アクチュエーション:40〜60%――モーター、減速機、関節機構、統合センサー、ドライバー

  • センシング・知覚:10〜20%――カメラ、深度、LiDAR、レーダー、IMU、力覚、触覚

  • 演算・制御:10〜15%――AI計算機、CPU・GPU・NPU、制御基板、通信、安全制御

  • 構造部品:5〜10%――フレーム、外装、締結、構造部材

  • バッテリーモジュール:5〜10%――セル、パック、BMS、主要電源部品

この五領域で、一般的な機体原価の約85〜90%を構成するという整理である。残りには、冷却、配線ハーネス、コネクター、シール、その他の補機・統合作業などが入る。

ただし、これはすべての機体に共通する固定値ではない。各レンジの上限・下限は異なる設計例を含むため、一台のBOMとして端点を足し合わせてはならない。実機を比較するときは、分類境界を固定して合計100%になるよう再計算する必要がある。

特にロボットハンドは独立した原価区分ではない。ハンド内のモーターと減速機は動力系、触覚と掌カメラはセンシング系、指骨格と外装は構造系、制御基板は演算・制御系へ分けて計上する。

今回は【第6回 世界の代表10社比較】です。Optimus以外の代表的メーカーを、供給網、内製範囲、量産方式、導入実績、情報確度で比較する。

調査・更新注記(2026年7月12日)
企業公式資料、公式発表、一次資料に基づく報道を優先し、将来の生産能力・目標・受注見込みと、実生産・実導入を分離した。完成機メーカーが公式サプライヤー一覧を公開していない場合、候補企業名、単価、数量、採用比率は【外部推定】として扱う。


はじめに

Tesla Optimusのサプライチェーンは、多くの分析が公開されている。

しかし、ヒューマノイドはOptimusだけではない。

中国では、Unitree、XPENG、UBTECHが量産を進めている。米国では、Figure、Apptronik、Agilityが工場実証を重ねている。欧州では、Humanoidが独自の戦略で登場した。

では、これらのメーカーの供給網は、どこまで分かるのか。

結論から言えば、「どこまで分かるか」は、メーカーの戦略によって大きく異なる。

鍵は、垂直統合型か、水平分業型かである。

ただし、垂直統合とは、セル、半導体、ベアリング、素材まで一社で生産することではない。機体設計、アクチュエータ仕様、電池パック、制御、AI、最終組立など、性能と原価を決める境界を自社で握ることを意味する。

水平分業も、単なる丸投げではない。Humanoidのように、製品設計とソフトウェアは自社で握り、アクチュエータはSchaeffler、欧州向け契約製造はBoschと分担する方式がある。

その間に、JabilとGoogle DeepMindを使うApptronik、Hyundai MobisとGoogle DeepMindを使うBoston Dynamics、国内部品調達と自社工場を組み合わせるAgilityなど、多数の中間型が位置する。

本記事では、Optimus以外の主要ヒューマノイド10社について、供給網の「見え方」を比較する。

前記事と同様、Tesla以外の各社も、多くは公式なサプライヤーリストを出していない。

したがって本記事では、各社が公式に発表・実演した「発表ベース」の情報と、証券会社や報道による「報道ベース」の情報を、できるだけ区別して記述する。


3行まとめ

供給網の強さは、内製率の高さではなく、重要技術の主導権、量産パートナー、代替調達、顧客稼働データ、保守網の組み合わせで決まる。

2026年の重要更新は、Agilityの累計6万5000時間、Figureの第三世代350台超、AgiBotの全製品累計1万5000台、Atlasの製品化、1Xの部品内製、HumanoidのSchaeffler・Bosch契約である。ただし、数字の定義は同じではない。

生産能力、ライン通過、完成機、顧客納入、商用稼働を混ぜないことが、10社比較の最重要原則である。


目次

はじめに――なぜこの領域が量産と実用化を左右するのか

3行まとめ――この記事の結論

第1章 大前提――供給網の「見え方」は戦略で決まる

第2章 Unitree G1――分解調査で最も詳しく分かる

第3章 XPENG IRON――EVメーカーの垂直統合

第4章 UBTECH Walker S2――上場企業ゆえの開示

第5章 Figure 03――垂直統合と外部供給網の併用

第6章 Apptronik Apollo 2――パートナー型とデータ工場

第7章 Agility Digit――商用データと安全を握る

第8章 Boston Dynamics Atlas――自動車グループ型の量産供給網

第9章 1X NEO――家庭用と垂直統合工場を結ぶ

第10章 AgiBot――中国の大量出荷とプラットフォーム戦略

第11章 Humanoid(HMND 01)――パートナー主導の水平分業

第12章 横断整理――誰がどの部品を供給するのか

第13章 日本企業から見た視点

まとめ

シリーズ総括

参考リンク

ハッシュタグ


第1章 大前提――供給網の「見え方」は戦略で決まる

1.垂直統合型と水平分業型

ヒューマノイドの供給網を理解する鍵は、二つの型の違いにある。

【垂直統合型】 アクチュエータ、電池、AI、場合によっては製造まで自社で行う。 例:Tesla、Figure、1X、XPENG、Unitree。 利点は、性能とコストを自社で制御できること。 供給網の見え方は、部品レベルでは不透明になりやすい。

【水平分業型】 アクチュエータや製造を外部の既存メーカーへ委託する。 例:Humanoid(Schaeffler+Bosch)。 利点は、開発費を抑え、既存の量産力を使えること。 供給網は、提携が公表されるため最初から見えやすい。

2.なぜ中国勢は供給網が見えやすいのか

中国メーカーの供給網は、比較的よく見える。

理由は二つある。

第一に、中国の証券会社が、産業チェーン調査やティアダウン(分解調査)を詳細に公開している。

第二に、部品サプライヤーの多くが上場しており、ロボット向け売上や顧客を開示している。

そのため、Unitreeのように「どの企業のどの部品を使っているか」まで報じられることが多い。

3.なぜ欧米勢は見えにくいのか

一方、欧米の非上場メーカーは、包括的な部品表や仕入先一覧を公開しないことが多い。

Figureと1Xは、アクチュエータ、電池、電子回路、製造設備などの重要領域を深く内製する。Apptronikは機体とデータ収集基盤を握る一方、量産はJabil、AI研究はGoogle DeepMindと分担する。

Humanoidは、Schaefflerとのアクチュエータ供給契約と、Boschとの契約製造を戦略的に公開している。水平分業であっても、製品設計、KinetIQ、顧客導入まで外部へ委ねているわけではない。

つまり、供給網の透明度は国籍だけでなく、資本構造、契約戦略、内製境界、情報開示方針によって決まる。


4.量産を五段階で読む

各社が使う「量産」「出荷」「導入」は、同じ意味ではない。本稿では、数字を次の五段階へ分ける。

【第1段階 設計能力】 工場やラインが理論上、年間何台を作れるか。Figureの年1万2000台、Agility RoboFabの最大年1万台、1Xの年1万台能力などが該当する。設備能力であり、実生産ではない。

【第2段階 ライン通過・完成】 機体が工場ラインを通過した数。Figureの第三世代350台超、AgiBotの全ポートフォリオ累計1万5000台などが該当する。社内研究機や試験機を含む場合がある。

【第3段階 納入・検収】 外部顧客へ引き渡され、顧客側で受け入れられた数。注文、予約、基本合意とは分ける。

【第4段階 顧客現場での稼働】 工場や物流拠点で実際に仕事をした時間、処理した部品、支援した生産台数。Agilityの累計6万5000時間や、Figure 02のBMW実績がこの段階に近い。

【第5段階 継続商用運用】 再受注、稼働率、介入率、MTBF、MTTR、保守費、顧客ROIが確認できる段階である。2026年時点では、この水準を十分に公開する企業はまだ少ない。

企業比較では、上位の段階にある数字ほど価値が高い。ただし、同じ稼働時間でも作業難度や人間の介入条件が異なるため、完全な横比較にはならない。


第2章 Unitree G1――分解調査で最も詳しく分かる

1.公式仕様と販売条件を分ける

Unitree G1は、Optimus以外で供給網の分解調査が多いヒューマノイドである。

Unitree公式サイトは、構成によって23〜43個の関節モーターを持つこと、力・位置ハイブリッド制御の器用な手を用意することを示している。体重は約35kg級として広く公表されている。

2026年7月時点のUnitree公式ストアには、標準G1について13,500ドルの表示がある。ただし、販売地域、構成、税、輸送、教育版オプションで総額は変わるため、記事では「公式表示価格」と「導入総額」を分けて扱う。

身長127cm/132cmなど表記差もある。脚を伸ばした状態、立位、頭部構成で測定条件が異なるため、単一数字で比較しない。

2.自社統合関節と外部部品

Unitreeは、モーター、減速機、エンコーダ、ドライバーを統合した関節モジュールを自社設計する。中空配線、共通化、軽量なアルミ・樹脂部品が低価格化の鍵である。

【外部推定】 中国の分解調査では、減速機で中大力徳・来福諧波系、モーターで鳴志電器、視覚でOrbbec、ベアリングで長盛軸承などの名前が挙がる。

これらは有力な候補情報だが、Unitreeが全構成・全ロットで公式確認した固定サプライヤー一覧ではない。世代、地域、供給状況で変更され得る。

3.Unitreeが示す教訓

G1の競争力は「ハードウェアが完全にコモディティ化した」ことではない。

低価格部品を組み合わせながら、関節統合、軽量化、制御、学習、保守を一つの製品へまとめる能力にある。

研究・教育市場では価格と開発者生態系が強みになる。一方、重工業、長時間稼働、人との協働安全では、耐久寿命、機能安全、保守網、認証が別の競争軸になる。

4.R1からH2まで――一社で価格帯を広げる

2026年のUnitreeは、G1一機種だけでは評価できない。

公式サイトでは、小型のR1 AIRを4,900ドル、R1を5,900ドルから表示し、研究・教育・開発者市場の入口をさらに下げた。R1は構成により20〜26自由度、重量約27〜29kgである。

一方、フルサイズのH2は29,900ドルからで、身長約182cm、重量約70kg、31自由度、2,070TOPS級の計算基盤を掲げる。

これは、低価格開発機、主力のG1、フルサイズのH2という製品階層を一社で構築する戦略である。ただし、公式表示価格は税・送料を含まず、器用な手、開発版、保守契約などで導入総額は変わる。

Unitreeの供給網戦略は、一機種の大量生産だけではない。共通モーター、関節、制御ソフトウェアを複数の価格帯へ展開し、部品量を増やすことで学習曲線を作ることにある。


第3章 XPENG IRON――EVメーカーの垂直統合

1.公式に確認できる次世代IRON

XPENGは2025年11月のAI DayでNext-Gen IRONを発表した。

公式発表で確認できる主な点は、全身82自由度、片手22自由度、人間サイズの手を実現する小型波動関節、全固体電池の採用、ロボット専用VLTモデル、2026年末までの高水準ヒューマノイド大規模量産目標である。

一方、身長178cm、体重70kg、最大7km/h、可搬20kg、連続4時間といった数値は、公式発表ページで一括確認できないため、量産版の確定仕様として削除した。

2.AI計算能力の読み方

XPENGの公式資料には、IRONの計算性能について表記の不一致がある。

2025年11月のAI Day発表ページは、3枚のTuring AIチップで3,000TOPSと説明した。一方、2026年1月と2月の公式発表は、同じ3枚構成を2,250TOPSとしている。4枚構成のRobotaxiは、2026年5月の公式発表で3,000TOPSである。

したがって本稿では、後発の公式発表に合わせ、IRONの現在の公開仕様を2,250TOPSとして扱う。2025年11月の3,000TOPSは、発表時の表記、計算条件の違い、またはRobotaxi数値との混同の可能性があるが、XPENGが訂正理由を明示していないため断定しない。

TOPSはピーク演算条件に左右され、歩行、操作、視覚、言語処理の実遅延や消費電力を直接示す数字でもない。

2026年6月の公式更新では、ハードウェアとソフトウェアが量産準備段階へ入り、共同統合作業を進め、2026年末の正式量産を目標とした。さらに2027年第1四半期には店舗案内用途への投入を計画している。これらは目標であり、達成済みの出荷実績ではない。

3.全固体電池は「採用発表」と「量産成熟」を分ける

XPENGはIRONへの全固体電池採用を発表した。

ただし、試作機への搭載、量産セルの供給能力、寿命、コスト、安全認証は別の問題である。2026年末の量産目標を達成できるかは、電池だけでなく、小型波動関節、人工筋肉、柔軟皮膚、触覚の歩留まりに左右される。

4.供給網の見え方

XPENGはEVの電動化、E/Eアーキテクチャ、AI、製造設備を共有できる垂直統合型である。

Baosteelとの用途開拓は公式発表されているが、個別部品の仕入先はUnitreeの分解調査ほど明確ではない。量産開始後、どこまで自社製造し、どこを長江デルタの供給網へ委ねるかが焦点になる。


第4章 UBTECH Walker S2――上場企業ゆえの開示

1.工場実証は進むが、導入段階を分けて読む

UBTECH Walker S2は、自動車・電子・物流などの工場用途を狙う中国の代表的な産業用ヒューマノイドである。双眼視、自動バッテリー交換、腰部の大きな可動域などを特徴とし、長時間運用を重視する。

BYD、Geely、FAW-Volkswagen、Dongfeng、Foxconnなどとの実証・協力が公表または報道されている。一方、企業名が並ぶことと、全拠点で商用本稼働していることは同じではない。導入済み、試験購入、概念実証、提携合意を分けて読む必要がある。

Airbusは2026年1月にWalker S2を取得して航空機製造への利用を検討したが、Airbus自身は「非常に初期の概念試験段階」と説明した。航空工場への大規模配備と表現するのは時期尚早である。

2.生産目標と作業効率

UBTECHの2025年年次報告書は、Walker S2シリーズが正式に量産・納入段階へ入ったと説明している。ただし、年次報告書の公開英文から、機種別の監査済み納入台数までは確認できない。

同社幹部はFinancial Timesに対し、2025年の500台納入目標を達成し、2026年に1万台の生産を目指すと説明した。Reutersは、2025年のヒューマノイド受注総額が14億元を超え、2026年の産業用ヒューマノイド生産能力が1万台超になる見通しを報じている。

ここでは、「500台」は経営幹部が説明した納入実績、「14億元」は注文金額、「1万台超」は生産目標または能力であり、同じ指標ではない。7月時点の2026年実生産・実納入台数は確認できない。

同社幹部は、Walker S2の現時点の生産性を人間の30〜50%程度と説明し、2027年に80%を目指すとしている。箱積みや品質検査など特定作業での自己評価であり、全工程へ一般化できないが、現在の実用化水準を知る重要な情報である。

3.部品・AIの供給網

UBTECHはサーボ関節と全身制御を自社の中核技術としてきたが、半導体、センサー、加工、電池などは外部供給網も活用する。Texas Instrumentsとの協力、百度やHuaweiのAI基盤との関係が報じられるが、機種ごとの固定部品表は公開されていない。

上場企業であるため受注や提携の開示は比較的多いが、完成機の台数、部品単価、顧客別の稼働率まで見えるわけではない。

4.2025〜2026年の追加動向

Fangchenggangの中国・ベトナム国境関連施設向け約2.64億元(約3700万ドル)の契約は、2026年夏の新規契約ではなく、2025年11月に報じられた案件である。案内、物流、巡回支援などを想定するが、実配備の範囲と稼働実績は別途確認が必要である。

UBTECHは2026年、産業用Walkerとは別に、消費者・サービス用途の新製品群も拡大している。注文数に関する会社発表は、予約、販売代理店契約、拘束力のある発注が混在する可能性があり、納入・売上計上・継続利用とは区別しなければならない。

産業用Walkerと消費者・サービス用製品は、安全規格、保守網、顧客、供給網が異なる。単一の「UBTECH台数」として合算せず、製品群ごとに生産、納入、稼働を追う必要がある。

第5章 Figure 03――垂直統合と外部供給網の併用

1.「完全内製」ではない

Figure 03は、アクチュエータ、電池、センサー、構造、電子回路を自社設計し、重要モジュールの組立をBotQへ内製する。

一方、個々の部品製造では外部サプライヤーを利用する。したがって「何も外注しない完全内製」ではなく、設計と重要モジュールを握り、部品加工を世界のパートナーへ委ねる垂直統合型である。

2.公式に確認できる量産計画

BotQの第1世代ラインは年最大1万2000台の能力を持つ。

Figureの2025年10月発表では、今後4年間で累計10万台を生産する目標が示された。「2029年に年10万台」ではなく、累計目標である。

さらに供給網は、4年間で10万台または300万個のアクチュエータへ拡大できるよう設計したと説明している。これも目標・能力であり、達成済み実績ではない。

2026年4月の発表では、BotQから第三世代ヒューマノイド350台超を送り出し、1日1台だったサイクルを120日未満で1時間1台へ改善したと説明した。

ただし、1時間1台は量産目標に必要なサイクルタイムを実証したという意味であり、24時間連続で年間8760台を生産した実績ではない。また、BotQから出た350台超は、社内研究、データ収集、家庭作業開発、商用ユースケース開発へ配分されている。すべてが外部顧客へ販売・検収された台数ではない。

同じ発表で、完成機の工程最終初回合格率80%超、バッテリーライン99.3%、500個超のバッテリーパック出荷、10種類超・9,000個超のアクチュエータ生産を報告した。これらはFigure側の社内指標だが、量産比較には台数だけでなく歩留まり、再作業、検査時間、社内配備と顧客出荷の区別が必要であることを示す。

3.Figure 03の公式仕様

F.03バッテリーは2.3kWhで最大性能時5時間、2kW充電に対応する。

Figure 03は足裏コイルによる2kWのワイヤレス充電、UN38.3取得済み、掌カメラ、3グラム相当の力を検出する内製触覚、10Gbpsミリ波データ転送を掲げる。

認証状態は時点を分けて読む必要がある。2025年7月の電池開発発表ではUN38.3とUL 2271を認証プロセス中と説明し、2025年10月のFigure 03発表ではUN38.3取得済みとした。2026年7月時点でUL 2271取得完了を示す公開証明書を確認できないため、本稿では取得済みと断定しない。

2026年6月30日、FigureはBMW Spartanburg工場でFigure 03が部品のシーケンシング作業を行う新プロジェクトを公開した。Helix 02で両手作業と歩行・姿勢変更を同時制御し、重量のある台車を引きながら薄板部品を並べる内容である。これはFigure側の発表であり、長期稼働率や顧客検収の公開とは区別する。

前世代Figure 02についてFigureは、約11カ月のBMW展開で9万個超の部品、1,250時間超の稼働、3万台超のX3生産支援を公表している。BMW側も3万台超の生産支援を確認している。数字を削除するのではなく、Figure側発表値とBMW側確認範囲を明示して併記するのが適切である。

4.供給網が見えにくい理由

Figureは重要モジュールの設計と組立を内製する一方、個別サプライヤー名をほとんど公開しない。

供給網が見えにくいのは、外部部品を使わないからではなく、設計主導権とサプライヤー管理を自社で握り、企業名を非公開にしているからである。


第6章 Apptronik Apollo 2――パートナー型とデータ工場

1.資金調達と製造パートナー

Apptronikは2026年2月、Series Aの追加調達を含め総額9.35億ドル超、創業以来の総調達額を約10億ドルと発表した。

Jabilとは世界的な製造パートナーシップを結び、Apolloの量産設計と製造を進める。Mercedes-Benz、GXOなどで用途開発を行い、Google DeepMindとはGemini Roboticsで協力する。

評価額約55億ドルという数字は報道値であり、企業公式の製品仕様と分ける。

2.Apollo 2とRobot Park

2026年6月30日、ApptronikはApollo 2と、約9万平方フィートへ拡張したRobot Parkを発表した。

Apollo 2は二足歩行型と車輪型があり、物流、製造、小売などで遠隔操作と自律実行を組み合わせてデータを収集する。AustinのRobot Parkは約9万平方フィートで、同様のデータ収集ワークフローをGoogle DeepMind、Mercedes-Benz、GXOなどの拠点へ広げている。

重要なのは、Apollo 2が大規模商用販売を主目的とする完成版ではなく、実環境データを集める現在世代のプラットフォームだという点である。Apptronikは、Apollo 2で得たデータを次世代商用品Apollo 3へ直接反映すると公式に説明している。

3.計算基盤を断定しない

NVIDIAはApptronikのシミュレーションやロボットAI生態系で重要なパートナーだが、Apollo 2量産仕様の搭載Jetson型番を企業が確定公開していない限り、AGX OrinやOrin NXを断定しない。

同様に、SchaefflerやAllegroが特定部品を供給するという投資家向け分析は、公式採用情報ではない。

4.Apptronikの型

Apptronikは、ロボット設計とデータ収集基盤を自社で握り、製造はJabil、AI研究はGoogle DeepMind、現場検証はMercedes-BenzやGXOと組む。

完全内製でも単純委託でもない。「中核設計+世界的パートナー」の型である。


第7章 Agility Digit――商用データと安全を握る

1.商用展開の更新

Agility Digitは、物流・製造・流通の実顧客環境で運用経験を持つ代表的ヒューマノイドである。

最大約4時間のバッテリー運用と自律ドッキング充電を公表し、GXO、Schaeffler、Toyota Motor Manufacturing Canada、Mercado Libreなどで展開している。

2026年6月24日、AgilityはChurchill Capital Corp XIとの企業結合契約を発表した。取引前評価額は25億ドル、想定総調達額は6.2億ドル超で、2026年中の上場完了を目指す。報道では、純粋なヒューマノイド専業として初の株式公開になり、想定調達額はヒューマノイド分野で過去最大とされる。

さらにDigit v5について、一定の契約条件を前提に、複数年で3億ドル超の受注を確保したと発表した。これは2025年の資金調達報道より新しい重要情報である。

同じ発表によれば、Digitは9カ所の顧客施設への展開コミットメントを通じ、累計6万5000時間超の運用を積み上げた。3億ドル超の受注は契約上のマイルストーン達成を条件とし、直ちに同額の売上が確定したことを意味しない。顧客パイプラインは30社超としている。

2.Schaefflerとの関係

SchaefflerはAgilityの戦略的投資家・顧客・産業パートナーである。

ただし、出資関係があることと、Digitの全アクチュエータやベアリングをSchaefflerが供給することは同じではない。採用部品は公表範囲で記述する。

3.独自SEAと垂直統合

Digitは、ばねを使うシリーズ・エラスティック・アクチュエータなど、衝撃吸収と安全を重視する設計思想を持つ。

Agilityは2026年発表で、ロボット、Physical AI、ソフトウェア、安全、製造基盤を統合する垂直型プラットフォームを強調した。従来記事の「垂直統合と水平分業の中間」より、現在は安全・運用データ・製造を含む統合度を高めていると見るべきである。

製造面では、RoboFabが最大年1万台を支える設計能力を持ち、Digit部品の約75%を米国内から調達すると同社は説明している。これは部品点数ではなく調達構成に関する会社発表であり、金額比率や全モデル共通かは確認が必要である。

安全面では、Digit v5へNVIDIA IGX Thorを用い、人検出などの安全機能を独立計算経路で実行する構想を示した。NVIDIAとの提携は、単なるAI計算機の採用ではなく、安全認証を視野に入れた供給網である。


第8章 Boston Dynamics Atlas――自動車グループ型の量産供給網

1.2026年1月、Atlasが研究機から製品へ移った

Boston DynamicsはCES 2026で新しい電動Atlasを製品として公開し、Boston本社で直ちに生産を開始すると発表した。2026年分の配備枠はすでにすべて確保され、HyundaiのRobotics Metaplant Application CenterとGoogle DeepMindへ出荷し、追加顧客は2027年初頭からとする。

Atlasは56自由度、最大50kgの持ち上げ能力、約2.3mの到達範囲、マイナス20度から40度の動作温度を掲げる。自律、遠隔操作、タブレット操作に対応し、バッテリー低下時には自分で交換して作業へ戻る。

新Atlasは部品種類を減らし、各部品を自動車サプライチェーンと互換性の高い設計へ変えた。従来の高性能研究機から、製造、保守、連続稼働を前提とする産業製品へ軸足を移した。

2.Hyundai Mobisがアクチュエータを供給

供給網で最も重要な公式情報は、Hyundai MobisがAtlasのアクチュエータを供給することである。Boston DynamicsとHyundai Mobisは、信頼性の高い部品供給網と、アクチュエータの開発・生産を共同で進める。

これは、完成機メーカーが全アクチュエータを単独内製するモデルとは異なる。Hyundai Motor Groupの自動車量産力、MobisのTier 1能力、Boston Dynamicsの運動制御を組み合わせる「グループ垂直統合型」である。Hyundai側は年3万台能力の新ロボット工場計画も掲げるが、これはBoston Dynamicsの複数ロボットを含む将来能力であり、Atlas単独の2026年生産実績ではない。

3.AIはGoogle DeepMindと連携

Boston DynamicsはGoogle DeepMindとも提携し、Atlasへロボット基盤モデルを統合する。ハードウェアとAIを一社で閉じるのではなく、アクチュエータはMobis、AIはDeepMind、完成機・制御はBoston Dynamicsが握る役割分担である。

Atlasは、水平分業でも単純な外注でもない。巨大企業グループと専門企業を組み合わせた、資本集約型の連合モデルである。

第9章 1X NEO――家庭用と垂直統合工場を結ぶ

1.家庭という難しい市場を先に狙う

1XのNEOは、工場・倉庫ではなく家庭を中心市場に置く。家庭は環境が標準化されず、物体の種類、床、家具、人、ペット、会話が毎回異なるため、最も難しい用途の一つである。

柔らかな外装、腱駆動、軽量構造、人間による遠隔支援を組み合わせ、安全と学習データの蓄積を優先する。

2.HaywardのNEO Factory

1Xは2026年4月、米カリフォルニア州HaywardのNEO Factoryを公表した。約5万8000平方フィート、200人超の体制で、同社は垂直統合型の量産工場と位置づけている。HaywardとSan Carlosを合わせて年1万台までの能力を掲げ、製造自動化を進めて2027年末までに年10万台超へ拡大する計画を示す。後者は将来目標である。

ただし「能力」と「実出荷」は別であり、家庭への納入台数、遠隔支援比率、故障率、保守網を確認する必要がある。

1XはHaywardでの生産開始後、Revo2モーターを1万7000個製造したと公表している。銅線の巻線、ステーター製造、アクチュエータ組立までを自社設計設備で行う。これは垂直統合の具体例である。

同社は、工場が初期年1万台能力へ増産中で、San Carlosの新拠点と自動化により2027年末までに年10万台超を目指すとしている。ただし、現在ラインから出るNEOは主に社内開発と家庭試験へ優先配分され、顧客への大量出荷実績ではない。

3.25自由度の新ハンド

1Xは2026年7月9日、NEOへ搭載する新しい腱駆動ハンドを発表した。専用記事の本文と画像は25自由度としている。

一方、4月のNEO Factory記事は製造中のハンドを22自由度と記載し、同じ公式サイト内の一部リンク説明には24自由度も残っている。これは旧世代、関節の数え方、更新漏れのいずれかと考えられるが、1Xは差異を説明していない。

本稿では、7月9日の専用製品発表を最新仕様として25自由度と扱いつつ、公式サイト内で22・24・25の表記が併存していることを明記する。

同社は人間に近い器用さ、安全性、耐久性を主張するが、第三者の統一試験で確認された性能ではない。家庭市場では自由度だけでなく、挟み込み、表面の柔らかさ、騒音、洗浄、遠隔支援時のプライバシーまで評価対象になる。

4.AI・計算基盤

1XはRedwoodや世界モデル研究を進め、NVIDIA Isaac Sim、Isaac Lab、Jetson Thor、Blackwell GPUを学習・シミュレーション・機体推論へ利用すると説明している。

1Xの型は、柔らかな専用ハードウェア、家庭データ、遠隔支援、AIモデル、製造を自社側へ集約する垂直統合型である。

第10章 AgiBot――中国の大量出荷とプラットフォーム戦略

1.2025年出荷と2026年の1万5000台目

AgiBot(智元机器人)は、複数の人型・車輪型プラットフォーム、データ収集、遠隔操作、AIを組み合わせる中国の有力企業である。

同社はOmdia調査を引用し、2025年のヒューマノイド出荷が5,168台、世界シェア39%だったと公表した。ただし、用途、完成度、有償販売、社内配備を同じ基準で比較できるかは、調査定義を確認する必要がある。

2026年6月28日には、累計1万5000台目のロボットが生産ラインを出たと発表した。節目の機体は産業用G2だが、AgiBotの製品群には二足ヒューマノイドだけでなく、車輪型、四足、清掃機なども含まれる。したがって「ヒューマノイドだけを1万5000台出荷した」と言い換えてはならない。これは全ポートフォリオの累計生産マイルストーンとして扱う。

2.一台の万能機ではなく複数形態

AgiBotは、二足歩行、車輪型、上半身型など複数の形態を展開する。現場に階段がなければ車輪型を使い、操作が中心なら上半身型を使うことで、二足歩行のコストとエネルギーを避ける。

これは「すべてを人間型にする」より、仕事に必要な身体だけを量産する戦略である。

3.中国供給網の強みと確認点

中国のモーター、減速機、ねじ、センサー、電池、加工、組立を近距離で調達できることが強みになる。一方、個別サプライヤー、機種別の出荷、実稼働時間、故障率は十分に開示されていない。

2026年6月には、Longcheer Technologyのタブレット量産品質検査工程で、複数機が6日間・累計約100時間のライブ運用を行ったと会社側が発表した。透明性を高める試みだが、成功率、介入回数、停止時間、再作業率などの完全な第三者監査データは公表されていない。

AgiBotを見るときは、出荷・生産台数だけでなく、顧客現場で稼働した時間、介入率、再受注、保守費、学習データの蓄積を追う必要がある。

第11章 Humanoid(HMND 01)――パートナー主導の水平分業

1.Schaefflerとの大型契約

英国のHumanoidはHMND 01を開発するスタートアップである。

2026年5月、HumanoidとSchaefflerは、2032年までにSchaefflerの世界の製造拠点へ推定1000〜2000台を配備する計画を明らかにした。初期展開は2026年12月から2027年6月にドイツ2拠点で予定される。

別の5年契約では、Schaefflerが2031年まで、車輪型プラットフォーム向け関節アクチュエータ需要の半分超を優先供給し、契約期間中に少なくとも100万個規模になる見通しが示された。

これらはTesla供給網の噂と異なり、企業とReutersが契約の存在を確認した、比較的確度の高い供給網情報である。

2.Boschとの製造連携

Humanoidは2026年5月、Boschを欧州市場向けHMND 01の契約製造パートナーとする製造契約を発表した。

契約は、ハードウェア設計、生産、供給網、原価最適化を対象とするDesign for Excellenceの枠組みを含む。両社は将来のHMND 01へBosch製技術・部品を組み込む可能性も検討する。

ただし「Humanoidが何も作らない」「すべてをBoschへ丸投げする」という意味ではない。Humanoidは製品設計、KinetIQ、システム統合、顧客導入を担い、SchaefflerとBoschの量産資産を使うパートナー主導型である。

3.資本効率と依存リスク

水平分業は、自社工場へ巨額投資せず、自動車部品大手の品質・設備・保守網を利用できる。

一方、部品ロードマップ、価格、供給優先順位、設計変更速度をパートナーと調整する必要がある。内製型より資本効率は高いが、依存関係の管理が競争力になる。

4.Humanoidが示す型

Humanoidは「完全委託で丸見え」というより、主要契約を戦略的に公開する水平分業型である。

Schaefflerは部品供給者であると同時に大口導入先、Boschは製造パートナーとなる。この構造は、自動車Tier1がヒューマノイドの標準関節・量産・導入を一体で担う新しい産業モデルを示している。


補足 この10社は「網羅ランキング」ではない

本稿の10社は、垂直統合、契約製造、自動車グループ、家庭用、水平分業という供給網の型を比較するための代表例であり、世界企業の完全な順位表ではない。

2026年には、NEURA Roboticsが大型資金調達とBoschとの協力を進め、Sanctuary AI、Fourier Intelligence、EngineAI、Kepler Roboticsなども開発・導入を拡大している。したがって表題も「世界主要10社」ではなく、世界の代表10社とした。

企業数を増やすことより、同じ基準で比較できることが重要である。比較軸は、完成機の性能だけでなく、内製範囲、量産能力、実出荷、顧客稼働時間、安全認証、保守網、情報確度で統一する。


第12章 横断整理――誰がどの部品を供給するのか

1.複数メーカーへ供給する「横串」のサプライヤー

供給網を横断すると、複数のロボットメーカーへ同時に供給するサプライヤーが見えてくる。

部品企業は、特定の完成機メーカーの成否に縛られにくい。複数社へ同じ技術系列の減速機、モーター、軸受、半導体を供給できるからである。

ただし、横串供給は「同じ部品をそのまま差し替えられる」という意味ではない。関節寸法、減速比、通信、制御特性、寿命、機能安全、校正方法が異なれば、顧客ごとの再設計と認定が必要になる。

代表的な「横串」サプライヤーを、部品ごとに整理する。

【計算基盤】 NVIDIAは、Apptronikのシミュレーション・AI開発環境、Agility Digit v5のIGX Thor安全構想、1Xの学習・シミュレーションなど、複数社を横断する。

ただし、Apptronik Apollo 2の量産機へ搭載する特定Jetson型番は公表されていない。AgilityはIGX Thorを安全概念へ使うことを公式確認している。Qualcomm Dragonwing IQ10も、今後のロボットSoC供給網へ参入する。

【波動歯車】 ハーモニック・ドライブ・システムズ(日)は、高精度波動歯車の有力企業である。中国のGreen Harmonic、来福諧波なども量産力を拡大する。ただし、本文10社の個別機種への採用は、企業が公式確認した範囲だけを採用情報として扱う。

【アクチュエータ・軸受・ねじ】 Schaeffler(独)が、Agilityへの出資・協業、Humanoidへの大規模アクチュエータ供給を通じて存在感を強める。傘下のEwellixで精密直動技術も持つ。Apptronik向け特定供給は公式確認できないため除外する。

【モーター】 ニデック(日)、Kollmorgen(米)、maxon(スイス)、AMETEK(米)、鳴志電器(中)などが技術的な有力企業である。完成機メーカーが正式採用を公開していない場合、候補企業と実採用を分ける。

【視覚】 Orbbec(中)は中国製ロボット向け3D視覚で有力だが、Unitreeの全機種・全ロットでの固定採用を示す包括的な公式BOMは公開されていない。

2.二つの型の地図

ここまでの10社を、供給網の見え方で整理する。

【垂直統合・不透明型】 Figure、1X。アクチュエータ・電池・AIを内製。部品供給網は最も見えにくい。

【垂直統合・EVチェーン型】 XPENG、(Tesla)。自社開発とEV供給網の組み合わせ。透明度は中程度。

【自社開発+分解調査で判明型】 Unitree。自社関節だが、証券会社の分解調査で供給網が判明。

【上場・開示型】 UBTECH。上場企業ゆえに受注・提携が追える。

【中核設計+製造・AIパートナー型】 Apptronik。自社設計とデータ基盤を握り、Jabil、Google DeepMind、顧客企業と分担する。

【運用・安全・国内供給網統合型】 Agility。自社ハードウェア、RoboFab、Agility Arc、安全基盤、実運用データを統合する。

【自動車グループ連合型】 Boston Dynamics。完成機と運動制御を握り、Hyundai Mobisがアクチュエータ、Google DeepMindが基盤モデルを担う。

【中国の多形態・大規模生産型】 AgiBot。二足、車輪、四足、清掃機などを同じ企業群と供給網で展開する。

【パートナー主導・水平分業型】 Humanoid。Schaefflerとのアクチュエータ供給・導入契約、Boschとの契約製造を公開し、主要契約の透明度が高い。

3.供給網の透明度は「戦略の指紋」

このように、供給網の見え方は、そのメーカーの戦略を映す。

見えないFigureは、性能を握るために内製を徹底している。

主要契約を公開するHumanoidは、資本効率のために大手産業パートナーを活用している。

どちらが正しいかは、まだ決着していない。

内製は、ロードマップを握れるが、リスクも自ら背負う。委託は、資本効率が高いが、主導権を完全には握れない。

供給網の透明度は、いわば各社の「戦略の指紋」である。


4.10社を「供給網の型」で整理する

【自社設計・垂直統合を強く志向】Unitree、XPENG、Figure、1X

【中核設計+製造・AIパートナー】Apptronik、Boston Dynamics

【実運用・安全・サービス統合】Agility Robotics

【上場企業として量産・顧客開示が多い】UBTECH

【中国の複数形態・大量出荷型】AgiBot

【自動車部品大手を使う水平分業型】Humanoid

どの型が絶対的に優れるわけではない。初期開発は内製が速く、量産では外部の品質・設備が効き、導入後は保守網とデータが効く。最終的には、設計、量産、運用をどの境界で分担するかが勝敗を決める。

5.10社を同じ成熟度の物差しに置く

2026年7月時点で、10社は同じ段階にいない。

【顧客稼働データを最も明確に示す】 Agilityは6万5000時間超、Figureは前世代機でBMWにおける部品数・稼働時間・生産支援台数を示す。現場データという点では、この二社の公開情報が比較的進んでいる。

【量産ラインと社内配備が進む】 Figureは第三世代350台超、1Xは1万7000個のモーターと専用工場、AgiBotは全製品累計1万5000台を示す。ただし、完成機の外部販売、社内開発、製品形態が異なる。

【製品化・初期配備段階】 Boston DynamicsはAtlasを正式製品化し、2026年分の配備枠を確保したが、台数は公開していない。ApptronikはApollo 2の運用フリートでデータを集め、Apollo 3の商用化を準備する。

【量産目標を掲げる段階】 XPENGは2026年末の正式量産、UBTECHは大幅な能力増強を目標とする。目標達成は、年末の実生産・実納入で判断する必要がある。

【契約先行型】 HumanoidはSchaefflerとBoschによって部品、製造、導入先を先に確保した。初期展開は2026年12月以降であり、現時点では大規模稼働実績より契約構造が先行する。

【低価格・開発者生態系型】 UnitreeはR1、G1、H2で価格帯と開発者市場を広げている。販売可能性は高いが、産業顧客での長期稼働率、安全認証、保守費は別途評価する必要がある。

この分類は順位ではない。量産能力、顧客運用、安全、価格、データのどれを優先するかで評価は変わる。


第13章 日本企業から見た視点

1.横串サプライヤーとしての日本

日本企業の多くは、特定のロボットメーカーではなく、複数のメーカーへ供給できる「横串」の位置にいる。

ハーモニック・ドライブ・システムズは、世界の精密ロボット関節で有力な波動歯車企業である。ただし、Tesla Optimusへの正式採用はTeslaまたは同社の公式資料で確認されていない。

ニデックのモーター、NSK・NTN・ジェイテクト・ミネベアミツミのベアリング、THKの直動案内、玉川精機のエンコーダも、技術的には複数機へ供給できる。有力部品企業であることと、本文10社の特定機種へ正式採用されていることは分けて記述しなければならない。

一つのロボットメーカーが失速しても、別のメーカーへ供給できる。これは部品企業の強みである。

2.Schaefflerという競合モデル

注目すべきは、独Schaefflerの動きである。

Schaefflerは、ベアリングと精密部品の大手でありながら、Agilityへ出資・協業し、Humanoidへ大規模にアクチュエータを供給する。さらにNEURA Roboticsの中四桁規模、Hexagon Roboticsの少なくとも1000台を、自社生産網へ導入する計画も持つ。

CEOは2026年5月、世界で約45社のヒューマノイド企業と協業し、すでに5件の顧客契約があると説明した。2030年までに数億ユーロ規模の受注残を目指す一方、2025年のヒューマノイド関連売上はグループ全体の1%未満である。

つまりSchaefflerは、現在の売上規模はまだ小さいが、部品供給者、共同開発者、投資家、導入ユーザーを同時に担う。「ユーザー兼サプライヤー」として標準を取りに行く戦略である。

これは、第1回(アクチュエータ)で述べた「部品からプラットフォームへ」という方向そのものである。

日本の部品企業も、単体販売から、統合関節やシステム供給へ進めるかどうかが問われている。

3.日本の機会

供給網が多様化するいま、日本企業には二つの機会がある。

第一に、垂直統合型のメーカー(Figure、XPENG、Unitree)へ、高品質な要素部品を供給する。

第二に、水平分業型のメーカー(Humanoid型)へ、Schaefflerのように統合アクチュエータやシステムを供給する。

前者は既存の強み、後者は新しい挑戦である。

Optimus以外のヒューマノイドが増えるほど、供給先は多様化し、日本企業の機会も広がる。

問われるのは、部品単体の品質だけでなく、統合し、システムとして供給できるかである。


まとめ

Optimus以外のヒューマノイドの供給網は、メーカーの戦略によって「見え方」が大きく異なる。

詳しい情報が得られる理由は異なる。Unitreeは分解調査、中国EVメーカー系は証券会社調査、HumanoidはSchaeffler・Boschとの主要契約公開によって供給網が見えやすい。

逆に、Figureや1Xのような徹底した垂直統合型は、供給網が最も見えにくい。これは情報不足ではなく、内製を徹底した戦略の結果である。

その中間に、XPENG(EVチェーン垂直統合)、UBTECH(上場・開示)、Apptronik・Agility(産業パートナー型)が位置する。

供給網を横断すると、NVIDIA、Schaeffler、ハーモニック・ドライブ・システムズ、ニデックのように、複数メーカーへ供給する「横串」サプライヤーが見えてくる。

彼らは、特定のロボットメーカーの成否に縛られない。だからこそ、ヒューマノイド全体が伸びれば、恩恵を受ける。

日本企業も、この横串の位置にいる。

ただし、Schaefflerが部品単体からアクチュエータ・システム供給へ進んでいるように、日本企業も「部品からプラットフォームへ」進めるかが問われている。

Optimusは、ヒューマノイド供給網の一つの断面にすぎない。

Unitree、XPENG、UBTECH、Figure、Apptronik、Agility、Boston Dynamics、1X、AgiBot、Humanoid――10社の供給網を並べると、この産業がまだ一つの型に収束していないことが分かる。

垂直統合か、水平分業か。内製か、委託か。

その選択が、各社の供給網の透明度に、そのまま表れている。

そして、その多様な供給先すべてに部品を届けられる企業こそが、ヒューマノイド時代の勝者になる可能性がある。


シリーズ総括――ヒューマノイドを「完成品」ではなく産業として読む

全6回で見てきたように、ヒューマノイドは一台のロボットではない。

関節、減速機、手、触覚、視覚、AI計算機、リアルタイム制御、電池、冷却、骨格、配線、安全、保守、データ、工場を結ぶ巨大な産業システムである。

第1回から第4回では、機体を部品と技術へ分解した。第5回ではTesla Optimusを通じて、工場の設計能力と実生産、候補サプライヤーと正式採用、原価推計と公式原価を分けた。

最終回で分かったのは、世界の企業が同じゴールへ、異なる供給網で向かっていることである。

Unitreeは共通部品を複数価格帯へ広げる。XPENGはEVとAI半導体をロボットへ転用する。UBTECHは工場実証と上場企業の資本市場を使う。Figureと1Xは重要部品の設計・製造を深く内製する。

ApptronikはJabilとGoogle DeepMindを組み合わせ、Agilityは顧客稼働データ、安全、国内供給網を統合する。Boston DynamicsはHyundai Motor GroupとGoogle DeepMindによる企業連合を作る。

AgiBotは多形態の製品群を中国供給網で大量生産し、HumanoidはSchaefflerとBoschの既存量産力を使う。

この時点で、垂直統合と水平分業のどちらが最終勝者になるかは決まっていない。

しかし、判断基準は明確になった。

設計能力ではなく良品生産台数を見る。注文数ではなく納入と稼働を見る。デモ時間ではなく顧客現場の累積時間を見る。自由度ではなく故障率と修理時間を見る。候補サプライヤーではなく正式契約を見る。

そして、一台の機体価格ではなく、仕事一件当たりの総保有コストを見る。

日本企業に必要なのは、「どの完成機メーカーが勝つか」を当てることだけではない。複数の方式へ接続できる関節、センサー、安全制御、電池、熱、保守の共通プラットフォームを作ることである。

完成機メーカーが入れ替わっても使われ続ける部品とシステムを握る。

それが、ヒューマノイド時代に日本が取るべき最も強い位置である。


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