緑のボルシチと、顔のない人形― ヘキストの マヴカで ―
グーテンターク!皆さまこんにちは。
フランクフルトのYokoです。
今日は仕事帰りに同じ部の同僚たちと
フランクフルト・ヘキストにある
ウクライナ料理のお店 Mavka へ行きました。

観光地の中心部ではなく、
夜になると通りが少し静かになる場所。
けれど店の中には、人の気配とあたたかさがありました。
最初に運ばれてきたのは、緑色のスープ。
緑のボルシチです。

赤いビーツのボルシチは知っていましたが、
これは野草のスイバを使った春のボルシチ。
ほうれん草とは違う、きゅっとした酸味が印象的でした。
スイバは、フランクフルト名物の
グリューネ・ゾーセ(緑のソース)の七草の一つとして以前から馴染みのある味です。
でも、スープとしていただくのは初めてでした。
溶き卵のやさしさと、サワークリームのまろやかさ。ほどよい酸味がとても心地よく、
ふわふわパンプシュカを一緒に食べると、
思わずもう一口、と手が伸びます。
「元気を出す」というより、
「回復する」ための料理。
そんな言葉が浮かびました。
続いていただいたのは、
水餃子のような ヴァレーニキ。

中身はじゃがいもやキャベツのミックスで、
ディルの香りと、バターで炒めた玉ねぎ。
家庭の台所を思わせる優しい味が、しみわたります。器もおしゃれでした。
そのあと、ウクライナ人の同僚が
「よかったら、みんなで少しずつ」と頼んでくれたのがキーウ・カツレツです。

衣の中にはチキンが入っていて、
切るとハーブバターがじんわり広がります。
自分の国の料理を、
誇らしげに語るでもなく、
説明を求めるでもなく、
ただ自然に分けてくれる。
その彼女の気持ちがふるまいに表れてとてもありがたく、嬉しかったです。
Mavka の店内は、全体としては新しく、デザインもとてもモダンでした。
けれど、よく見ると、窓辺に人形がそっと置かれていました。

最初は気づかずにいたのですが、
ウクライナの同僚がこれはモタンカ といい
ウクライナの伝統的なお守り人形ですと教えてくれました。
顔を作らないのは、
特定の誰かにならないためで、
だからこそ、置かれた場所の空気を整え、よい気を巡らせる存在なのだと教えてくれました。
とても丁寧に作られた衣装が、
言葉の代わりに、土地や祈りを語っているようでした。
顔のないその姿は、
どこか『千と千尋の神隠し』に出てくる
カオナシを思い出させましたが、
ただ、モタンカは奪ったり、何かを欲しがる存在ではなく、その場を静かに守る存在のようです。
Mavkaという店名が精霊の名前であること、
そして顔のない人形が静かに置かれていること。
新しさの中に、伝統的な心象風景を大切に抱えたまま、いまの形で息づかせている――
レストランはそんな空間に感じられました。
帰宅後、モタンカについてもう少し知りたくなり、いくつか調べてみました。
その中で、作り方や意味、背景まで丁寧に紹介されている日本語のサイトに出会いました。
モタンカがなぜ「縫わずに巻いて作られるのか」、なぜ「顔を持たないのか」。
そこに込められた考え方を読むことで、
あの窓辺の人形が、さらに立体的に感じられるようになりました。
興味のある方は、こちらもおすすめです。
👉 モタンカについての解説(aitsugi handmade)
食事を終えたあと、店名の Mavka も気になって、少し調べてみました。
Mavka(マヴカ)は、
ウクライナの民話や文学に登場する
森や自然に宿る女性の精霊だそうです。
人の姿をしていながら、人ではない存在。
自然と人のあいだに立ち、
恵みをもたらすこともあれば、
傷つけば、静かに森へと戻っていく――
そんな存在として描かれています。
自然を征服するものではなく、
敬い、ともに生きるものとして捉える感覚。
それは、日本の山や森の神話、
里山の精霊の考え方にも、
どこか通じるものがあるように感じました。
料理やモタンカを通して感じた
ウクライナの静かな強さややさしさが、
この マヴカという存在を知ったことで、
一本の線につながったような気がしました。
その夜、
お腹がいっぱいになっただけではなく、
心まで満たされていたのは、
きっとそのせいだと思います。
ヘキストの小さなレストランで、
ウクライナの深い精神世界の
ほんの一端をのぞかせてもらった夜でした。
それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました!
Bis dann! Tschüss!
ビスダン、チュース!😊


