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【試し読み】戸塚純貴・くどうれいん『登場人物未満』第1話全文公開

連続テレビ小説『虎に翼』の轟太一役で一躍注目を集め、その勢いが止まらない俳優・戸塚純貴。そして、小説やエッセイ、短歌などで幅広く活躍し、『コーヒーにミルクを入れるような愛』『日記の練習』など、自著の重版が続く注目の作家・くどうれいん。
岩手県盛岡市出身の、新進気鋭の2人がタッグを組んだ書籍『登場人物未満』は1月29日(水)に刊行します。

今回は刊行に先立ち、特別に第1話「だんちゃん」を全文公開。写真と文章で紡がれる物語をお楽しみください。

『登場人物未満』とは?

本とコミックの娯楽誌『ダ・ヴィンチ』で2023年から約1年ほど連載された本企画。
各所で撮影された戸塚の写真を元に、くどうがショートストーリーを執筆。2人が紡ぎ出す「この街のどこかにいるかもしれない人たち」の物語が描かれます。


『登場人物未満』試し読み

# 1  だんちゃん


「だんちゃん」
 そのひとはたしかにわたしの目を見てそう言ったが、わたしの名前はゆりだった。
「……ゆりです」
「ううん。階段に居たから、だんちゃん」
 制服のバッジはⅢだった。三年だ。ということは、先輩だ。いつもわたしがひとりで昼食を食べている非常階段の踊り場に、先輩は突然現れた。先輩は学ランのボタンをきっちり上まで留めているのに、袖からオレンジ色のインナーが鮮やかに見えていた。すらっと背が高く、明るい顔立ちの男のひと。好奇心と、それと同じくらいの諦めを宿したようなやけに潤った瞳で、先輩はもう一度「だんちゃん」とわたしに言った。
「踊り場の守り神、だんちゃん」
「ちがいます」
「いまだけ守り神ってことでいいじゃない」
「……なにしに来たんですか」
「デッサン。おれ階段が好きでね。卒業するまでにこの学校の全部の階段を描いておきたくなって。あと六か所でコンプリートなの」
 先輩はわたしの二段上に腰かけて胸ポケットから出したメモ帳にデッサンをはじめた。へんなひと、と立ち去ることもできたはずなのに妙に気になってしまい、わたしはその間できるだけ咀嚼音を気にして残りのサンドイッチを食べ終えた。きゅうりを噛むときがいちばん緊張した。どうしてここで昼食をたべるのか、いつもひとりでこうしているのかなんて先輩は聞かなかった。彼の興味はすべてこの均等な段差を描く鉛筆の先にあって、わたしにはない。それが分かる目をしていた。二十分もすると、「よし」と先輩は立ち上がった。
「もう描けたんですか」
「描けたということにした。人生には終えていなくても終えたとするのが大事なこともあるんだよ」
「……見てみたいです」
「ごめん、おれ、そんなに画力ないから、どの階段を描いても同じようにしかならない」
 わたしは口を大きく開けて笑った。先輩は結局デッサンを見せてくれなかったけれど、別に良かった。
 先輩は卒業後上京したらしいと噂で聞いた。あの捉えどころのない瞳の人間がはたして東京で暮らしていけるのか、わたしは勝手に心配している。でも、もしかしたら先輩みたいな人を受け入れる街こそが東京なのかもしれない。
 わたしは社会人四年目になった。いまもここで暮らしている。たまに事務仕事をしていてどうしても眠気に耐えられないときに、会社の非常階段へ行ってストレッチや大あくびをすることがある。一通りからだを動かして、仕方ない、戻るか。きん、と冷えた手摺を摑む。その瞬間、「だんちゃん」と呼ばれた気がして、振り返りたくなってしまう。
 先輩、げんきですか。きっと描ききれないほどたくさんの階段がある東京には、踊り場の数だけ守り神がいることでしょう。

(他のストーリーは、ぜひ本書でお楽しみください)

写真:干川修


書誌情報

書名:登場人物未満
モデル:戸塚純貴 文:くどうれいん
発売日:2025年1月29日(水)
定価:1,870円 (本体1,700円+税)
ページ数:160ページ
判型:四六判並製 単行本
ISBNコード:9784041155134
発行:KADOKAWA
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322407000669/

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著者プロフィール

戸塚純貴
俳優。1992 年7 月22 日生まれ、岩手県盛岡出身。2011 年ドラマ『花ざかりの君たちへ~イケメン☆パラダイス2011』で俳優デビュー。連続テレビ小説『虎に翼』轟太一役で話題に。近年の出演に、ドラマ『だが、情熱はある』、映画『スオミの話をしよう』ほか。1月スタートの日本テレビ『アンサンブル』、テレビ朝日『ホンノウスイッチ』に出演。

くどうれいん
作家。1994 年11 月10 日生まれ、岩手県盛岡出身。著書にエッセイ集『わたしを空腹にしないほうがいい』『うたうおばけ』『桃を煮るひと』『コーヒーにミルクを入れるような愛』などがある。初の中編小説『氷柱の声』で第165 回芥川賞候補に。現在、『群像』にてエッセイ「日日是目分量」ほか連載多数。


イベント情報

本書でショートストーリー&エッセイの執筆を担当されたくどうれいんさんのサイン会が三省堂書店有楽町店で行われます! 限定のポストカードも配布されます。
ぜひこの機会にご参加ください!

イベント詳細

三省堂書店有楽町店
『登場人物未満』刊行記念くどう れいん さんサイン会(先着順)

日時:2025年2月2日(日)13:00~
会場:東京都千代田区有楽町2-10-1 東京交通会館 1・2F

参加申し込み受付中!
詳細はこちら(https://eventregist.com/e/rGsDA7A8RFPL
※終了日時にかかわらず定員に達し次第終了